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両手いっぱいの〇〇 第138話
「あれ?まだ観てたのか」
「ん?ああ……」
はしゃぎ疲れてウトウトしている莉玖を急いで風呂に入れて寝かしつけたオレは、久々にひとりでゆっくりと風呂に入った。
オレが部屋に戻ると、由羅はベッドに寝転んで、オレが撮った莉玖の初めての一歩の動画を繰り返し観ていた。
「ちょっと貸して。それ由羅に送ってやるよ」
オレは動画を由羅のパソコンと携帯に送りつけた。
「いいのか?」
「いいも何も、由羅の子どもだろう?最初からそのつもりで撮ってたし」
「そうか……」
由羅に送ってから、自分でも動画を見返してみる。
だいぶ抑えていたつもりだったが、周りが静かなので思っていたよりも自分の声がはっきり入っていた。
「ごめん、オレがうるさいな」
どれ?と、由羅がオレの携帯を覗き込んできた。
「おいこら、何でこっちを見るんだよ!お前の携帯に送ってやったのに意味ねぇだろ!」
「どうせ同じものを見るんだから別にいいじゃないか」
「それはそうだけど……」
「で、何がうるさいって?」
「だから、この映像。オレの声が入りまくりだから……」
「別に気にならん。それにいつもに比べれば静かだ」
ん?それはどういう意味だ?
「いつもオレがうるさいってことか?」
「……いや、いつもよりは静かだと言っただけだ」
「ふ~ん?」
だからいつもうるさいってことだろ!?
まぁ、自分でもうるさいという自覚はあるから別にいいけど。
「……最初の一歩が撮れるのって貴重なんだよな~」
「そうなのか?」
「意外と誰にも見られてない時に歩き始めて、気がついたらよちよち歩いてるっていうのも多いんだよ」
「じゃあ、莉玖ももしかしたらこれが最初の一歩じゃないかもしれないのか?」
「あ~……まぁその可能性もないとは言えねぇな」
実際はずっと傍についている莉奈が「初めて見た」と言っていたので、99%最初の一歩だとは思うが……まさか守護霊になった母親に聞いたとは言えないし……
「でも、まだようやく二歩目が出たところだから、ほぼ最初の一歩ってことでいいんじゃねぇの?」
「そうだな……それにしても、二歩目を出すのはあんなに大変なんだな」
「そりゃまぁ、初めてなんだし……自転車とかでも最初はなかなかバランスが取れないだろ?一回乗れるようになれば数年乗ってなくても身体が覚えてるけどさ」
「自転車なんてもう何年も乗ってないな」
「良かったらオレの折り畳み自転車貸すけど?」
「そうだな、そのうちにな」
乗る気ねぇなこいつ。
っていうか、今の口振りだと一応由羅って自転車乗れるんだな……
「なんだ?」
「なにが?」
「今笑っただろ」
「え?いや……えっと、良かったな~と思って」
まさか自転車に乗っている由羅を想像して笑ったなんて言えないので、適当に誤魔化す。
「なにが良かったんだ?」
「なにがって……あ~、ほら、前に由羅が言ってただろ?莉玖が歩き始めるところが見てみたいって。だから、一緒にいる時に見ることが出来て良かったなって」
うん、そう!これは本当にそう思ってた!!
「あぁ、そうだな。うん、良かった!」
由羅が画面から目を上げてオレを見ると嬉しそうに笑った。
「――っ!?」
「ん?」
「んん゛、ぃや……あの、それじゃあオレそろそろ寝る!おやすみ!」
「ああ、おやすみ」
オレは由羅に背を向けて寝ると、毛布を頭の上まで被った。
だから、急に笑うなっつーの!!
っていうか、その顔を莉玖に見せろよ!!
オレには別に……なんか無駄にドキドキして心臓に悪いからオレの前では笑わないでほしい……いや、そりゃオレだって、由羅は笑ってる方がいいんだけど――……
今日もまたひとりでごちゃごちゃ考えているうちに、いつの間にか眠っていた。
***
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