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Let's travel!! 第94話

 縛られることに慣れて来ると、縛っている時の麻生の手元を見るのが割と楽しい。  よくまぁこんなにいろんな縛り方が出来るもんだな……  縄が擦れる音も何となくリズミカルでちょっと心地いい。  体勢的にキツイものもあるが、変に抵抗しなければ大丈夫だ。  見た目ほど痛くないので、何となくうつらうつらしていると、部屋をノックする音がした。 「な、なあ、ノックの音聞こえねぇ!?誰か来たんじゃね?っていうか、奥さんかも!?」  ちょっ、いくら仮面夫婦っつっても、さすがに旦那がこんなところで見知らぬ男を縛ってるなんて知ったら、奥さん気分悪いだろ!?  夫婦喧嘩に巻き込まれるのはごめんだぞ!? 「それはないよ。彼女が何か用事で部屋に来るなら、まずは連絡してくるはずだ。僕は誰も呼んでないから、酔っ払い客が部屋を間違えたんじゃないかな。気にしなくていいよ」 「いや、気にしろよ!?ずっとノックしてるじゃんか!部屋間違えてるなら、間違えてるって教えてやれよ!!」 「え~?今いい所なのに……仕方ないなぁ……」  麻生はため息を吐くと、入口に向かった。  オレはベッドの上でガチガチに全身縛られた状態で転がされていた。  せめて起こしていってくれねぇかな~……あ、でもこの縛り方だと座れねぇか。  こんな姿もし誰かに見られたら…… 「どなたですか?」 「――……」  麻生が誰かと話している声が聞こえたが、相手の声はよく聞き取れない。  ホテルって同じような部屋ばっかりだから、酔っ払ってたら間違えるよな~……  オレが呑気にそんなことを考えていると、何やら入口の方でもめる声が聞こえて来た。 「退けっ!いるのはわかっているんだ!綾乃!どこだ!?」  聞きなれた声がだんだんとベッドに近付いてきた。 「え?ゆ、由羅っ!?」 「……綾乃?何やってるんだ?」 「え、ちょ待って、オレ今そっち向けねぇんだけど!?あの、これはその……」  オレはちょうど入口に背を向ける恰好で転がされていて、全身縛られていたので、振り返れない。  よって、背後にいる由羅を見ることが出来ないのだ。    莉奈曰く、『見えなくて良かったと思うわよ?あの時の兄ったら、スゴイ怖い顔してたもの』らしい…… 「由羅、ちょっとこれ(ほど)いて!」  オレはとりあえず、由羅に縄を解いてもらおうと助けを求めた。 「解いてと言われても、どこがどうなってるんだ?」 「オレにもわかんねぇけど……」 「あああああっ!!ちょっと、勝手なことしないでっ!!下手な解き方すれば絡まっちゃう!もぅ!僕がやるから退いて!!」  麻生がすっ飛んで来て、オレの背後で由羅と揉めている気配はしたが、ほどなくして縄は解かれた。  いろんな格好に縛られていたので、さすがにちょっと関節とかが痛むものの、縄の痕は残っていなかった。 「由羅、ありが……ぅえ!?」  振り返ると、由羅だけではなく、ホテルのスタッフらしき人も何人かいて、女性スタッフが眠っている莉玖を抱っこしていた。 「言っておくけど、別に何もやましいことはしてないからね!僕は綾乃くんに練習に付き合ってもらってただけで……」  麻生が、驚いて呆けているホテルのスタッフや由羅に自分の名刺を渡した。   「緊縛師……でございますか?」  スタッフが名刺を見て更に困惑する。 「そう、縄師ともいうけどね。亀甲縛りとか聞いたことくらいはあるでしょ?SMプレイで使われる緊縛は誰でも出来るものじゃないんだ。素人がやれば相手を怪我させちゃうし、身体に縄の痕を残しちゃうから……」 「縄師の説明などどうでもいい!なぜ綾乃を縛っていたんだ!?」  由羅が麻生に詰め寄る。 「え?ちょうど大浴場で会って……まぁいろいろあって仲良くなったから、練習に付き合ってもらっていただけだよ。きみが、綾乃くんの雇い主?いくら雇い主だって言っても、夜まで綾乃くんの時間を縛り付けるのはどうなの?」 「縛り付けてなどいない!」 「なら別にどこで誰と何をしてようが関係ないでしょ?わざわざこんなスタッフまで引き連れて来なくても……まるで僕が犯罪者みたいじゃないか!」 「すぐに戻ると言っていたのに、1時間も2時間も戻って来なければ何かあったのかと心配するのは当たり前だっ!!」 「え~?……あ~……そうか。きみって……なるほどね~、なんだそうなのか」  麻生が由羅とオレを交互に眺めて、ひとりでなにやら納得する。 「それは悪いことしたね。でもきみ、まだ一方通行でしょ?僕も綾乃くんのこと気に入ってるんだけどな~……まぁ、いいや。もし上手くいったら、いつでも緊縛してあげるから、プレイしたくなったら呼んでよね」 「必要ないっ!!二度と綾乃に近付くなよ!?次またこんなことをすれば、然るべき措置をとらせてもらう!行くぞ、綾乃っ!」 「え、あ、うん」  状況が読めずにポカンとしていたオレは、由羅に腕を引っ張られて、慌てて立ち上がった。   「またね~綾乃くん」 「へ?」  麻生の横を通り過ぎる瞬間、麻生が耳元でボソリと呟いてにっこり笑った。  また? 「綾乃!」 「あ、は、はいっ!」  オレは麻生に何か言う前に、由羅に引っ張られて部屋の外に連れ出されていた。   ***

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