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両手いっぱいの〇〇 第134話
「綾乃、置けたか?」
「うん、これでたぶん……だいじょ~……ぶ!入った!」
オレは由羅に貰ったでっかい鍋をシンク下に収納するために、奮闘していた。
と言っても、空いているスペースを利用してオレが台所周りの掃除道具を置いていたので、それを除ければいいだけだ。
もともと、由羅の家には台所用品が少ない。
そりゃそうだ。由羅は一人暮らしをしていた時は全然自炊をしていなかったわけだし。
莉玖を引き取った時に、少しは自分でも作れるようになれと杏里に言われて、適当に鍋やフライパン、包丁など必要最低限の調理器具を購入したらしい。
オレがここで料理をするようになって、最初のうちはなんとかここにある調理器具だけで頑張って作っていたが、あまりにも不便なのでこっそりとボウルやザルなどよく使う調理器具を増やした。
もちろん、それはオレが勝手に買ってきたものだから自腹だし、由羅には内緒。
でも、さすがに鍋やフライパンは勝手に買うわけにもいかないので……正直由羅が買って来てくれて助かった。
欲を言えば、フライパンももう少し大きいやつ買ってくんないかな~……とか思ったり……
今度機会があれば頼んでみようかな……
「ところで、この掃除道具はどこに置くんだ?」
「あ~、それは……」
***
「あ!綾乃、そこちょっと出てるから頭を打たないように気を付けろよ?」
「わ~かって……ぅわっ!痛 っ!」
シンク下に置いてあった掃除道具を階段下の収納スペースに片付けていたオレは、急に目の前にクモが下りて来たのでびっくりして思いっきり頭をぶつけた。
「~~~~~っっ!!」
「だから気を付けろと……」
「ぅ~~~……うっせぇ……」
「ちょっと見せてみろ」
クモごときにビビった自分が恥ずかしいやら、痛いやらで半泣きで頭を押さえてうずくまっていると、由羅に引っ張り起こされた。
「冷やすか?ちょっと赤くなってるぞ」
「ぅえ?」
「ちょうど角にぶつけただろう?血は出ていないようだが……」
「そなの?」
一瞬だったし、どこにぶつけたかなんてわかんねぇよ!
ぶつけたところが痛いし、なんか頭がクラクラするし……
「おい、大丈夫か?綾乃?」
「らいじょ……」
うぶだけど……無理……
由羅の声は聞こえるけど、ちょっと待って……目が回る――……
***
「……ん?」
「気がついたか?」
「由羅……?あれ?なんで……」
オレはいつの間にか由羅の部屋のベッドに寝かされていた。
あれ?オレ片づけを……
「頭をぶつけて少しの間意識を失ってたんだ。まぁ、軽い脳震盪だろう。ちょっとたんこぶが出来てるしな」
由羅に言われて頭を触ると、ぷっくりとたんこぶが出来ていた。
氷で冷やしてくれているので、痛いというよりは冷えすぎてジンジンするけど……
「吐き気はないか?」
「へ?……わかんねぇ……」
吐き気かどうかはわかんないけど、まだなんかクラクラしてる気がする……
「今日はもうそのまま寝ろ」
「え……でもオレまだ片づけが……」
途中だった気が……
「階段下のは、とりあえず全部突っ込んでおいた。段ボールとかはまた明日でいい。今は安静にしておけ。いいな?」
「別にもう大丈夫……」
「ダ~メ~だっ!」
オレが起き上がろうとすると由羅に押し戻された。
「ぅ~……ケチッ!」
「なっ!?……ケチとはなんだ!?心配して言っているだけなのに……!?」
「これくらい大丈夫だってばっ!」
「ダメだ!」
「ふぇ……やだぁ!片づけするんだぁ~!」
由羅の有無を言わせない態度に、オレは半泣きの状態で文句を言った。
「えっ!?おい……綾乃?何で泣いて……」
「だって由羅が怒ったぁ~!」
「怒ってない!私は心配しているだけで……って、お前やっぱりおかしいぞ?まだ具合悪いんだろう?」
「もう大丈夫だもん!」
「だもんって……それのどこが大丈夫なんだ……はぁ~……もういいから寝ろ!!」
由羅が自分の額に手を当てて大きなため息を吐いた。
「いやだぁ~!寝ない~!」
「あ~もう!!綾乃!!」
「んん!?――」
由羅が駄々をこねるオレの口を塞いできた。
最初は手で押さえていたのに、オレが驚いて一瞬固まると、手をずらして口唇を重ねて来た。
ん?なんでオレ由羅にキスされてんの?
***
「――ん……っふぁ……由……っぁ……」
「ココも弱いのか。綾乃は弱点多すぎじゃないか?そんなので大丈夫なのか?」
「ふぇ?」
「いや……頼むからその顔は私以外に見せるなよ?……おやすみ」
「……ん」
――この時オレは頭をぶつけたせいでまだ意識が朦朧としていて、情緒不安定になっていたらしい。
うん、だから、オレはこの時のことはあまり覚えていない。
由羅にキスされたのも、そのキスが嫌じゃなかったのも、もっと……キスして欲しいって思ったのも……
全部夢だ……夢なんだっっ!!!夢であってくれえええええええええ!!!
***
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