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呼び出し 第109話

 結局、春先にも着られそうな、莉玖の好きな動物や乗り物の柄の長Tシャツを数枚と、動きやすいストレッチパンツを数枚購入した。  その後も、何を買うわけでもなくモール内をブラブラして、雑貨や服を見て……  なぜか由羅がオレの服まで数枚購入してくれた。  普段なら全力で断るところだけれど、なんだか由羅が楽しそうだったので、まぁ……これで由羅の機嫌が直るのならいいか!と思って素直に受け取ることにした。  ほら、オレ、空気読める子だから!! *** 「ちょっと休憩しようぜ。莉玖も喉渇いただろうし」 「ん?あぁ、そうだな」  近くのベンチに腰かけて、莉玖にお茶と小さいクッキーを渡す。  体力はある方だけど、なんていうか……こういうところをブラブラするのって結構疲れるもんだな……  いろんな店があって楽しい。  いつもは近所のスーパーで食料品とにらめっこするばかりだから、オレにとっては見慣れない物ばかりで……一体何の役に立つのかわからないような面白雑貨系の小物とか、おしゃれな洋服とか……買う気はないけど、つい手に取ってしまうし、そんなものがあるということにテンションが上がってしまう。  でも、その分、目移りするので何だか疲れた。   「莉玖、うまいか~?」 「んまっ!」 「そかそか」  そういやそろそろ昼だな。 「綾乃も何かいるか?」 「へ?」 「飲みものとか……」 「あぁ……っていうか、そろそろ昼だけど、どうする?今から帰って食うってなったらちょっと遅くなるかも」 「そうだな……適当に食うか」  由羅がそう言ったので、ショッピングモール内のレストラン街に移動して、中華粥のある中華料理の店に入った。  中華粥なら莉玖も食えそうだと思ったので選んだだけなんだけど、親切な店で、莉玖用に薬味や味付けを控えめにしたお粥を用意してくれた。  一見ただの白粥に見えたが、ちゃんと味がついていて、意外にその中華粥が美味しかったので、今度家でも作ってみようと思って味からわかる材料を真剣に携帯にメモっていると、また由羅に怒られた。  はい、すみません……  でもでも、だって、すぐにメモらねぇと忘れちゃうし…… 「わかった、わかった。食べ終わったらメモっていいから、それまでは待て」 「ふぁ~い」 「忘れそうなら声に出して言え。私が覚えておく」 「え?」  うわ、こいつ今サラッと……自分記憶力いいですアピールした!!  どうせオレは記憶力ねぇよ!! 「……綾乃?どうした?」 「なんでもねぇよ!」 「顔がむくれてるぞ?」  オレが口唇を尖らせていると、由羅に口唇をムニッとつままれた。 「ん~!!」 「ほら、口開けろ。さすがにこれだけ冷めればお前でも食えるだろ」 「ん?……あ、やっべ、このシュウマイおいひぃ~!!」 「ふ、ははっ……そうか、良かったな」  条件反射で口を開けると、由羅にちょうどいい感じで冷めたシュウマイを放り込まれた。  そのシュウマイがまためちゃくちゃうまい!  ちょっと冷めてるのに、それでも肉汁がじゅわ~って……  思わず至福の顔をしたオレに、由羅が吹き出した。  なんだよぉ~!?うまいもん食ったらみんなこうなるだろ!?   「そうだな。莉玖も綾乃もうまそうに食べるからいいな」 「……由羅はうまくねぇの?」 「いや、うまいぞ?ただ、あまり食事に執着がなかったから、うまいものを食ってもお前たち程は感動しないだけだ」 「へ~」  うまいものを食うことに慣れ過ぎてるってこと? 「あ、でも綾乃が作った飯はうまいからいつも感動してるぞ?」 「そりゃどうも?」  オレの作った飯がうまいっていうのは、最初からずっと言ってくれてるけど…… 「……そうは見えないか?」 「見えない!」 「そうか……」 「あ、あの、でも、うまいって言ってくれるのは嬉しいぞ?いつも残さず食ってくれてるのも嬉しいし、えっと、外食するよりオレの飯が食いたいって言ってくれるのも嬉しいし、だからその、もっとオレの飯で感動してもらえるように頑張るから、これからもオレの飯食ってくれよな!」  由羅が思った以上にしょんぼりと項垂れたので、ちょっと焦って自分で何を言っているのかわからなくなった。  いやホントにオレは一体何を言ってるんだ?  声は抑えていたつもりだけれど、近くの席の人には聞こえていたらしい。  すぐ隣に座っていた女の人のグループから抑え気味の黄色い悲鳴が聞こえて来た。  オレ、イマ、スゴク……メダッテル…… 「綾乃?」 「ああああの、えっと、ほら、早く食って帰ろうぜ!!」 「ん?何だか顔が赤いぞ?」 「え?えっと、ほら、暖房がききすぎてるかな~って……あは、あはは……」  ひぃ~ん、やだもう!!  周囲の視線が痛いぃいいいい!!!  オレたちはさっさと残りの飯を食うと、店から出た。  由羅が気づいてなくて良かった!   「よし、食料品買ってさっさと帰るぞ!!」  あ~恥ずっ!!  オレは顔の火照りが治まるまで、由羅の前を歩いて顔を見られないようにした。   ***

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