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両手いっぱいの〇〇 第146話
「彼女と付き合う気などない。だが、何度断っても通じないから、パパイヤ期の莉玖と――」
パパイヤ期の莉玖は由羅と二人っきりでのお出かけだとすこぶる機嫌が悪い。
しかも人見知りもしているので、知らない人に抱っこされると激しく泣く。
そんな状態の莉玖を連れて行けば、あの女と会うと確実に泣くはずだ。
だから、あの女に会って莉玖が号泣するところを見せて、「この子が嫌がっているから交際は無理だ」と話しを持って行くつもりだったらしい。
「……いやいや、なんだよその雑な計画はっ!!」
「え?ダメか?三日前に話した時は綾乃もこの計画でいいと思うって言ってたじゃないか」
由羅が若干戸惑った顔をした。
いや、オレそんな計画聞いて……え、三日前?……って、莉玖を会わせようと思うって言ってた日のこと?
あの時オレ、由羅はあの女と付き合うつもりなのかと思って……なんかぐるぐる考えてたから、その後の由羅の話しは上の空だったかもしれない……
じゃあ、オレがちゃんと聞いてなかっただけ?
そういや、莉奈も計画を聞いたみたいなこと言ってたな……
え~……
なんでちゃんと聞いてなかったんだよオレえええええ!!
「だって、子どもは好きだから大丈夫とか言ってたんだろ?もしあの女が本当に子どもの扱いがうまくて、莉玖があの女を気に入って大人しく抱っこされたらどうするつもりだったんだよ!?」
「ああ、それはまずない」
なぜか由羅は自信満々に言い切った。
「私もただ振り回されていたわけじゃない。断るための材料を揃えるために彼女のことも調べていた。たしかに子どもは好きだから大丈夫だと言ってはいたが、普段の彼女の様子を見れば子どもの相手などほとんどしたことがないとわかる。実際、彼女は全然ダメだっただろう?」
「それは……そうだけど……」
「これでも莉玖のベビーシッターを探すために大勢の保育士を吟味していたからな。性格、子どもへの愛情、信頼性、その他諸々を兼ね備えたいい保育士を見る目は誰よりもあると思うぞ?」
由羅がちょっと眉を上げてドヤ顔でオレの顔を覗き込んで来た。
「あの女は保育士じゃねぇだろ……」
「そういうことを言ってるんじゃないんだが……」
由羅がちょっとため息を吐くと、オレを椅子に座らせて莉玖をベッドに下ろした。
***
「ん?じゃあ由羅は、あの女が子どもの相手なんか出来ないってわかってるのに莉玖を渡したのか!?あの女、莉玖を……」
「ああ、見ていたから知っている」
「ちょっと待て……見ていたって、どこで?だってお前、電話……」
「電話がかかってきたように見せていただけだ」
へ?かかってきたようにみせていただけって……つまり……
「ただのアラームだ。私も最初は彼女に莉玖を抱かせる気はなかったが、彼女が「抱っこしたい」と言って無理やり莉玖を抱こうとしたものだから莉玖が号泣してな。そこにちょうどアラームが鳴ったから、いっそこのまましばらく様子を見てみようかと……」
由羅は、莉玖と二人っきりになればある意味、彼女の素の状態が見えていいかもしれない……と思い、わざと二人から離れて隠れていたらしい。
「さすがに莉玖を叩こうとするとは思わなかったから、私も急いで止めに入ろうとしていたんだが、ちょうど綾乃が走って来るのが見えたのでな、綾乃に任せることにしたんだ」
「なんだよそれ!?」
「綾乃の勢いが凄くて圧倒されたのもあるが……」
由羅が少し苦笑した。
何をのんきに笑ってんだコノヤロー!!
「凄くもなるっつーの!だってあのままだと、ケガしてたかもしれねぇんだぞ!?」
「そうだな。すまない。綾乃がいてくれて良かったよ」
「お前はわかってない!!オレが言ってるのは……」
「いや、わかっている。彼女の恰好は私も気になってはいたんだ。特にアクセサリーがな」
あれ?
「なんだ、そこ気づいてたのか」
オレと莉奈があの女の恰好を見て「危ない」と言ったのは、ジャラジャラとつけたアクセサリーのことだ。
キラキラしたもの、ゆらゆらするものが好きな子どもにとってアクセサリーは触らずにはいられないものなのだ。
あの女がつけていたでっかい輪のピアスなんかは、子どもに引っ張れと言っているようなものだ。
だが、子どもは加減を知らないので、ギュッと掴んで思いっきり引っ張ったり口に入れたりする。
ピアスなんかは、引きちぎられると下手をすれば耳を怪我することもある。
あの女がケガをすることに関しては別にかまわないのだが、オレと莉奈は、ケガをした後あの女が莉玖に何らかの危害を加えるのではないかと危惧していたのだ。
「育児本はいっぱい読んだと言っただろう?育児中にあまりアクセサリーをつけない方がいいという理由も書いてあった。それに、私も莉玖と一緒にいて髪を引っ張られたり顔を掴まれたりはしょっちゅうだしな……だから、今日の彼女の恰好は危ないと思っていた」
「だったら莉玖を渡すなよ!?だいたい、お見合いとか交際とかはお前の問題だろ!莉玖を持ち出すんじゃねぇよ!そりゃ莉玖にとっても……新しい母ちゃんになる人かもしれねぇんだから、全然関係ないわけじゃねぇけど……でも最初から断るつもりなら莉玖に会わせる必要はねぇだろっ!?」
「それはそうかもしれないが、綾乃だって三日前は何も……」
「だから、それはお前が……その女と付き合うことにしたんだと思って……だったらオレが口出すことじゃないかなと思って……」
「諦めさせるための計画だって言ったのにか?」
由羅が首を傾げた。
「だってオレ、その部分は全然聞いてなかったしっ!!」
「いや、堂々と言うことじゃないだろう。じゃあ私の話しはほとんど聞いてなかったってことか?」
「ちゃんと聞いてたらそんな計画賛成するわけねぇだろっ!!」
「綾乃、言っていることがめちゃくちゃだぞ」
「お前はやってることがめちゃくちゃなんだよ、バカ!!頭いいくせになんでそんな計画立ててんだよっ!!」
「褒められてるのか貶されてるのかわからんな……」
「呆れてんだよっ!!っつーか、お前はちょっとは反省しろよっ!!そこに座れっ!!」
「……はい」
オレは由羅を正座させると、莉玖が起きるまでの1時間、延々と説教をした。
***
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