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呼び出し 第110話
「莉玖は?」
オレがリビングに向かっていると、ちょうど由羅が風呂から出て来た。
「うわ、びっくりした。あ~、えっと、莉玖?莉玖ならもう寝たぞ?」
「早いな」
「まぁ、ここのところお出かけ続きだったから、疲れたんじゃね?」
初めての旅行に、初めての?ショッピングモール……オレもだいぶテンション高かったけど、莉玖もかなり興奮してたしな~……
「そうか……綾乃も風呂入るだろう?」
「そうだな。お前が出たんだったらもう入ろうかな。着替え取って来る」
「綾乃、カゴは置いていったらどうだ?」
「へ?あ……そうだった」
由羅に言われて、オレは自分が持っている洗濯カゴを見た。
なんだかんだで食料品の買い物にも時間がかかったので、帰宅後はすぐに晩飯を作って、莉玖を風呂に入れて、寝かしつけて……と慌ただしく、今さっき莉玖が眠ったのでようやく洗濯物を取り込んだところだったのだ。
「たたんでおけばいいんだろう?私がたたんでおくから、お前は風呂に入って来い。お湯が冷める」
「あ、うん……じゃあ、お願いします」
「ああ」
オレは何気なく由羅にカゴを渡して風呂に入った。
***
「はぁ~……」
風呂に入って思わず声が出るようになると、何だかおっさんになったような気がする……
でも、日本人なら出ちゃうだろ~?
疲れた体にはやっぱり風呂だよな~……
「……ん?」
オレはふと何かが気になって、顔を洗っていた手を止めた。
いや……いやいや、おかしいだろっ!?
オレなんで由羅に洗濯カゴ渡してんだよ!?
あれはオレの仕事で……由羅と莉玖の服だけならまだしも、オレの服も入ってるのに、雇い主に洗濯物たたませちゃダメだろっ!?
「やっべぇ!!」
オレは温まるのもそこそこに急いで風呂から出た。
「由羅っ!洗濯物……」
「ん?どうした?やけに早かったな。洗濯物ならもうたためたぞ?」
「ですよねえええええええ……!!」
床にガックリと膝をついたオレをみて、由羅が首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「あの……すみません……洗濯はオレの仕事なのに……」
「……綾乃、ドライヤー持ってこい」
「へ?」
「早く!」
「あ、はい!」
何となく条件反射で返事をすると、ドライヤーを持って由羅のところに戻った。
「由羅、まだ髪乾かしてなかったのか?」
「私じゃなくてお前だ」
「オレ?」
「びしょびしょじゃないか。ほら、座れ!」
「いや、髪くらい自分でしますけど?」
「いいから座れ!」
「ぅ……はぃ……」
由羅は、命令口調になると圧が凄い。
まぁ、今日はあまり怒らせたくないので、言われるままに由羅の前に座って髪を乾かしてもらった。
「綾乃、お前はちょっと――?」
「へ?何か言ったか?」
由羅が何か言っているのはわかったが、ドライヤーの音のせいで、ほとんど聞き取れなかった。
「あぁ、すまん」
由羅がドライヤーを止めて、タオルドライに切り替えた。
「お前は仕事し過ぎだと言ったんだ。何でも「自分の仕事なのに……」って言うが、元々家政夫の仕事は莉玖の育児の傍らで出来る範囲でいいと言ったはずだぞ?」
「だから、オレが出来る範囲でやってるけど?」
最初に由羅がそう言ったから、オレは莉玖を優先にして、それ以外の家事は出来る範囲でやっているつもりだ。
「だったら、私が洗濯物を取り込んだり、たたんだりするたびに落ち込むのは止めろ」
「え……いや、別に落ち込んでは……」
「心配しなくても、洗濯物を私がたたんだくらいでお前の給料を減らしたりはしないぞ?」
「そんなこと気にしてねぇよ!いや、そうじゃなくて……あの、由羅が干したりたたんだりしてくれるのは助かるけど、オレの分までしてもらうのは何か違うよなっていう……」
「なぜだ?一人分増えるくらいどうってことない。別々にする方が面倒だろう」
「ソウデスネ」
由羅が言うのも何となくわかるけど……っていうか、基本的にオレ家政夫っていう仕事のことがイマイチわかってないっていうか……
「ほら、乾いたぞ」
「あ、ありがと」
「さてと、まだちょっと早いが、莉玖が寝ているから私は先に部屋に戻るぞ」
「うん。あ、オレは用事を済ませてから行く」
「用事って何だ?」
「え?そりゃ、風呂や台所の掃除とか……」
「わかった、風呂は私が掃除してくるから、お前は台所を掃除したら今日の仕事は終わりだ」
「え!?ちょ、由羅!?」
由羅はオレの声を無視して、ドライヤーを戻しがてら風呂掃除に向かった。
なんでそうなるんだよ!?
オレがするっつってんのに!!
もぉ~~!!わけわからん!!
オレは由羅の行動に戸惑いつつも、時間が出来たので台所をピッカピカにしてやった。
***
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