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〇〇は外? 第127話
節分当日。
それまで、オレは毎日のように莉玖と節分の歌を歌ったり、絵本を読み聞かせしたりしていた。
まだ節分は理解できなくても、何となく雰囲気だけでも伝わればいいかなと。
まぁ、楽しいのは今だけだけどな?
晩飯は、杏里とも話していたように鬼の顔の押し寿司にした。
莉玖がお昼寝をしている間に準備をする。
牛乳パックで作った四角い枠に、赤紫蘇の汁で少しピンク色にしたお寿司を敷き詰めて、間にすりおろした人参を混ぜてオレンジ色にしたお寿司を挟み込んだ。
ギュッと押して形を整えると、鬼の顔の形になるように少し手を加えて……
刻んだほうれん草や炒り卵を使って、クルクルの髪の毛を作ったり顔のパーツを作ったり……いわゆるキャラ弁みたいな感じだ。
よくSNSなんかに上がっているようなレベルの高いものは作れないが、一応これでも保育士なのでそれなりに器用な方だとは思う。
でも、紙を切るのと違って意外と難しい。
後で食べるので、食中毒にも気を使うし……
「よし、これで後はちくわで目を……」
『あら、可愛いじゃないの。美味しそうね!』
横で見ていた莉奈がオレの手元を覗き込んできた。
「見た目はともあれ、味は美味しいと思うぞ?」
『見た目も大丈夫よ!ちゃんと鬼ってわかるわよ』
「それは良かった」
忙しい朝にキャラ弁を作る世のお母さんたちはホントにスゴイと思う。
う~ん……ちょっと顔のバランス悪いか?
まぁ、鬼だからいいか!
オレはとりあえず、一番まともにできたやつを写真に残した。
***
「ほら、莉玖!今日の晩ご飯は鬼さんのお寿司だぞ~!」
「おお~!?」
「わかるか?莉玖が作ったお面と似てるよな~!」
「めんめっ!」
「そそ、これがおめめな。これは?」
「こ~こ!」
莉玖は自分の口を指差したり、頭にかぶっていたお面を外して同じパーツを指差したりしてじっくりとお寿司を堪能してくれた。
うん、喜んでくれて良かった!
莉玖と鬼の押し寿司で盛り上がっていると、由羅から「準備OK」の連絡が入った。
オレは急いで杏里から頼まれていたビデオのスイッチを入れた。
ちゃんとSDカードも新しいのを入れたし、バッテリーも確認したし、これでよし!
由羅には、5分後くらいに入って来いと言ってある。
「なぁ莉玖、鬼さんが来たらどうするんだっけ?」
「と~!」
いつもやって見せていたせいか、莉玖が新聞紙を丸めて作ったお手製の豆をポイと投げる真似をした。
「そうそう、おには~そと~!ってこれを投げるんだよな~……あれ?何か今音が……」
「ウォオオオオオッ!!!」
バァン!とリビングの扉が開いて、由羅……もとい、新米鬼が入って来た。
ぶふっ!あ、笑っちゃダメだオレ!耐えろオレ!
「ピャッ!?……」
鬼の押し寿司でテンションが上がっていた莉玖は、急に入って来た鬼を見て、手に持っていた豆をポロリと落として固まった。
おっと、莉玖は固まるタイプか。
こういう場合、まず扉が開く音に驚いてすぐ泣き始める子と、驚きすぎて固まる子とがいる。
「わぁ~!鬼さんだ!ほら、莉玖!鬼さん来たらどうするんだっけ?おには~そと~!ってしなきゃ……って、ぅわっ!?」
「……っ!!!」
次の瞬間、口をポカンと開けて固まっていた莉玖が、鬼から目を離さずにすごい勢いでオレにしがみついてよじ登って来た。
「ちょ、莉玖!待って、前が見えない!!」
莉玖はあっという間にオレの顔までよじ登って来て、オレは莉玖のお腹しか見えなくなった。
豆を投げようにも、どこに鬼がいるのか見えない。
莉玖を引きはがそうとしても、莉玖も必死なのでもうメチャクチャだ。
『あらら、大変!どうしましょ!!』
莉奈、どうしましょはオレのセリフだ!!マジでどうにかしてくれえええ!!!
「お、お、おには~そと~!」
由羅がどっちにいるのかわからないが、オレはとりあえず豆を投げた。
くぐもった声で、「おい、大丈夫か?」と聞こえたが、鬼が喋ったことで莉玖が更にパニックになって俺の顔にギュっとしがみつく。
いや、全然大丈夫じゃねぇよ!!息ができん!!
「ぷはっ!お……おには~そと~!!おにさん出て行ってぇ~~!」
もういいからとりあえず出て行って!!そしたら莉玖も落ち着くからああああ!!
「あ、え~と、わぁ~、痛い痛い!(棒読み)」
オレの言いたいことが伝わったのか、一応由羅が退散していく気配がした。
「……莉玖、もう鬼さんいないんじゃないか?鬼さん出て行ったぞ?ちょっと下りて……」
「ぶぅうううう!!!」
「え?なんだって?」
莉玖が口唇をブルブルと震わせてブーイングをしてきた。
いや、とりあえず下りてくれねぇと見えない!!
何とか顔から引きはがして、普通に抱っこし直す。
うん、由羅はもういないな。
「ほら、莉玖。もう鬼さんいないぞ~!おにはそと~!したから逃げて行ったのかな?」
「と~?」
「うん、見てみな?いないだろ?」
恐る恐る室内を見回した莉玖が、鬼がいないことを確認してようやくしがみつく力を緩めた。
「よしよし、頑張ったな!鬼さんもういなくなったからな!」
「ふぇぇ~」
「あはは、今泣くのかよ~」
安心して気が抜けたのか、莉玖が泣き始めた。
莉玖をあやしながら、気を取り直して晩飯を食べようかと促していると……
ガチャっとまた玄関の開く音がして、スーツに着替え直した由羅が帰宅した。
「ただいま~」
「ぁんぎゃああああああああああああああ!!!」
「ええええ!?」
由羅がリビングに入って来た瞬間、莉玖が大声で叫んだ。
鬼が戻って来たと思ったらしい。
大急ぎで莉玖がまたオレの顔によじ登って来た。
由羅が慌ててそれを引きはがそうとしてくれるが、莉玖はもう完全に由羅を鬼だと思い込んでいるので、引きはがされないように必死にオレの頭を抱え込む。
「痛い痛いっ!!ちょ、髪!!禿げるっ!!」
「莉玖!おてて離しなさい!綾乃が痛がってるだろう!?」
「ぎゃああああああああああっ!!」
「由羅、ごめん、ちょっと一回離れて!たぶん、莉玖はさっきの鬼が戻って来たと思ってんだ!!」
「えええ!?莉玖、パパだよ!?ほら、鬼さんじゃないだろう!?」
「今パニクってるから何言っても無駄!!いいから、ちょっと離れろっ!!」
由羅が渋々リビングから出た。
扉を少し開けて隙間から様子を窺ってくる。
おい、それはそれで怖いぞ!?
「莉玖、落ち着け!ほら、あれは鬼さんじゃないから!大丈夫だから!――」
この日以来、莉玖の中で、由羅=鬼というイメージがついてしまい、更にパパイヤが酷くなってしまった。
ほらあああ!!だからオレが鬼やるって言ったのにぃ~~~!!
***
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