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呼び出し 第111話

「……あ、ごめん、莉玖起きたのか?」  掃除を終えて由羅の寝室に行くと、由羅が莉玖のベッドを覗き込んでいた。   「ん?いや……寝顔を見ていただけだ」 「ああ……」  由羅の隣に並んで莉玖のベッドを覗き込むと、莉玖はぐっすり眠っていた。 「由羅、大丈夫か?」 「何がだ?」 「いや……今日はじいさんに会ったり、従兄?に会ったりしたから……」  ショッピングをしてちょっと気分転換出来たのか、だいぶ機嫌は直ったみたいだけど……  でもやっぱり今日の由羅はちょっと違う。 「この子には……私のような思いはさせたくない。自由に子どもらしく育って貰いたいんだ」  由羅が、莉玖の頬をそっと撫でながら呟いた。 「……そうだな」 「博嗣(ひろつぐ)が跡を継げば、うちは数年で確実にダメになる。優秀な部下がいっぱいいるから、しばらくは彼らがどうにか頑張ってくれるとは思うが、それでも祖父や伯父が亡くなったらきっとすぐにダメになると思う。そうなると大勢の社員が路頭に迷うことになってしまう。そうわかっていても……私は跡を継ぎたくない」 「……いいんじゃねぇの?もちろん、社員が犠牲になるのは最悪だけど、でもだからってお前が犠牲になる必要もねぇだろ」  トップがアホなら、下の人間が苦労するのはどこの世界でも同じだ。  由羅ならきっといいトップになると思う。  無愛想なくせに人望はあるらしいし……  だけど、本人が望んでいないのなら、無理にならなくていい。 「ああ……そうだな」 「だいたい、なんで一族の中から後継者を出そうとすんだよ。ホントに会社が大事なら、一族じゃなくて、社員から能力の高いやつを選べばいいんじゃねぇの?まぁ、オレは頭悪いし、そういうでっかい会社とかの仕組みっていうか、詳しいこととかは全然わかんねぇけどさ」 「いや……ありがとう」 「ん?えっと……どういたしまして?」  お礼を言われるとは思っていなかったので、ちょっと戸惑う。  何に対してのお礼なんだ……? 「でもさ、本家が倒れたら、お前もヤバいんじゃねぇの?」 「ヤバいな」 「もういっそ、本家が倒れる前に会社辞めてお前のやりたいことをやれば?」 「……私のやりたいこと?」 「うん、やってみたいこととかねぇの?」  オレたちは、莉玖に布団をかけ直して、ベッドに移動した。 「やってみたいことか……ずっと跡継ぎとしての教育しか受けて来なかったし、それ以外のことに興味を持つ時間などなかったからな……」 「あ~……まぁ、オレも似たようなもんか」 「綾乃も?」 「いや、オレも趣味とかねぇからさ……」  学生の間はずっと近所のガキ共の世話ばっかりしてたから、休みの日とか何したらいいのかわかんねぇんだよな。  だから、そういう意味では同じかもしれない。 「なるほど」 「じゃあさ、まず会社辞める前に趣味を見つけなきゃだな!」 「……え?」 「今までやって来なかった分、いろいろチャレンジしてみれば?その中から趣味が見つかるかもしれねぇし、もしかしたら次の仕事に繋がるものもあるかもしれねぇじゃん?」 「じゃあ、綾乃も一緒にやろう」 「は?なんで?」  オレは予想外の言葉に、一瞬固まった。  一緒に!? 「綾乃も趣味がないんだろう?だったら一緒にチャレンジしてみたら綾乃も趣味が見つかるかもしれないじゃないか」 「……それはそうだけど……オレも一緒にやったら、莉玖は誰がみるんだ?」 「あ……ぅ~ん……そうだなぁ……莉玖も連れていけるようなものを探してみるか……?」  由羅が真剣に悩みだした。  あ、ダメだこれ、変なスイッチ入ったな。   「あの、由羅?オレは別にいいから、お前だけで趣味を探してくれば……」 「ダメだ。どうせなら一緒にした方が効率的だろう?」  何が!?  いや、ホントにオレのことはお構いなく!!  趣味の話しは何となく言っただけなんだよおおおおおおおお!!!  何となく適当に言っただけの話しをそんなに広げられると困る……!! 「おっと、もうこんな時間だ!そろそろ寝ようぜ!その話はまた今度!!はい、おやすみ~!」 「え?いや、ちょっと……綾乃?」 「ほら、由羅も寝る!!」  オレはまだグダグダ言っていた由羅を無理やりベッドに入れて、子どもを寝かしつける時のように軽く抱きしめて背中をポンポンと叩いた。  話しを打ち切るには寝るに限る!! ***    

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