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〇〇は外? 第126話

「綾乃……これは一体何なんだ?」  杏里と節分の話をした二日後。  莉玖が寝てからオレは由羅をオレの部屋に呼んだ。 「何って、鬼の衣装だけど?」  ベッドの上に並んだカラフルな鬼の衣装に、由羅が目をぱちくりさせた。 「これがか?」 「これがだ」  ちゃんとアフロに角のついたカツラや、柔らかい素材のこん棒もある。  典型的な鬼の衣装だ。  むしろ、お前はどんな鬼をイメージしてたんだ? 「これは……タイツか?」  由羅が全身タイツを指差した。  あ、やっぱりそこ気になる? 「オレはさ、服は上下赤とか青のジャージとかスウェットにすればいいかなって思ったんだけどな?でも杏里さんがこの全身タイツを選んじゃって……まぁタイツって言っても、触った感じじゃ、あの、女性用のタイツみたいにこうピッチリしてるっていうよりは、余裕がありそうだから、マシかなとは思うんだけど……」 「ちょっと待て。なぜそこに姉が出て来るんだ?」 「え?あ~……あの、実は……」  面白がっていたというところは省いて、衣装を購入してくれたのは杏里だと話すと由羅がため息を吐いた。 「姉のことだから、どうせ面白がっていたのだろう?」  あら、バレてる。 「あ~、まぁ、面白がるっていうか……うん、面白がってたな」 「そうか……まぁいい。それで、これは一体どうやって着ればいいんだ?」 「どうやっても何も……普通に?」  さすがにスーツの上からは着られないだろうから、一旦脱がなきゃだけど……まぁ、車の中か車庫で着替えれば大丈夫だろう。  由羅は、「なるほど」と言いながら、衣装を手に取った。 「……あのさ、やっぱり今年はオレがしようか?」 「ん?」 「いや、ほら、お前節分のことあんまり知らないみたいだからさ、一回お手本的な感じで、オレがして、来年からはお前がするってことで……」 「どんな風にすればいいのか教えてくれれば、大丈夫だ」 「あ、そうですか……」  何がなんでもやりたいらしい。  仕方がないので、オレは簡単に流れを説明した。  まぁ、保育園だとちゃんとストーリーを作って演劇風にしてたけど、家でするのは普通にやって来た鬼に豆ぶつけて、何回かぶつけたらすぐに退散で終わりでいいだろ。  まだ莉玖小さいしな。   「そんな簡単なのでいいのか?」 「怖がらせすぎてもダメなんだよ。トラウマになって夜泣きしちゃう子もいるからさ。5歳くらいになってようやく笑いながら鬼に豆を投げられるようになるんだ。まぁ、それも一部の子だけど……それまでは大抵みんな大号泣だぞ?」 「え、そうなのか!?」 「そりゃまぁ……子どもにしてみれば、知らない人が入って来ただけでも怖いのに、それがこんな素っ頓狂な恰好してんだから……鬼って存在はわからなくても普通に怖いだろ」 「確かにそうだな」 「っつーわけで、鬼のお面はこれじゃなくてもこっちの可愛い鬼さんにします」  オレはセットについて来ている怖い鬼のお面ではなく、お手製の可愛い鬼のお面を渡した。 「これは可愛すぎやしないか?というか、むしろこの格好にこの可愛いお面の方が怖くないか?」  う゛……それも一理ある。  でも…… 「これくらいでいいんだよ!!それより、お前これ着られる?一応サイズは確認してるけど、お前デカいからさぁ……サイズが合わなかったら、上下スウェットでも買って……」 「着てみる」 「え、今?」 「今着ないといつ着るんだ?当日やっぱりサイズが合わないってなっても急には買いにいけないぞ?」 「ですよね!?」  由羅は意外にもノリノリで着替えてくれた。 ***  ――それからしばらく、オレは笑い続けた。 「綾乃、いつになったら笑い終わるんだ……?」  鬼に(ふん)した由羅が、不貞腐れた顔で仁王立ちをしてオレを睨んだ。 「ごめっ、っははは、いや、悪くないよ?うん、似合ってるよ!……ぶはっ!」  事前に見ておいてよかった……  これ、当日に見たらオレ笑い転げて豆を投げるどころじゃなくなる!!   「おい!いい加減笑うのを止めろ!素っ頓狂な恰好だと言ったのはお前だろう!?似合うとか似合わないとかじゃなくて、これで合ってるのか!?」 「うんうん、大丈夫!合ってる!!なぁ、ちょっと写真撮ってもいい?」 「……いやだ!!」 「え~~!?だって、ほら、本番は写真撮る暇ないじゃんか!お願い一枚だけ!」 「……一枚だけだぞ?」  オレが両手を合わせてお願いしまくると、由羅が渋々折れた。 「うんうん!一枚だけ!!」  だって、由羅がこんな格好するとか……もう二度と見られないかもしれない!!  オレはカメラを構えると、敢えて不意打ちを狙って連写した。 「おい、撮るならちゃんと合図を……ん?今連写しなかったか?」 「え?気のせい気のせい!」  さすが地獄耳!シャッター音聴こえてたのか! 「ちょっと見せろ!」 「あ、待って!ちょっ!」  由羅が携帯を奪おうとしてきたので逃げようとしたオレは、衣装が入っていたビニル袋を踏みつけて足を滑らせた。   「危ないっ!!……綾乃、頼むからもう少し落ち着け!」 「……すみません……」  転びかけたオレの腕を掴んで引っ張ってくれた由羅と一緒にベッドに倒れこんだオレは、小声で謝った。  やべぇ、どうしよう……不覚にもちょっとドキってしたけど、由羅いま赤鬼の恰好してんだよな~……笑えばいいのか、ときめけばいいのか、わかんねぇ!!   「ふ……くくっ!」  いや、こんなん笑うだろっ!!  赤鬼にときめいた自分がおかしくて笑ってしまった。 「あ~や~の~!?」 「ごめっ……はははっ!」 「笑い過ぎだ!あ、しかもこれやっぱり連写してるじゃないか!消すぞ!?」 「ああああ!ダメダメ!!」 「こんなの残してたら一生の恥だ!」 「いや、笑ったのはオレだけどさ、それはホントにごめん。でも、これは絶対写真とかビデオに残しておくべきだって!恥なんかじゃない!これも大事な思い出だろ!?」  だってさ、普段厳しくてしかめっ面のパパが自分のためにこんな格好してくれてたとか、ちょっと感動しない?   「そういうものか?」 「そりゃまぁ、莉玖がどう思うかなんてわからないけどさ、でも、お前が莉玖のために頑張った証拠なんだから残しておいてもいいんじゃないの?」 「……じゃあ、一枚だけ残す」 「うんうん、一枚だけな!」  オレは撮った写真を保存して、杏里に送った。  ひとまず、ミッション完了! ***  

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