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両手いっぱいの〇〇 第141話
翌日、由羅は若干二日酔い気味だった。
そっとため息を吐いたオレは、テーブルに肘をついて顔を覆っている由羅の前に味噌汁とコーヒーを置いて、莉玖に朝飯を食べさせた。
「ほら、酔っ払いパパには味噌汁!」
「あぁ、ありがとう……」
「お待たせ!莉玖は鰹節と人参のおにぎりだ。ほら、ちゃんとモグモグするんだぞ~」
「も~ん、も~ん!」
「うん、言わなくていいからちゃんと噛んでくれ。モグモグって。由羅は味噌汁が無理ならコーヒーだけでも飲んでおけ!そんな状態じゃ車の運転できねぇだろ?」
「……わかってる……綾乃、ちょっと声のボリューム落としてくれ……」
「うるさくて悪かったな!!」
前回は二日酔いにはなっていなかったはずだから、今回の方がひどいな……
「……それで、昨日はなんかあったのか?」
「え?」
さりげなさを装って由羅に話を振ると、味噌汁を飲んでいた由羅が驚いたように手を止めた。
昨夜、由羅が寝てから考えていた。
前回由羅が酔って帰って来たのは、反りの合わない親戚連中との飲み会に出た時だ。
その時は親戚連中に無理やり飲まされたと言っていたが……逆に言えば親戚以外でそんな風に由羅に無理やり飲ませられる人は少ない……と思う。
由羅は飲みたくなければはっきり断ることが出来るやつだからだ。
その由羅がこんなになるまで飲んだってことは、よほど由羅が断りにくい相手だったか、もしくは……飲まずにはいられない程のことがあったのか……
例えば、恋人と……ケンカした……とか?
「ちょっとな……取引先と面倒なことになってて……」
あれ?ケンカじゃねぇのか……
って、何でオレちょっと残念に思ってんだ?
「あ~……えっと、揉めてんの?」
「う~~ん……揉めてるというか……仕事とは別のところで面倒なことに……」
「んん?」
なんか由羅にしては歯切れが悪いな……
二日酔いだからか?
あ、違うか。
「ごめん、やっぱり言わなくてもいい。仕事関係ならオレが聞くことじゃねぇし……」
由羅の仕事のこととか、プライベートとか……オレが聞いてどうすんだよ。
ダメだなぁ……由羅は雇い主だってわかってるのに、なんか距離感バグってるから、つい友達感覚で口出ししたくなるんだよな……
「え?いや、そんなことは……」
「莉玖、サツマイモもあるぞ。もう熱くないから手で持っていいぞ?」
オレはスティック状に切ってあるサツマイモを莉玖に渡した。
「おんも~!」
「おいも好きだもんな~!」
「ん~まっ!」
「綾乃、話を……」
「由羅、時間大丈夫なのか?」
由羅の声を遮って、オレは時計を指差した。
「ん?あ……もう出ないと!」
「二日酔いは大丈夫か?」
慌てて出かける準備をしている由羅に、一応声をかける。
「あぁ、少しマシになった」
「そか、あんまり無理すんなよ?」
「わかった。綾乃、帰ってきたらさっきの話しの続きを……」
「あ~はいはい。ほら、莉玖、パパに行ってらっしゃいして?」
由羅がガシッとオレの肩を掴んで来たので、オレは話を遮って抱っこしていた莉玖の手を左右に振った。
「あ、んん゛、綾乃、今日は早めに帰ってくるから。それじゃ、莉玖、行ってきます!」
「はいよ~……行ってらっしゃ~い」
「パッパ!た~い!」
オレは由羅の背中を押し出すようにして送り出した。
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