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両手いっぱいの〇〇 第130話

「う~ん……」 「綾乃ちゃん、どうしたの?」  「最高傑作を撮ったご褒美よ!」と、オレの好きなみたらし団子を土産に買って持って来てくれた杏里が、なぜかそのみたらし団子を頬張りながら首を傾げた。  杏里さん、自分が食いたかっただけなんじゃ……まぁいっぱい買って来てくれてるからいいけどさ……?  いや、それよりも…… 「由羅って、モテますよね?」 「え?まぁそうねぇ。それなりにはモテると思うけど……どうしたの?」 「いや……もうすぐバレンタインだから……どんなもんかなって……」 「なにが?」 「だから、チョコですよ」 「チョコ?」 「どれくらい貰ってくるのかなぁ」 「チョコは貰ってこないと思うわよ?」 「え、モテるのに?」 「渡されるとは思うけど、チョコじゃなくて、もっと高価なものが多いんじゃないかしら」  もっと高価なもの? 「う~ん、そうねぇ、例えば、時計とか、宝石とか、車とか……」 「はあ!?何だそれ……」 「だって、あれでも一応それなりの地位にいる人間よ?それに大人の男性はチョコ苦手な人多いから……私も夫と付き合ってた時は、ネクタイピンとか、お酒とか……後は手料理かしらね」 「あ~……」  そうですか……セレブはチョコじゃないんですか……  いや、確かにスーパーとかでも、甘いのが苦手な人用にって煎餅とかお酒とか置いてあるけど……  チョコさえ貰ったことがないオレには全然わからん!!!  でも、由羅ってチョコ苦手なのかな……そういや、あんまり食べてるところ見たことないかも……   「それで、綾乃ちゃんは何をあげるの?」 「オレ?オレは……いや待って?なんであげる方なんですか!オレも一応男なんですけど!?」 「ああ、そうね。じゃあ、今までの彼女からは何を貰ったの?」 「……彼女なんていたことないです……」 「あらあら……」  杏里が心底気の毒そうな顔をした。  悪気がないのはわかってるけど……いや、最初にこの話題を出したのはオレだから何も言えませんね!! 「……高価なものかぁ……」 「まぁ、心配しなくても、響一は綾乃ちゃんがくれるなら何でも喜ぶと思うわよ?」  オレがため息交じりに呟くと、杏里が二本目の団子に手を伸ばしながらサラッと言った。 「そうかなぁ……えっ!?いや、あのオレは別に……」 「どうしたの?響一に何をあげるか考えてたんでしょ?」 「ぅ……そうですけど……」  なんでわかったんだ!?莉奈がなんかしたのか!?  思わず周囲をキョロキョロと見回すが、姿を消しているのか莉奈は視えなかった。 「あの、別に深い意味はなくてですね!?バレンタインだから、その……そう!莉玖にも行事の雰囲気を味わわせてあげたいなって思って、何かしてあげようと思ってるから、ついでに!?うん、最近由羅が莉玖に拒否られて元気ないから、何かまぁ……あげようかな~みたいな……」 「うんうん、いいと思うわよ?」 「つ、ついでですからね!?ホントに、別に何もないですから!!」 「はいはい、わかってるわよ~!」  必死に弁解すればするほど、杏里がニコニコと優しく笑いかけて来る。  だんだんと気まずくなってきて、オレは団子を口いっぱいに頬張った。  あ~もう!バレンタインどうしよう!! ***  先日、由羅を元気にする方法として莉奈が教えてくれたのが、バレンタインだった。  莉奈は、バレンタインにをしてあげれば喜んで由羅のテンションが上がると言ったのだ。  でも、が何なのかは教えてくれなかった。  自分で考えろということらしい。  バレンタインと言えば、チョコだ。  スーパーに並んでいるバレンタインのチョコを買って渡す。  それくらいで由羅のテンションが上がるなら安いものだ。  今までオレのバレンタインと言えば、近所の幼馴染たちとお徳用の小さいチョコがいっぱい入ったやつをわけてただけだったけど、まぁ、由羅にはちゃんとバレンタイン用のチョコを買ってやってもいいかな。な~んて思ってたんだけど……  チョコじゃダメなの!?  時計とか宝石とか……そんなのオレ買えねぇぞ!?    オレは三本目の団子に手を伸ばしながら、大きなため息を吐いた。 ***

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