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〇〇は外? 第128話
「綾乃ちゃん!!これ最高傑作じゃないの!!」
節分の翌日、ビデオを回収しにやってきた杏里はさっそく映像を確認し、大爆笑していた。
「あ~……ハハハ……そうですかね?」
ビデオには何ともまぁ見事に昨日のドタバタ劇が全て撮影されていた。
オレが停止ボタンを押すのを忘れていたせいで、人間に戻った由羅が帰って来てからの大騒ぎも……
「鬼がいなくなったと思ったところに響一が帰って来たから、莉玖は響一のことを鬼だと勘違いしちゃったのね~」
「そうみたいです。鬼が来てる時は驚きすぎて声が出てなかったんですけど、安心して泣き出したところに由羅が帰って来たんで、盛大に声が出たみたいで……」
「あらあら、すごい泣き声ね~」
「もうその後が大変でしたよ……」
***
何とか莉玖を落ち着かせられたものの、「もう入っても大丈夫か?」と由羅がリビングに入って来ようとするとまた泣いて……の繰り返しだったので、ひとまず昨日は莉玖が寝るまで由羅にはオレの部屋で待機してもらうことになった。
「……由羅~、お待たせ、もういいぞ。晩飯食おう……ぜ?」
泣き疲れた莉玖を寝かしつけて由羅の様子を見に行くと……
由羅はスーツの上着を脱ぎすてて、オレのベッドでふて寝をしていた。
「お~い、由羅~。起きろ!飯食ってねぇだろ?」
上着と鞄を拾いながら声をかけると、由羅がもぞもぞと動いた。
完全に寝ているわけではないらしい。
「……」
「由羅?もう寝るのか?」
「ん~……」
「由羅~!寝てもいいから服脱げ。皺になるだろ」
「別にかまわん……」
ダメだ、完全に不貞腐れてるな~……
「あ~……まぁ……ドンマイ?」
「……何もしてないのに泣かれた……」
枕を抱えたまま、由羅が呟いた。
「うん、そうだな」
「あの恰好する意味あったのか?」
「へ?」
「鬼の恰好で泣かれるならまだわかるが、いつもの恰好の方が泣かれるってどういうことなんだ……」
「あ~、いや、だからな?それはタイミングっつーか……」
一応、鬼の時はびっくりしすぎて固まってたけど、いなくなって安心して泣いていたところに由羅が帰って来たから……と説明はしたものの……
鬼の恰好してる時よりも普通の恰好の方が号泣されたっていうのはキツイよな……
あ~……慰める言葉が出て来ねぇ……
「……莉玖に嫌われた……」
「いやいやいや、嫌ってねぇよ!?大丈夫だって!あ~……えっと、まぁしばらくはもしかしたら泣くかもしれねぇけど……でも、ちゃんとパパと鬼は違うってわかるようになるから!」
「いつわかるんだ?」
「それは……莉玖次第だけど……」
「そうか……」
「あ~も~!ごめんってば!!節分しようなんて言ったオレが悪かったよ!!でも、鬼やりたいっつったのはお前だろ!?いじけんなって!」
「こんなことになるなんて聞いてない!」
オレもこんなことになるなんて予想外だっつーの!!
「由羅~、ごめんってばぁ~!とりあえず飯食おうぜ。な?腹減ってるから余計に落ち込むんだって!」
「食欲ない……」
お前は失恋した女子高生かっ!!
これくらいで食欲なくすなよっ!!
内心ツッコミたい気持ちをグッと堪えて、オレはしょんぼりと俯いた。
「オレ、今日の晩飯、めっちゃ頑張って作ったんだ……莉玖に喜んで欲しくてさ。……結局食べる時には泣いちゃってそれどころじゃなかったから、ちょっとしか食ってくれなかったけどな。……ほんとは由羅にも食べて欲しかったんだけど……でも……食欲ねぇなら仕方ないよな……片づけて来る」
オレが大袈裟にため息を吐いて立ち上がると、由羅が慌てて起き上がってオレの手を掴んだ。
「待てっ!すまない、やっぱり食べる!」
「え?……わかった、じゃあ、お茶漬けか何か軽いの作るよ」
「いや、お前が晩飯に作ってあるのを食べる!」
「……別に無理しなくていいぞ?食欲ねぇんだろ?」
「ある!食べる!食べたい!」
「そ、そうか?ならいいけど……」
ふ……チョロいな。
由羅と一階におりながら、オレはにんまりと笑った。
あんな風に言えば、真面目な由羅は飯を食うと言うだろうと思ったら案の定だ。
まったく、いじけて食欲なくすくらいなら鬼がやりたいとか言うなっつーの!
とは言え、由羅にも食べて欲しかったと言うのも本音だ。
だって、めちゃくちゃ頑張って作ったんだもん!!
「これは……鬼か?」
「一応……ちょっと顔のパーツがおかしくなったけど……」
「スゴイな、莉玖が喜びそうだ!」
「うん、食べる前に見せた時は喜んでた!」
「そうか……来年は莉玖が飯を食ってから鬼が登場した方がいいか?」
「……ほぇ?」
一瞬由羅が何を言っているのかわからず、間抜けな顔で返事をしてしまった。
来年?
「せっかく綾乃が作ってくれたのに、莉玖は結局あまり食べてないんだろう?」
「うん……」
「だったら、来年はちゃんと飯を食べ終わってからの方がいいよな」
「っていうか、来年もするのか!?」
「節分は毎年あるだろう?」
「そうだけど……」
お前さっきまでめちゃくちゃいじけてたじゃねぇか!
「莉玖に泣かれたのはショックだが、行事なんだからちゃんとやらないとな。それに、莉玖に嫌われたわけではないとお前が言ったんだぞ?」
「言ったけど……」
由羅が来年もオレが由羅家 にいることが当たり前のように言ってくれるのが、意外で、ちょっとくすぐったかった――……
***
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