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呼び出し 第107話

 由羅はじいさんの部屋から出ると、足早に玄関に向かった。  由羅はちょっと大股で歩いていただけかもしれないが、リーチの差があるし、オレは莉玖を抱っこしているので……小走りになっていた。 「ちょ、由羅待って!あっ!!」 「ん?あぁ、すまん。大丈夫か?」  足がもつれて倒れかけたところを、由羅が抱き止めてくれた。 「危なかった~……由羅、オレ莉玖抱っこしてんだから、もうちょっと……」 「そうだな、すまない」  そう言うと、由羅はオレの背中……というか、腰?に手を添えて来た。  え、あの……オレは押してくれって言ったわけじゃねぇんだけど!? 「……ん?」  てっきり、オレが歩くのが遅いから背中を押して来るのかと思ったのだが、そういうわけではないらしい。  由羅は歩調を緩めて、オレが歩きやすい早さにしてくれた。  あ、この手はオレが転ばないように支えてるってわけ?なるほど!   ***  玄関を出て駐車場に向かっていると、向こうから由羅より少し年上くらいの男が歩いて来た。 「見たことのある車だと思ったら、やっぱり響一の車か。お祖父様に媚を売りに来たのか?」 「博嗣さん、おはようございます。来る予定はなかったんですが、朝っぱらからお祖父様に呼び出されたもので」  なるほど、こいつが噂の…… 「チッ!後継者なんて興味ないですって顔しながら結局裏ではこうやってお祖父様のご機嫌伺いに来てんじゃねぇか……」 「私の用は済んだので失礼します。博嗣さんはせいぜい私よりもお祖父様に気に入ってもらえるようにごまをすって来て下さい。もっとも……お祖父様の部屋まで辿り着ければ……ですが。では」 「ぅ……っ」  博嗣がグッと言葉を詰まらせた。  その隙にオレたちは駐車場に向かった。  由羅が車を出した時には、まだ博嗣は悔しそうにその場に佇んでいた。 「なぁ、じいさんの部屋に辿り着ければってどういう意味だ?博嗣って……家の中で迷うくらい方向音痴なのか!?」 「え?あぁ、あれは……」  由羅の話しによると、どうやらじいさんは自分の予定を乱されるのは嫌いらしく、訪問者は例え身内であっても余程気分がいい時じゃないと会わないのだとか。  先ほどのじいさんとのやり取りから、今日由羅の後に博嗣に会う予定は入ってなさそうだったので、たぶん博嗣は予定にない訪問者だ。  そして、じいさんは博嗣のことをあまりよく思っていないので、おそらく会ってはもらえないだろうということだった。 「博嗣は毎回連絡をせずにやってきては玄関で追い返されるんだ。いい加減に事前に連絡をして予定を聞くということをすればいいのに……」  ん?訪問先に事前に連絡をして予定を聞くって……社会人の基本じゃね?   「そうだ。その当たり前のことが出来ないから、祖父は博嗣を後継者候補に入れないんだ」  あ~……なるほど……さすが伝説の男!!  オレは変に納得をしてしまった。 「ところで綾乃、昼飯はどうする?」 「え?あぁ、もうこんな時間か」  由羅に言われて時計を見ると、10時過ぎだった。 「まぁ、帰ってから何か適当に……あ゛!そうだ、もう冷蔵庫が空っぽだった!」  まだちょっとは残ってるけど、三人分の昼食を作るには材料が足りない。 「じゃあ、途中で買い物して帰るか」 「うん」 「たしか、もう少し行ったところにショッピングモールがあったな。寄ってみるか」 「え?あ~、うん。そうだな」  食料品とかはいつもの店で買った方が安いだろうとは思ったが、由羅が行く気満々だったので、とりあえずそこに入ってみることにした。 ***

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