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呼び出し 第104話

「綾乃、明日の予定はあるのか?」    寝る直前、由羅に明日の予定を聞かれた。 「え?いや……明日は~……もう冷蔵庫の中身がほとんどないから、食料品を買いに行くくらいかな」  一泊とはいえ旅行に出たので、なるべく冷蔵庫の中身を使い切っておいたのだ。 「そうか……」 「どうかしたのか?」 「うん……じゃあ、明日は一日休め」 「は?」 「私は朝から姉のところに莉玖を連れて行くから、綾乃はここでゴロゴロしていてもいいし、どこか出掛けてもいいし……」 「え、いや、なんで急に……」 「年末年始、綾乃がほとんど休めていないからだ。一つ屋根の下にいればどうしても莉玖は綾乃のところに行きたがる。だが、綾乃が傍にいなければ、諦めるしかないだろう?だから、姉の家に行ってしまえば、どうにかなると思う。姉にもそう言われたしな」  そりゃまぁ……杏里さんの言うようにたぶんオレの姿が見えなければ、莉玖もそんなにパパイヤなんて言わないだろうとは思うけど…… 「ご飯も向こうで食べてくるから、綾乃もたまには自分の好きなものを食べてこい。いつも私たちのリクエストばかりきいてくれているからな。買い物は明後日一緒に行くから、明日は行かなくていいぞ」 「え?あ……うん……」 「あ、綾乃?面倒だからって何も食べないのはダメだぞ!?ちゃんとご飯は食べるように!」 「へ?あぁ、はい」  そうか、明日はオレ休みなのか……  急にそんなこと言われてもな~……  由羅の仕事の都合で、急に休みになるということは珍しくはない。  でも、何だか急に休みが出来ると、毎回どうすればいいのかわからない。  なんせ、急に呼び出して遊びに行けるような友達がいないし……いたとしても、大抵の人はもう正月休みは終わっている。  買い物には行かなくていいと言われてしまったし、あとはゴロゴロするか、図書館に行くくらいしかねぇな…… ***  翌朝、オレは聞き慣れない由羅の声で目が覚めた。   「――ですから、挨拶は年末に……わかりました。ええ、伺います――」  電話を切った由羅が、深いため息をついてベッドに携帯を放り投げた。  仕事の電話をしている時とも違う……  怒鳴っているわけでもないし、口調も丁寧なんだけど、何だろう……?  由羅にしては苛立ってるっていうか、声が冷たい気がする。 「何かあったのか?」 「え?ああ、すまない、起こしたか?」 「いや、別にもう起きる時間だし……」  咄嗟にそう言ったものの、時計を見るとまだ6時だった。  う~ん、休日の朝にしてはちょっと早いか。 「祖父に呼ばれた」  由羅が渋い顔でめちゃくちゃイヤそうに吐き捨てた。 「由羅のおじいさんに?」  ああ、それでか……   「年末のパーティーで会った時に、年始の挨拶は行かないと伝えておいたんだが、顔くらい見せに来いとうるさくてな」 「へぇ~大変だな」 「それで……」  由羅がちょっと言葉を切ってため息を吐く。 「莉玖を一度連れて来いと……」 「ああ、そうなんだ?」  まぁ、一応ひ孫になるんだもんな?  っていうか、今の言い方だと、まだじいさんには会わせたことがねぇのかな? 「綾乃、一緒に行ってくれないか?祖父のところに莉玖を連れて行くとなると、私一人では……」  由羅が珍しく不安そうな表情でオレを窺って来た。 「オレ?ああ、別にいいけど、いつだ?」 「今日だ。休みはまた別の日に必ず……」 「わかった。いいよ。別に用事なんてねぇし」 「そうか……すまないな」  由羅がちょっとホッとした顔をした。  慣れている杏里さんの家ならまだしも、初めて会う人のところにパパイヤ期の莉玖を由羅だけで連れて行くのはさすがにキツイからな。 「何時に出るんだ?」 「そうだな~……なるべく早く終わらせて帰って来たいから、8時には出るか……」 「遠いのか?」 「いや、近い」 「そか、じゃあ、とりあえず朝飯作って来る」 「ああ、頼む」  オレはまだ寝惚け眼の莉玖を連れて一階に下りた。  由羅のじいさんか~……なんだか怖そうなイメージだな。  由羅のじいさんについては、杏里や由羅から聞いた程度でしか知らないけど、オレはあまりじいさんに良いイメージを持っていない。  まぁ、オレは莉玖を連れてちょっと顔出すくらいだから、話すことなんてねぇだろうけどな! ***  

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