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休日の過ごし方 第119話
1時間後。
オレの腕の中には大小のぬいぐるみやマグカップなどの景品が合わせて8個。
一方、由羅は……
「綾乃!!全然獲れないぞ!?」
「うん、まぁ最初はそんなもんだって。筐体によってもアームや爪のクセとか違うし、ボタン押した時の感度の良さとかもいろいろだし……」
「……メンテナンスの問題か?」
「まぁそれもあるかもだけど、ゲーセン側がそれぞれにアームの強さとかいじってる場合もあるし、後は、さっきも説明したみたいに設定とか、アームの種類とか……でも、場所によっては店員さんにお願いしたら獲りやすいように位置をずらしてくれたりもするから……」
「そうなのか……こういうゲームは子どもがするからもっと簡単だと思っていたのに結構難しいもんだな……」
「あはは、そうだな。でもコツを掴めばわりと出来るんだよ。何回もしてれば慣れてくるよ」
「わかった。もう一回やってみる……あ……ちょっとおろしてきていいか?」
財布を覗きながら由羅が聞いてきた。
「ちょっと待て!お前今日だけでいくら使うつもりだよ!?」
この1時間でこいつ何回崩しに行った?
由羅は普段現金はほとんど持ち歩かないので、わざわざこのためにお金をおろしてきたのだが、たしか最初におろしたのが10万円くらいだった気がする。
まさか、それ全部使い切ったの!?
「え?」
「え?じゃねぇよ!あのさ、お前の金だからオレが口出すことじゃねぇけど、一度にそんなに金使うのはどうかと思うぞ?」
「だが、次にいつ来れるかわからないだろう?」
だからって……あ~もう!ダメだコイツ、放っておいたら平気でン十万とか使いそう……
「またお前が休みの時に来ればいいだろ?別にその間くらい莉玖はみててやるし……」
「また一緒に来てくれるのか?」
「え?あぁ、オレ?そりゃまぁ別にいいけど……?」
家でって意味だったんだけど……まぁいいか。
「……そうか、じゃあ今日はもう止めておくか」
由羅が一瞬嬉しそうに笑って、あっさりと財布を仕舞った。
「あ、コレどうしよう……」
オレは自分の腕の中の景品を見ながらちょっと考え込んだ。
今日の景品は、由羅にいろいろとレクチャーしていたらついでに獲れたっていうだけで、オレが欲しくて狙って獲った景品ではない。
「持って帰っちゃダメなのか?」
「いや、そりゃ自分が獲得した景品は持って帰っていいんだけど、こんなにいらねぇし……ぬいぐるみはまだしも、こんなフィギュアとかは莉玖もいらねぇだろ?」
「それはそうだが……どうするんだ?」
「ん~……あ、ちょっと待ってて。あ~……オレが戻るまではゲームしてていいぞ」
「わかった」
ちょうど少し離れたところでクレーンゲームをしていた親子が目に入ったので近づいて行く。
欲しかったのが獲れなかったらしく、もう帰ろうと促す父親に、どうにかして獲ってくれとぐずっていた。
「すみません、ちょっといいですか?あの……」
ガラの悪そうなオレが近付いてきたことで両親が少し警戒していたが、ただ景品を獲りすぎて困っているので、欲しいのがあればもらってくれたら助かると伝えると、子どもが先に飛びついて来た。
「ほんとにいいの!?」
「うん、いいよ!こんなに持って帰れないから、困ってたんだ。捨てるのももったいないし……だからもらってくれたらホント助かる!でも、ちゃんとお母さんやお父さんに持って帰っていいか聞いてからだぞ?」
しゃがんで子どもの目線で話しかけると、8歳くらいのその子は、大きく頷いて母親に甘えた声でおねだりを始めた。
「ママ~いいでしょ?おにーちゃん、もってかえっていいっていってるよ?」
「え、あ~……そうね、じゃあ、一つだけね?」
「え~、ひとつ~?こんなにいっぱいなのに?」
「オレは何個でもいいですよ?でも、お母さんに一つって言われたんなら、一つにしておこうか!どれにする?」
「う~ん……」
オレが持っている景品の中には、さっきまでその子が欲しがっていた景品も入っているのだが、いっぱいあると悩むらしい。
しばらく悩んで、結局全然違う景品を選んだ。
「それがいいのか?」
「うん!」
「そうかそうか、それじゃそれどうぞ」
「おにーちゃん、ありがと~!」
「こちらこそ、もらってくれてありがとな!」
こんなやり取りを、ゲームセンターにいた数人と交わしていく。
何とか景品がマグカップとよくわからないゆるキャラぬいぐるみの二つになったところで、由羅の元に戻った。
「ただいま!悪い、遅くなった」
気がつくと40分も経っていた。
由羅は、さっきまでのとは別の筐体に挑戦していた。
「あと少しなんだ。ちょっとだけ待ってくれ!」
前を向いたまま、由羅がイケボで真剣な表情をしながらそう言った。
「え?あ~マジだ!これもう落ちるじゃんか!ほら、そこ引っ掛けて……」
「わかってる!今集中してるから静かにしてくれ」
「あ、はい」
オレは慌てて口を押さえた。
由羅は頭がいいので、こういうゲームも全部頭の中でいろいろ計算しているらしい。
オレなんかはもう……野生の勘っていうか、感覚で覚えるっていうか、フィーリング?ほら、考えるな感じろ!的な……
まぁ、いくら頭の中で計算しようが、実際に自分の身体がその通りに動けるかどうかはまた別問題だ。
反応速度や微妙な調節は、結局自分の感覚次第ってとこもあるよな~……
「あっ!獲れた!!獲れたぞ、綾乃!!」
「お~、すごいすごい!やったな、由羅!」
「ほら、ちゃんと一人で獲れたぞ!」
由羅が景品を取り出して、今年一番の笑顔で振り向いた。
まぁ、まだ今年始まったばっかりだけど。
「はい、こっち向いて~!由羅さん、感想をどうぞ!」
由羅が精神集中をしている間ヒマだったので、オレは動画を撮る準備をして待っていた。
え、何でって?そんなの……杏里さんと莉奈に見せるために決まってる!!
「え、感想?あ~、えっと、嬉しい!やっと獲れたぞ!」
「そうか、良かったな」
「綾乃が教えてくれたおかげだな!」
「え?あ~、うん。あの、ちょっと由羅?近い近い!っつーか、こんなとこで抱きつくな!!動画撮れねぇじゃんか!」
こんなにはしゃいでいる由羅を見るのは初めてかもしれない……
オレに抱きついて来た由羅の声がめちゃくちゃ弾んでいた。
可愛っ……いやいや、由羅が可愛いとかねぇし!!
「あ、すまない。嬉しくてつい……」
「いや、嬉しいのはわかるけどな?スゴイよ、いろんな意味で」
うん、ホントに、いろんな意味でスゴイと思う。
初めてのクレーンゲームに大金使ってようやくゲットしたのが――……
オレは由羅が手に持っている謎のアメーバーのようなグロテスクな配色のぬいぐるみを見た。
なんでよりによって……それを選んだんだ?
「綾乃!初めて獲った景品だから、これは持って帰るぞ!莉玖にも見せてやろう!」
由羅は嬉しそうにそう言いながら、ぬいぐるみを見つめていた。
まぁ、由羅が楽しそうだからいいか!
***
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