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Let's travel!! 第102話
「到着~!」
「綾乃、莉玖を連れて先に入ってろ」
「はーい!あ、由羅、洗濯物出すから荷物はリビングに持って行ってくれ」
「わかった」
オレは眠っている莉玖を連れて先に家に入った。
ベビーベッドに寝かせてリビングに戻ると、由羅が荷物を運んできたところだった。
「荷物はこれで全部だ」
「ああ、ありがと。由羅、もうお湯入ってると思うぞ」
「わかった、入って来る」
由羅がお風呂に入っている間に、旅行鞄から着替えを取り出し洗濯カゴに放り込んでいく。
洗濯物の仕分けが終わると、リビングに戻って由羅家で食べる用に買ったお菓子と杏里から貰ったお土産を取り出した。
意外と道路が空いていて予定よりも早く帰って来ることができたので、途中、杏里の家に立ち寄ってお土産を渡して来たのだ。
その際に、年末年始と海外に行っていたという杏里からもお土産を貰った。
海外旅行か~……オレ行ったことねぇんだよな~……
いつかは、母親のところに遊びに行きたいとは思うが……今のところは全然その予定はない。
「まだ食うのか?」
意気揚々とお土産の包装を破いているオレを見て、風呂上りの由羅が驚いた顔をした。
「え?いやいや、さすがにもうお腹いっぱいだし、こんな時間に食わねぇよ。そうじゃなくて、ゼリーとかチョコレートとかは冷蔵庫に入れておいた方がいいかなと思ってさ」
冬だから外に出していても大丈夫だとは思うが、食べる時にある程度冷えていた方が美味しいし?
「ああ、なるほど……綾乃、風呂は?」
「オレはさっき莉玖たちと入ったからいいよ」
お土産を渡してすぐに帰るつもりだったのだが、オレが杏里の子どもたちに捕まってしまい、結局、杏里の家で晩御飯をご馳走になって、子どもたちと一緒にお風呂も入って来たのだ。
由羅にお茶を出して、お土産のお菓子を冷蔵庫に放り込んだオレは、歯磨きをして一度自分の部屋に戻った。
***
「綾乃?」
「へ?な、なに!?」
突然由羅の声がしたので、オレは驚いて戸惑いつつゆっくりと振り向いた。
「……なんで裸なんだ?」
むしろ、なんでお前はオレが裸の時に限って来るんだよ!?
「着替えてたんだよっ!杏里さんのところで風呂には入ったけど、着替えの服はもうなかったから……」
「あぁ、そういうことか。早く服を着ろ。風邪ひくぞ?」
「わかってるよ!!っつーか、なんで入って来てんだよ!?」
由羅が当然のように部屋に入って来たので、オレは慌てて服を着た。
「いや、部屋にいなかったからどうしたのかと思ってな」
「あぁ、ごめん。着替えたらすぐに戻るつもりだったんだけど……」
「そうみたいだな」
「……えっと、何か用?」
ん?オレが莉玖を一人にして部屋に戻ってたから怒ってんの?
「綾乃、昼間の件だが……」
「え?あ!あのさ、マジでオレは麻生なんて呼んでねぇぞ!?」
「あぁ、それはもうわかった。麻生も本当に偶然だったと言っていたしな。……そうだ、ちょっと携帯出せ」
「は?」
なんで携帯?
よくわからないまま携帯を渡す。
「見ていいか?」
「え、あ、うん」
由羅が何やら弄っていたが、ピタっと指を止めて舌打ちをした。
は!?舌打ちした!?
ちょ、何!?オレの携帯に舌打ちされるようなもの入ってたっけ!?
え?何かエロ画像とかあった?いや、そんなのオレ持ってないはずだけど!?
「綾乃、これは?」
「え?」
由羅が見せて来たのは、アドレス帳の画面。
なんだよ、アドレスか~……ん?っつーか、名前が……
「え~と?『愛しのダーリン』……って誰?」
「お前の携帯だが?」
「オレは入れてねぇぞ!?っつーか、オレそんな意味不明な名前で登録したことねぇし!!」
オレは携帯に登録する時は大抵、名字だ。
同じ名字でややこしいやつだけ、フルネームで入れている。
まぁ……そもそも登録人数自体少ねぇけど……
「だろうな。麻生が自分で入れたんだろう」
「え!?これ麻生のアドレスなのか!?」
「そうだ。昨日渡された名刺に書いてあったのと同じだから間違いないと思う」
昨日渡された名刺って、由羅ほとんど目を通さずに破り捨ててなかったっけ!?
一瞬で覚えたってこと!?
「っていうか、オレあいつのアドレスなんて登録した覚えねぇぞ!?」
「麻生が携帯触っただろう?」
「はい?……あっ!!」
考えてみれば、麻生に勝手に電源を切られていたのだから、その時に入れられていてもおかしくはねぇけど……
普段、オレの携帯に連絡してくるのは由羅か杏里さんくらいなので、由羅といる時はほとんど携帯を触らない。
だから、麻生のアドレスが入っていることなんて全然気づかなかった……
「あいつのアドレス拒否しておいていいか?」
「え?あ、うん!しておいてくれ」
「わかった」
全く!勝手にアドレス入れるとか、あいつホントに油断ならねぇな!!
「ほら、これで大丈夫だろ」
「あ、ありがと。じゃあ、あっちに戻るか。莉玖ひとりだし……由羅?」
由羅から携帯を受け取ってポケットに入れつつ部屋を出ようとしたが、由羅がベッドに腰かけたまま動く気配がないので、オレは微妙な恰好で立ち止まった。
「え~と……戻らねぇの?」
「ちょっと話しをしないか?」
「はい?あの、あっちの部屋じゃできねぇのか?」
別に話ならいつも由羅の部屋でしてるじゃんか?
「まぁ出来ないわけじゃないが……」
いまいち歯切れが悪い。
莉玖の前じゃあんまりしたくない話?
「あ~……えっと、とりあえず、一回莉玖の様子見てきていいか?」
「あぁ」
オレはひとまず部屋から出て莉玖の様子を見に行った。
やだああああああ!!!何ですか!?何の話!?
もしかして、また麻生について!?昨日のお説教の続きですか!?
……それしかねぇよな~~……たった今も携帯にあいつのアドレスが入ってたことに気付かなかったし?
正直由羅のお説教はウザいとは思ったが、せっかくの楽しい家族旅行を台無しにしてしまったのはオレだ。
麻生については全面的にオレが悪いので怒られても仕方がない。
「っつーわけで、今からまたお説教タイムだから、しばらくの間、莉玖のこと頼むわ……」
莉玖の様子を確認すると、オレは莉奈に引き続き莉玖の見守りを頼んだ。
『あらまぁ、お説教タイムねぇ……うふふ、わかったわ。頑張ってね~!』
オレはなぜかやけに嬉しそうな莉奈にちょっと顔をしかめつつ、ため息を吐いて重い足を引きずりながら目の前の自分の部屋に戻った。
***
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