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休日の過ごし方 第116話

 10分後、オレたちは近くのファーストフード店にいた。 「ほらほら、遠慮しないで?僕のおごりだよ!」 「……いや、自分の分は出すし」  オレは自分の分の食事代をテーブルの上に置いた。 「僕の昼飯に付き合って貰ってるんだから、僕が出すのは当たり前でしょ?」 「お前の昼飯に付き合ってるつもりはねぇんだけど!?お前が勝手にオレについて来たんじゃねぇか!っつーか、なんでお前がここにいんだよ、!」 「え?昼飯を食べるためだよ?」  オレは、すっとぼけた顔で笑いながらフライドポテトを食べている麻生の顔にストローの袋をフッと飛ばした。 「そういう話をしてるんじゃねぇよ!」 「ほらほら、遊んでないで食べなよ。せっかくのハンバーガーが冷めちゃうよ?」 「だからっ……あ゛……」  麻生にイラついて声が少し大きくなった瞬間、腹に力を入れたせいか、オレの腹もグゥ~っと結構な大きさで鳴った。  恥ずっ……!! 「……イタダキマス」  麻生には腹が立つが、腹が減っているのはオレもだ。  笑いを堪えている麻生の顔に更にイラついたが、オレは赤くなった顔を隠すために俯き加減で大人しくハンバーガーにかぶりついた。 *** 「それで、何でここにいるんだ?」  一個目のハンバーガーを食べ終わったオレは、また麻生に同じことを聞いた。 「ちょうどこの近くで仕事の打ち合わせがあったんだよ。ほら、この間チラッときみに話したでしょ?普段は男性を縛ってるんだけど、今度女性を縛らなきゃいけないって」 「あ~……それで女性に近い体格のオレを縛って練習してみたいってことだったっけ?」 「そそ、その仕事の打ち合わせをしてたんだ」 「じゃあ、別にオレがここにいるって知っててきたわけじゃねぇんだな?」 「ははは、もちろん!全くの偶然だよ。だいたい……」  突然、麻生の話しをぶった切るようにオレの携帯が鳴った。 「あっ!」  オレが鞄から出していると、麻生が横からぶんどって来て、画面に表示された名前を見て顔をしかめた。  そして、オレよりも先に。  いや待て!誰からだったんだよ!?  勝手に出るなよおい!   「もしもし?あぁ、僕だよ~!久しぶり!って、数日ぶりだっけ?……なに?ちょ、オレオレ詐欺じゃないってば!!……あ~もう、うるさいなぁ~、たまたま会ったんだよ!僕が仕事の打ち合わせで駅の近くまで来てて――……」  麻生が平然と自分の携帯のように話し始めた。  え、誰と話してんだ?  オレにかけてくるのなんて、杏里さんか由羅くらいだろうけど、杏里さん相手にこんな話し方しねぇよな……ってことは…… 「おい、麻生!誰と話してんだよ!?携帯返せって!」 「ちょっと、綾乃くん静かに!」 「え?あ、ごめ……って、何でだよ!?おかしいだろ!」  鋭く「静かに!」と言われて思わず自分の口を押さえかけたオレは、すぐに我に返って麻生の腕をバシッ!と叩いた。  むしろ、静かにするのは麻生の方だろ!?  麻生から携帯を返してもらおうと隙を窺うが、麻生は器用に片手でオレを牽制しつつ、携帯の相手と何やら普通に会話をして、勝手に通話を終了した。 「あああ!おめぇ何勝手に切ってくれてんだよ!!」 「だってもう話しは終わったし」 「いやいやいや、それオレの携帯!オレに用があってかけてきてんだよ!!」 「え~?特に用事があるようなことは言ってなかったけどな~?」 「オレへの用事をなんでお前に言うんだよ……?」 「あはは、そりゃそうか!さて、ちょっと僕トイレ行って来るね~」  麻生からようやく携帯をぶんどり返すと、やっぱり履歴には由羅の名前があった。  慌ててかけ直そうとするが、なぜかうまく繋がらない。 「あれ?おかしいな……うおっとっと!?」  首を傾げたところで急に由羅からかかってきたので驚いて落としそうになった。  どうやら由羅ももう一度かけてきてくれていたらしい。   「はい、もしもし!由羅!?」 「綾乃!?無事か!?」 「あ、うん。今のところは」  由羅の声を聞くと、ちょっと落ち着いた。 「あいつは!?麻生は!?」 「え?ああ、麻生ならトイレに行った」 「今どこにいるんだ?」 「駅前でハンバーガー食ってる」 「じゃあ、すぐに迎えに行くからそのまま人の多いところでいろよ。いいな?」 「え、迎えに?」 「あの男のことだから、またお前をどこかに連れ込もうとするかもしれないからな。はぁ……まったく、あれほど近づくなと言ったのに!」  由羅がため息を吐きながら苦々しそうに吐き捨てた。  いや、そんなこと言っても…… 「オレから近づいたんじゃねぇしっ!」 「ん?ああ、そうだろうな。あの男の方から寄って来たのだろう?」 「え?あ、うん」  なんだ、オレに対して言ったんじゃねぇのか。   「あの、由羅?迎えに来るって、莉玖は大丈夫なのか?」 「ああ、姉に任せてあるから大丈夫だ」 「そか……」 「え~?迎えに来なくてもいいよ~。せっかく二人で楽しくご飯食べてたのに~!」 「麻生!!急に後ろからくんなよ、ビックリするだろ!」  由羅と話していた内容をどこから聞いていたのかはわからないが、背後から急に麻生の声が降って来て焦る。 「おい、麻生!綾乃に変なことするなよ!?」 「変なこと以外ならいいんだ?」 「……警察呼ぶか」 「あああ、嘘嘘!ごめんなさいっ!もう!すぐにそうやって僕を犯罪者扱いするのやめてくれない!?」  こうして、由羅が迎えに来るまでの数十分間、ずっと麻生と由羅はこんな風にやり取りしていた。  オレはと言うと、途中から二人の間でアタフタしているのがアホらしくなってきて、麻生に携帯を渡し、残りのハンバーガーとポテトを食って、更に追加でサイドメニューのデザートも食べていた。 ***

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