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両手いっぱいの〇〇 第132話

「お?莉玖、ご飯出来たみたいだぞ!今日のご飯は何かな~?」 「今日のご飯は、バレンタインだから特別だぞ!」  由羅が莉玖を椅子に座らせてくれたので、莉玖に見えるようにお皿を少し傾けた。 「おお~!!と~!あ~の!と~!」 「おっと……」  カレーを見た莉玖が興奮して手をブンブン振り回したので、急いでカレーを遠ざけた。 「うんうん、ハートいっぱいのカレーだぞ!」    今日のカレーはバレンタイン仕様で、ハート型のご飯の周りにルーを注いで、ハート型の人参やチーズを散りばめた。  う~ん、女の子ならもっと可愛く盛り付けたりするんだろうけど……とりあえず、今のオレにはこれが精一杯だな。  もうちょっと盛り付け方の勉強しなきゃだなぁ…… 「具までハートなのか」 「うん、一応中に入ってるジャガイモ、さつまいも、かぼちゃもハートにしてあるぞ。それじゃあ手を合わせて……」 「いただきます」 「っしゅ!」 「はい、どうぞ~!」  オレは小皿に取り分けたカレーを莉玖に渡した。  莉玖がハート型の人参を手で持ってかぶりついているのを見て笑っていると、由羅が手を止めて話しかけてきた。 「ところで……どうして綾乃は普通のカレーなんだ?」  由羅の声が若干呆れている。 「へ?いや、お前らのも普通のカレーだけど?あ、莉玖は甘口で由羅のは辛口にしてあるけど……由羅も甘口がいい?」  一瞬由羅が何を言っているのかわからず、首を捻った。 「いや、辛口でいいが、そうじゃなくて、盛り付けだ。どうしてお前はハートじゃないんだ?」 「ああ……」  由羅と莉玖の盛り付けはハートいっぱいだが、オレのカレーは普通にご飯とルーを盛り付けているだけだ。 「だって、自分で自分にハートの盛り付けしてもなぁ……」  なんか虚しくなるだけじゃね? 「そうか……」 「どうせ腹に入れば一緒だし?」 「それを言ってしまえば元も子もないな」 「……まぁ、そもそもこんなのオレが作っても意味ねぇけどな」  オレはふと我に返って、ちょっと遠くを見た。 「なぜだ?」 「こういうのはさ、好きな子に作ってもらうから嬉しいんだろ?オレ経験ねぇから知らねぇけど……」  保育園では普通にバレンタインも行事の一つとしていろいろと制作をしていたから、なんかしなきゃいけないような気がしていたけれど……よくよく考えてみたら、オレ男なんだから別にここまでしなくてもいいような……莉玖もオレにしてもらっても嬉しくねぇよな~……  まぁ、今はわかってねぇから、喜んでくれるけどさ。  保育士あるあるで、こういうイベント事に取り組む時は途中で我に返ってはいけないのだ。  子どものために、子どもが喜ぶ顔を見たいからと必死になって考えて用意して全力で取り組んでいるけれど、それは時として傍から見れば至極滑稽な姿でもあって……いい歳して何やってんだ?となる。  今のオレがまさにその状態だ。  オレみたいなのが……必死になってハートのカレーなんて作って何やってんだろな……ハハハ…… 「……たしかに嬉しいな」 「ん?」 「いや、今日のカレーは格別美味いな」 「そうか?今日はさつまいもとかぼちゃが入ってるから、だいぶ甘くなってるとは思うけど……お前には甘すぎじゃね?」  さつまいもとかぼちゃを両方入れると甘くなりすぎるので、普段は由羅の分のカレーにはどちらか一つを入れるようにしているんだけど、今日はバレンタインだからちょっと甘めでもいいかなと思って……いや、別に由羅に甘くする必要なかったよな。 「ちょうどいい」 「ふ~ん?なら良かった」  あれ?こいつって甘いのも大丈夫なのか? 「あのさ、一応食後のデザートもあるけど……食う?」 「食べる!」 「あ、うん」  由羅の勢いにちょっとのけ反る。 「でも、デザートがあるなんて珍しいな」  まぁ、普段は手作りおやつを作っても莉玖の分しか作らないし、莉玖には3時のおやつの時に食べさせているので、由羅には出したことがない。 「あ~、まぁな。莉玖は3時に食べてるけど、見たら欲しがるかもだから、先に莉玖寝かせてからな」 「ああ、わかった」  テンションの低い由羅はウザいけど、テンションが高くなるとそれはそれで……こっちが反応に困るわっ!! ***

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