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呼び出し 第108話

「綾乃、ちょっと他の店も見て回らないか?」  ショッピングモールに入るなり食料品売り場に向かおうとしていたオレを、由羅が引き止めた。 「え?他の店?まぁいいけど……」  他の店っつっても、買う物なんてねぇけど……まぁいいか。  由羅がショッピングモールでぶらぶらしたいと言い出すとはちょっと意外だった。  だって……  オレはそっと由羅の横顔を見上げた。  朝っぱらからじいさんに呼び出されて機嫌が悪かった由羅だが、じいさんの後に博嗣にも会ったせいか、更に機嫌が悪い。  別にオレや莉玖にあたってくるわけじゃないけど、空気が重い。  こんな状態だから、さっさと家に帰りたがると思っていたのに…… 「あ~の!」 「ん?いいなぁ莉玖~!楽しいか~?」 「あい!」  由羅と違って、莉玖は子ども用のショッピングカートに乗ってご機嫌だ。  まぁ、莉玖とこんなところに買い物に来るのは初めてだし、由羅のことはひとまず置いておいて、莉玖とのショッピングを楽しむか! 「あ、ほら、莉玖~、クマさんだ!可愛いな~!」 「な~!」 「クマ?」 「あ、いや、この服の模様が……クマだな~と思って……」  ちょうど近くにディスプレイされていた服にクマの絵が描いてあったので莉玖に見せていただけなのだが、急に由羅が会話に入って来たのでちょっと焦る。 「ああ、可愛いな……クマか……そうだ!あっちに子ども服の店があるから、莉玖の服を見てみるか」 「え?あ、うん」 *** 「綾乃、どれがいいと思う?」  由羅が気難し気な顔で真剣に可愛い子ども服を見ている姿は、何だか面白い。  笑いを噛み殺していると、由羅がやってきて、オレの目の前に数枚の服を並べた。 「は?オレに聞くなよ!」 「なぜだ?」 「だって、莉玖はお前の子どもだし……」 「そうだが、綾乃に聞いちゃダメなのか?」 「ダメってわけじゃねぇけど……」 「私が選ぶと、シンプルなものになってしまうからな。莉玖が喜ぶような服を選んでくれないか?」  そういえば、莉玖の服は全体的にブランド物のシンプルでおしゃれなデザインの服が多い。  オレからすれば、おしゃれな服はお出かけ用に数枚あれば十分だと思う。  乳幼児は大きくなるのが早いので、数か月経てばもう服のサイズは全然変わってしまい、着られなくなる。  だから、高い服を買うよりも、安くて、動きやすくて、着脱がしやすくて、汚れても大丈夫な服を多めに買った方がいいと思う。  が、別にオレの考えを押し付けるつもりはない。  だから、由羅にも服のことで何か意見を言ったことはなかったのだが…… 「莉玖が喜ぶ?」 「さっきのクマみたいな……」 「ああ……」  つまり、キャラ物を選べと?   「ん~、じゃあ、これとか?」  オレは、あえてめちゃくちゃファンシーな柄の服を渡してみた。 「これは……なるほど……うん、可愛いな」  ちょっと戸惑いつつも、由羅が買い物カゴに服を放り込んだ。 「え、いや、マジでそれ買うのか!?」 「綾乃がこれがいいって言ったんじゃないか」 「いやいや、待って!?もうちょっと探す!!」  ちょっとふざけただけじゃんか!!  ツッコミ待ちだったのに、真面目に返されると困る……! 「えっと、ほら、これとか莉玖の好きなキリンが入ってるから喜びそう」  オレは慌てて服を戻すと、今度は真剣に莉玖が喜びそうなキャラ物を選んだ。  気難しい顔をした男と、ヤンキーみたいな男が真剣に可愛い子ども服について話をしている姿は、たぶん、目立っていたのだろう……  オレたちが買い物をしている間は、その店には他の客は入って来なかった――…… ***

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