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Let's travel!! 第95話
「なんていうか、本当にいろいろとお騒がせしましたっ!!」
部屋に戻ると、オレはホテルのスタッフに深々とお辞儀をして莉玖を受け取った。
オレが縛られている間に何が起きていたのかはよくわからないが、どうやら今由羅と話しているのはホテルの偉い人らしいので、かなり大事 になっていた……というのは、鈍いオレにもわかる。
っていうか……オレのあんな恰好をスタッフ に見られたことがショックすぎる……いや、身内に見られるのはもっとイヤだけど!!
オレは莉玖を抱っこしてあやしながら、そそくさと寝室に逃げ込んだ。
よほど疲れていたのか、莉玖はそんな中でもぐっすりだった。
オレが莉玖の体調やオムツを確認してベッドに寝かせていると、扉の閉まる音がして由羅が寝室に入って来た。
「莉玖は?」
「あ、えと、ぐっすり寝てる」
「そうか……じゃあ、ちょっとこっちに来い」
「え、でも莉玖を置いたままは……」
「……ここじゃ話せないだろう!?」
「……はい」
オレは莉奈に目配せをして、莉玖を見ているよう頼むと、由羅の後に続いた。
***
「座れ」
「はい!」
「どこに座っているんだ!?椅子があるんだから普通に椅子に座れ!」
オレが床の上で正座をすると、由羅が椅子を指差しながらちょっと声を荒げた。
え、だってお説教じゃねぇの?椅子の上で正座すんの!?
「正座はしなくていい!」
「あ、はい……すみません……」
オレは急いで立ち上がり、由羅の向かい側の椅子に座った。
「それで……何があったんだ?」
「え……っと、ごめんなさい……」
「何があって、どうしてあんなことになったのかと聞いてるんだ!」
「あの……だから、ジュースを買いに行って……」
ジュースを買いに行って麻生に譲って貰ってから、麻生の部屋に行くに至った経緯を話す。
「……綾乃?私は大浴場であの男に会った時に、お前になんと言った?」
若干呆れ顔の由羅が深いため息を吐くと、眉間に皺を寄せてオレを見た。
「え?あ~、えっと……気を付けろよ?」
「気を付けたか?」
「いや、最初はジュース譲ってくれたし、お前が言うみたいにいちゃもんつけて来るような様子もなかったし……いい人だなって……」
「いちゃもん?私はそんなこと言ってないぞ?」
由羅が一瞬思い出すように視線を泳がせた。
「だって、あいつがオレを狙ってるって……」
「あ~……あれはそういう意味じゃないと言っただろう!?」
「じゃあどういう意味だよ!?」
「というか、お前は子どもに“知らない人について行ってはいけない”と教えないのか?」
由羅が幼い子供に言い聞かせるように、ゆっくりと話す。
「はあ?そりゃ教えるけど?」
保育園でも防犯について子どもに話をする。
親とはぐれた時や、外で遊んでいる時に知らない人に誘われても、絶対について行かないように……と。
「だったら、教える立場のお前が知らない人にホイホイついて行ってどうするっ!!」
「え?いや、オレはついて行ったわけじゃ……あ、部屋にはついて行ってるけど、オレは廊下で待つって言ったし!!でもあいつに引っ張られて……」
「部屋の前までついて行った時点で、引っ張り込んでくれと言っているようなものじゃないか!そもそも、あんな男について行くな!!」
「ぅ……すみません……」
だけどさぁ……一応オレは男だぞ?
誘拐されるほど金持ってるわけでも、いたずら目的で連れて行かれるほど容姿がいいわけでもねぇし!!
だいたい、まさかあいつがあんな変なことしてくるとか思わねぇじゃんか!?
「だから、狙われてるぞって言っただろう!?縄師に目をつけられるってことはああなるってことだ」
だって、あいつが縄師だとか知らねぇし……って、
「え……?ちょっと待って?由羅はあいつが縄師だって知ってたのか?」
「まあな。以前伯父の誕生日パーティーでSMショーをしているのを見た」
「……は?」
今、なんて……?誕生日パーティーでSM……?
「身内だけの誕生日パーティーならまだしも、仕事関係の人間をたくさん招いてのパーティーでそんなショーをするあたり、あの伯父らしいとは思ったが……私は興味がなかったのでショーが始まる前に帰ったが、その際に廊下で待機していた彼をチラッと見た」
「チラッと見ただけで覚えてたのか!?」
「名前は知らないが、顔は覚えていたな」
だから、大浴場でオレが麻生と話してた時に、やけに慌てて間に入って来たのか。
「すげぇな……」
由羅の記憶力半端ねぇな……
「おい、綾乃!感心している場合じゃないだろう!?」
「あ、はい!すみませんでした!!オレが軽率でした!」
麻生の職業を知らなかったにしろ、たしかに今回は危機感が足りなかったかもしれない……
オレはこの後、たっぷり30分ほど、由羅のお説教&防犯教室を受けることになった。
***
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