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両手いっぱいの〇〇 第129話
節分から数日間、莉玖は由羅が帰宅する度に泣いた。
朝は同じ部屋にいても大丈夫なのだが、夕方玄関から入って来るのがダメらしい。
あ~失敗した……鬼はベランダから入るようにしておけば良かったな……
すぐにパパだって気付いて泣かなくなるだろ!というオレの読みも見事に外れた。
そもそも、パパイヤ期なのだから、パパだとわかったところで泣くのは変わらないっていう……
夜泣きはしなかったものの、帰宅する度に大号泣の大騒ぎなので、由羅が日に日に落ち込んでしまい、もう最近では莉玖が寝た頃を見計らってコソコソと帰宅するようになってきた。
***
「はい、もしもし?」
オレは一階に下りながら電話に出た。
「私だ。莉玖は?」
「寝たよ」
「そうか……」
「今どこだよ?」
「車庫」
「はあ!?いつからそこにいんだよ!?」
「……2時間くらい」
「さっさと入って来いっ!!」
「わかった」
由羅はどこかに食べに行くわけでもなく、誰かと飲みに行くわけでもなく……車庫に車を停めて車内で時間を潰している。
待っている間は仕事をしているらしいので、本人的には有意義に時間を使っていると言っているが……
「ただいま」
「おかえり。お前さぁ……泣かれるのがキツイのはわかるけど、莉玖が寝るまで車で待ってるのはどうなんだよ!?」
玄関で仁王立ちをして由羅を迎えたオレは、ため息を吐きつつ鞄とコートを受け取った。
「綾乃に任せきりなのは申し訳ないと……」
「ちっがーう!!そんなことを言ってるんじゃねぇよ!!今何月だと思ってんだよ!?2月だぞ!?エンジン切ってる車の中で2時間も過ごしたら寒いだろうが!!お前が風邪引いたらその方が大変なんだよ!!」
「……そうだな、毛布でも乗せておくか」
「はあっ!?え、馬鹿なの!?自分の家に帰って来てんのに車内で毛布被って何時間も待つって、何の我慢大会だよ!?」
呆れて思わず声が大きくなった。
「綾乃、声が大きいぞ」
由羅が控えめにオレの口に指を当てて注意を促して来る。
オレはその指を掴んで頬を膨らませた。
「ほらみろ!手もめちゃくちゃ冷たいじゃねぇか!!」
「綾乃はあったかいな」
「こら!オレで暖を取るな!!ほら、早く入れ!」
由羅がオレの手を握りしめてきたので、そのまま中に引っ張っていく。
「寒いならさっさと入って来ればいいだろ!?」
「だが、私が帰ると莉玖が泣くから……」
「だからって、車で待つことねぇだろ!?とりあえず帰ってきたら家に入って来い!で、莉玖が泣いてどうしようもなかったら、オレの部屋で待つなり、先に風呂入るなりして、ちょっと莉玖から離れていればいいんだよ。全然顔を合わせなくなったら、それこそ莉玖にお前の顔忘れられちまうぞ!?」
「……わかった」
「よし、それじゃあ飯の用意しておくから、お前は風呂入って温まって来い!」
「はい」
「あ、着替えは脱衣所に置いてあるから」
「ああ、ありがとう」
オレは素直に風呂に向かう由羅を見送りながら、コートと鞄を片付けて晩飯の豚汁を温め直した。
ん?っつーか、そもそも雇われてる身のオレが雇い主に「家に入って来い」って言うのもおかしくね!?
まぁいいか……だって、あいつが入って来ねぇんだもん……!
まったく!莉玖よりも由羅の方が手がかかる!!
莉玖がパパイヤ期に入ってから、ただでさえ落ち込むことが増えていたのに、今回ので更に……だ。
参ったなぁ……どうにかして由羅のテンション上げねぇと……今の状態はウザい!!!
もういっそのこと風邪引いて寝込んだ方がマシか?
そしたらイヤでも家に……あ、でも莉玖にうつさないようにしなきゃだから、やっぱり離しておかなきゃだし、結局ダメだ……
オレは無い知恵を絞りまくって、台所でしゃがみ込むと頭を掻きまわした。
「莉奈~助けてぇ~」
思わず、莉奈に助けを求める。
『はいは~い?兄のこと?』
莉玖の傍についているはずの莉奈だが、家の中くらいなら一瞬で移動できるらしいので、オレの呟きに即座に反応して出て来た。
「そう。あいつどうにかして!!」
『無理ね。だいぶいじけちゃってるから』
「ちょっとは考えてくれよ!!」
『え~?そうねぇ……まぁ兄のテンションを上げるのは簡単だけど?』
「え!?まじで?」
『教えてあげましょうか?』
「莉奈さま、お願いします!!」
オレは莉奈に両手を合わせて頭を下げた。
『仕方ないな~。兄のテンションを上げるにはね……――』
***
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