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両手いっぱいの〇〇 第139話
由羅は莉玖の初歩きを見られたのが余程嬉しかったのか、それから数日は帰りが早く、帰って来る度に「今日は歩いたか?何歩いった?今から歩かないか?」と莉玖の前で正座をして話しかけていた。
「由羅、そんなに注目されてちゃ、莉玖も緊張して歩けねぇよ」
オレは莉玖が固まっているのを見て、苦笑しつつ声をかけた。
由羅は期待を込めて見ているだけなのだろうが、莉玖にしてみればかなりな圧をかけられているように感じているはずだ。
「普通に遊んでやれよ。テンションが上がったら急に歩くかもしれねぇぞ?」
「そうか……どんな遊びをすればテンションが上がるんだ?」
どんな遊び……う~ん……
「……それはその時によるけど……あぁ、高い高いでもしてやれば?お前がした方が高いから莉玖喜ぶし。何回かして一回下ろしてみたら、もしかしたら「もっかいやって」って立って催促してくるかも……」
「なるほど!よし、莉玖~!高い高いしようか!」
由羅はさっと立ち上がると、莉玖に手を伸ばした。
「あ、ちょっと待て由羅!急に抱き上げると莉玖が……」
「ぁぎゃあああああああ!!」
慌てて台所から飛び出していったオレは、由羅に手を伸ばした状態で固まった。
「……莉玖が驚いて泣くかも~~~……って、遅かったか……」
「……綾乃……もう少し早く言って欲しかった……」
号泣する莉玖をそっと下におろしながら由羅がしょんぼりと呟いた。
「あ~……えっと……ごめん……」
「ぃや……すまない莉玖、驚かせるつもりはなかったんだ」
莉玖の前で正座をして、由羅が頭を掻きながら項垂れた。
あちゃ~……また由羅が落ち込んじゃった……
「莉玖、おいで。ちょっとビックリしたんだよな?だ~いじょうぶだって!パパは莉玖と遊びたかったんだってさ――」
オレが抱き上げて、落ち着かせてから由羅に渡す。
莉玖は由羅に抱っこされると少し身構えていたが、今度は何とか泣かずに耐えた。
「もうちょっとで晩飯できるから、それまで頑張れ~」
莉玖と由羅両方に声をかけると、オレはまた台所に戻った。
***
莉玖はあれから一度も自立歩行をしようとしていない。
まぁ、つかまり立ちや伝い歩きはしているので、単にちょっとそういう気分じゃなくなったってだけだろう。
由羅のプレッシャーもすごいしな……
由羅は、一度莉玖を泣かせてからは、反省して少し莉玖と距離を置くようになった。
……といっても、以前のように顔を合わせないようにするのではなく、あまり「歩いてみせてくれ」と言わなくなったというだけだ。
その代わり、莉玖が歩くところを見逃さないようにと、少し離れた位置から莉玖をじっと見つめている。
それはそれでウザいが……まぁ、莉玖も由羅の視線にはだいぶ慣れてきて、あまり気にしなくなったので、もしかしたら近いうちにまた歩いて見せてくれるかもしれないな~……と思ったり……
「そうなのか!?いつ歩く!?」
「だから、それはわかんねぇっつーの!もう、とりあえず落ち着けって!」
「すまない……」
「心配しなくても、そのうちに歩くようになるから!」
由羅は、莉玖には言わなくなったが、オレには相変わらずだ。
ベッドに入ると、「今日は莉玖は歩こうとしたか?どうして歩かないんだ?」と質問攻めだ。
「また歩くところ見たら動画撮っといてやるから!」
「絶対だぞ!?ちゃんと撮っておいてくれよ?」
「わかったって!っていうか、もう最初の一歩は撮ったんだから、後はそんなに特別なもんでもないと思うけど……」
「まだ二歩までしか歩いてないだろう?」
「……おい、もしかして最初の三歩、四歩……って全部撮れってこと?」
「ダメか?」
「あの~……由羅さん?ちなみに何歩まで撮るつもりですか!?」
「そうだな……十歩くらいまで?」
「ぅおおおい!!そんだけ歩けるようになったら、もうよちよち歩き回ってるっつーの!!」
オレは思わず由羅にツッコんだ。
「そうか……」
「まぁ、とりあえず……見かけたら撮っといてやるけど……」
――やれやれ、もういろいろと面倒くさいから早くパパの前で歩いて見せてやってくれよ莉玖~!
オレはベビーベッドで眠る莉玖に向かって心の中で叫んでいた。
***
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