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両手いっぱいの〇〇 第133話

「それじゃあ、ちょっとの間、莉玖のこと頼むわ」  莉玖を寝かしつけたオレは、莉奈に声をかけた。 『はいはーい。ごゆっくり~!』 「いや、由羅にデザート食わせるだけだぞ?」 『うんうん、デザートね~。兄さん、せっかくのバレンタインなんだから、早く本命のデザートも食べちゃえばいいのに~』  莉奈が何やら口元を押さえて呟いた。 「ん?何だって?」 『あ、気にしないで!はい、いってらっしゃい!』  莉奈はたまにわけのわからないことを言っては意味深な顔で笑いかけて来る。  莉奈も杏里さんもホント何なんだよ!?  もう、ハッキリ言って!? *** 「あれ?」  リビングに行くと、由羅がいなかった。  トイレも風呂も電気は消えている。  どこに行ったんだろう……車に忘れ物でもしたのかな?  まぁいいか。  とりあえずコーヒーの用意をしていると、玄関が開く音がした。 「どうしたんだ?何か忘れ物でも……何だそれ?」  リビングに入って来た由羅は、両手いっぱいのでっかい袋を二つ抱えていた。 「バレンタインのプレゼントだ」 「あ~……」  なるほど、杏里さんが言っていたやつか。  一体何人から貰ったんだ……? 「モテる男は大変ですね(棒読み)」 「何がだ?」 「バレンタインは貰ったら三倍返ししなきゃいけねぇんだろ?そんなにいっぱい貰ってたら、お返しも大変だろうなと思っただけ」  由羅が少し首を傾げた。 「まぁ……いつも貰ってばかりだからな」  それは一体どういう意味だ?  え、貰ってばかりってことはお返しとかしねぇの!?  やだこいつサイテー!  ……どうせオレはお返しする相手もいませんでしたけど~!!ふんっ!   「あ、そうだ。ちなみに、それって食い物入ってる?食い物あるなら冷蔵庫に入れておくけど……?」 「食い物は入ってない」 「あ……そ」  まだ……って何!?  明日もまだ貰ってくるかもってことか?わかんねぇなぁ~……  オレは由羅から袋を受け取ると、ひとまずテーブルの横に置いた。  っつか、重っ!! 「とりあえず、コーヒー冷めちゃうから先に飲め。あと……一応これがデザートっていうか、ただのおやつだけど……まぁ、食えるなら食えばいいし、いらなかったら食わなくてもいいぞ」  オレはコーヒーの横にハート型のかぼちゃクッキーとココア入りサツマイモクッキーを乗せた皿を置いた。  莉玖用には普通のサツマイモとかぼちゃのクッキーだったが、何となくバレンタインだからと由羅にはココアパウダーを使ってみた。 「食べると言っただろう?」 「いや、でもこれちょっと甘いし……お前甘いの嫌いなんじゃねぇの?」 「好んでは食べないが、綾乃が作ったものは食べる」 「別に無理して食わなくてもいいですけど?残った分は明日オレが食うし」 「綾乃の分はないのか?」 「え?オレの分っていうか……形が不格好になったやつとか、焦げたやつとかはオレが責任を持って食べたけど?あ、でも焦げてても美味しかったから、味は大丈夫だと思うぞ?莉玖も喜んで食ってたし……それとココアパウダーのはビターだから、あの、ちょっと苦いけど、焦げてるわけじゃ……」 「うん、美味いな」  由羅がクッキーを食べて口元を綻ばせた。 「どちらも甘すぎないし美味しいぞ?」 「そか……なら良かった」  由羅が喜んでくれたので、ちょっとホッとした。  ま、まぁ、莉玖用だからほとんど素材の味だしな。   「それじゃあ、オレ先に寝室に戻ってるから、食い終わったら食器はシンクに置いておいてくれ」 「あ、待て!綾乃!?」 「何だ?」 「見ないのか?」 「何を?」 「だから、これ」  由羅がプレゼントの入っている袋を指差した。 「……あのさぁ、何でオレがお前が貰ったプレゼントを見なきゃなんねぇの?自分が貰ったんだからちゃんとお前がひとつひとつ開けて……」 「綾乃、何か勘違いしてないか?」 「へ?」 「これは綾乃へのプレゼントだぞ?」 「オレ?え、なんで?」 「バレンタインだから」 「ほえ?……」 「だから、これはお前へのプレゼントだ」 「え、あの、オレ男だけど?」 「それは関係ない。バレンタインデーは大切な人に贈り物をする日であって、女性から男性にチョコを贈ると言うのは日本くらいのものだぞ?それに、綾乃も私にクッキー(これ)をくれただろう?」 「……まぁそうだけど……」  由羅に促されて覗き込むと、袋の中には大きな箱がドンっと一個ずつ入っていた。 「これ何なんだ?やけにデカくね?」 「開ければわかる」 「ですよね~」  箱には「Happy Valentine's Day!!」と書かれたシールが貼られていて、ハート柄の包装紙を破ると中から出て来たのは…… 「え、うっそ……圧力鍋?……ちょ、こっちは電気圧力鍋!?」  まさかの、圧力鍋と電気圧力鍋だった。  そりゃ箱がデカいはずだ……   「欲しいと言っていただろう?」 「え?誰が?」 「綾乃が。前に、何か欲しいものはあるかと聞いたら……」  そういえば……少し前に……寝る直前、由羅に何か聞かれた気がする……  半分寝惚けていたオレは、深く考えずに――…… 「――そうだなぁ、強いて言うなら、圧力鍋が欲しいな。電気圧力鍋じゃなくてもいいから、普通の圧力鍋。短時間で野菜も柔らかく煮込めるから楽だし、美味しい。無水調理もできるから食材の栄養分をそのまま摂れるし……」    とか言った気がする……けど、それをバレンタインのプレゼントに買うか!? 「買いに行ったはいいが、サイズや種類がいろいろあってな……綾乃は詳しいことは言っていなかったから、姉に聞いてみたんだ。そうしたら、男三人が食べるなら、これからどんどん量が増えていくだろうからって、それを薦められて……」 「あ~……そりゃまぁ……莉玖が大きくなればきっといっぱい食うだろうしな」  っていうか、これを由羅が選んでいるところを想像すると、何だか……  しかもバレンタインのプレゼントにって言われて店員さんもラッピングするの困っただろうな~……  予想外のプレゼントに、思わず笑いが込み上げてきた。 「ふ、はははっ!」 「なんだ?気に入らないか?」 「いや……あははは!ありがとう!最高!すっげぇ嬉しい!!」 「そうか、良かった」  由羅がホッとした顔で微笑んだ。 「さっそく明日これ使って料理作ろうかな~」 「楽しみにしている」 「おう!」  オレが生まれて初めて貰ったバレンタインのプレゼントは、まさかのデカい鍋二つだった。  うん……実用的!! ***  

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