97 / 358

Let's travel!! 第97話

 チェックアウトの時には、また支配人が出て来て由羅としばらく話し込んでいた。  由羅が何度か頭を下げていたので、おそらく昨日のことを話しているのだと思う。  オレのせいで由羅に頭を下げさせているのかと思うとちょっと胸が痛い。  雇い主に頭下げさせて何やってんだオレ……  ホテルを出る時には、オレも支配人やスタッフに何度も頭を下げた。  まぁ、目を合わせられなかったっていうのもあるけど…… 「綾乃、ちょっと寄り道していいか?」 「え?いいけど、どこに?」 「すぐそこだ」  寄り道も何も、そもそも今回の旅行の詳細は由羅に任せっきりなので、動物園とお寺以外の予定は全然わからない。  まぁ、今日はもう帰るだけなのだろうと思っていたので、多少の寄り道をするくらいどうってことないと思うが…… 「莉玖~、寄り道だってさ!どこに行くんだろうな~!」 「な~!」  昨日たっぷり寝たので、莉玖はすっかり元気になって、今朝もたくさん食べてご機嫌だ。  ひとまず……昨日のあられもないオレの姿を莉玖に見られなくて良かったあああああ!!!  いや、服は着てたけどな!?でも、やっぱり……ほら、教育上よろしくないっつーか……  莉玖にはまだ早いっ!! 「着いたぞ」 「え、早っ!!」 「すぐそこだと言っただろう?」 「そうだけど……って、なにここ。海?」 「海だな」  由羅が車を停めたのは、ホテルからすぐ近くの海岸沿いの駐車場だった。  広い砂浜があるので、夏場は海水浴に来る人が多そうだ。  今は真冬なのでさすがに泳いでいる人はいないが、それでも数人が砂浜を散歩していた。 「莉玖~!海だぞ~!」 「う~?」 「う~み~!」  莉玖を抱っこして砂浜に下りる。  莉玖は波の音や、波打ち際の寄せてはひいていく波に興味津々だった。 「お水冷たいから、今は見るだけにしておこうな」  晴れているとは言え、水は冷たいし風が強いので結構寒い。 「み~」 「お、ほらほら、波がきた~!逃げろ~!」 「きゃー!あ~の!み~!」  オレが莉玖を抱っこして、波打ち際で波と戯れていると、由羅がその様子を写真に撮っていた。 「あ、莉玖!パパの方見て?ほら、あっち!」 「パッパ~!」 「り……あ!綾乃!後ろ!!」  莉玖に手を振り返そうとした由羅が、焦った顔で叫んだ。 「え?……ぅわっ!!」  由羅の方を向いている間に、これまでよりもでっかい波が来たらしく、波打ち際からだいぶ離れていたのに足元まで波が迫って来ていた。  慌てて飛び退いたので、靴はギリギリ濡れずに済んだが、砂に足をとられてよろめいた。  あ、やべっ! 「おっと……大丈夫か?」  転びそうになったので、莉玖を潰さないように身体を捻ろうとした時、由羅がちょうど受け止めてくれた。  由羅ナイス~!!  莉玖がケガしなくて良かったぁ~……  オレがホッと安堵していると、由羅が莉玖の頭を撫でながらため息を吐いた。 「気を付けろよ」 「すみません……」  はい、もうオレ昨日から謝ってばっかり……ひぃ~ん…… 「綾乃、今の転び方はケガするぞ?」 「あ、うん……ごめん……莉玖を抱っこしてるのに注意力が足りなかった……」 「そうじゃない!今の庇い方だとお前がケガをするって言ってるんだ」 「は?」 「もちろん、莉玖を抱っこしたまま転ぶのは危険だから転ばないようにするのが一番だが、お前の場合、もうちょっと自分も大事にしろ!」 「え、あ……はい、すみません」  そんなこと言われても、オレ頭悪ぃから、とりあえず莉玖がケガしないように庇うので精一杯だし…… 「咄嗟に莉玖を庇ってくれるのはありがたいが、せめて受け身を取ってくれ。ここは下が砂だからいいが、アスファルトの上だと頭を打つぞ」 「オレ石頭だから多少は大丈夫だぞ?ほら、初めて会った時も……」  初めて莉玖や由羅に出会った時、オレは莉玖を助けるためにスライディングをして勢い余って頭をぶつけたのだが、その後も全然異常はなかった。 「綾乃?ヘルメット被るか?」 「なんでだよ!?」 「お前が自分で自分を守る気がないんなら、帽子代わりに外出時はヘルメットを被ることって契約内容に書き足すぞ?」 「ぅええええ!?ヤダヤダ!それはイヤだ!!守るっ!守ります!!」  やべぇ!!由羅の目がマジだ!!  オレは全力で拒否して、自分自身も守るように約束をした。 「よし。それじゃあ、そろそろ行くか。風が強いからあまり長時間いると莉玖が風邪を引く」 「ふぇ~い……あ、写真撮れたか?」 「ん?あぁ、撮れた」 「後で見せてくれ」 「車に乗ったらな」 「やった!莉玖~、後で写真見ような~!」 「み~!」 「海にバイバ~イって!」 「あ~い!」  オレは莉玖と一緒に海にバイバイと手を振って車に戻った。 ***

ともだちにシェアしよう!