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両手いっぱいの〇〇 第148話
「かんぱ~い!」
飲みものが配られるなり、亮 がグラスを持ち上げた。
「おい、リョウちゃん!何に乾杯するのか言えよ!」
保津 が呆れ顔で、早速飲もうとしていた亮の手を止めた。
「え?あ、何だっけ?」
「キーチのお祝いじゃねぇのか?」
綾乃が言うと、亮がポンと手を叩いて綾乃を指差した。
「あ、そうだった。じゃ、キーチの就職内定を祝って、かんぱ~い!」
「もう何でもいいや。かんぱ~い」
「相変わらず雑だな~。まぁいいけど。一応みんな祝ってくれてありがと~。かんぱ~い」
「え、もう飲んでいいの?」
「んぐ?あ、ごめん、もう食べてた。かんぴゃ……かんぱ~い!」
各々が好き勝手喋りながら、何とも締まらない乾杯をして飲み会が始まった。
***
「メイちゃん、飲んでる~?」
ガタイのいい保津がご機嫌で絡んで来た。
「飲まねぇよ!オレ今住み込みで働いてんだから、酔っ払った状態でなんか帰れねぇだろ。っつーか、たもっちゃん、重いって!」
オレはソフトドリンクを飲みながら、開始30分ですでに出来上がっている保津を押しのけた。
今日はガキの頃同じアパートに住んでいた幼馴染たちとの飲み会だ。
当時の幼馴染はまだ他にもいるのだが、今回は飲み会なので、20歳以上の奴らだけだ。
さっき絡んできた保津から連絡があったのは、由羅が莉玖を使ってとんでもない計画を実行した日だった。
「それにしても、メイちゃんが住み込みで働くなんてね~」
「子ども小さいの?」
紀子 と紗希 が話をしながらさりげなくオレの前にあった焼き鳥をヒョイっと取って行った。
「まぁな。って、あっ!こら!それオレのだぞ!?そっちにまだいっぱいあるだろっ!?」
「バレたか。だって、メイちゃんのお皿の方が近かったんだもん」
紀子がペロッと舌を出した。
そうは言うが、大皿との距離はたいして変わらない。
「あ~もう!どれがいるんだよ?取ってやるからいちいちオレの串を持って行くな!」
オレが取り皿に取っても、二人が交互に取っていくので、ほとんど食べることが出来ない。
仕方ないので、二人の皿にそれぞれ焼き鳥やつくねを数本取ってやった。
紀子は20歳だが、高校卒業と同時に結婚し、今は2人の子持ちだ。
しっかりしているので、幼馴染の中でも姉的な存在だったが、オレにはわりと甘えて来る。
紗希は……あれ?
「おい、今日って20歳以上の面子で集まってるんじゃねぇのか?さっちゃんって20歳だっけ?」
「まだ19だよ~?」
「だよな?なんでお前の前にレモンサワーが置いてあるんだ?」
「え?これは、ただのレモンスカッシュだよ~!」
「オレは騙されません!没収~!」
「ちょっとくらいいいじゃんか~!メイ兄のけちぃ~!」
「やかましいわっ!ほら、ソフトドリンクなら飲んでいいから。どれにするんだ?」
「え~、じゃあオレンジジュース」
「よしよし、いい子だな!」
紗希は甘え上手で自由奔放。
少し危なっかしいところもあり、何となく放っておけない。
いつまで経っても、みんなの可愛い妹的存在だ。
オレが一人暮らしをしていた時にはしょっちゅう泊まりに来ていたが、今は他のやつらの家に上がりこんでいるらしい。(結婚している紀子の家にもよく泊まりに行っているとか……)
***
「え……?」
オレが由羅家で働くことになった経緯を簡単に説明したところ、なぜか幼馴染たちはみんな絶句して、微妙な表情でオレを見てきた。
「――メイちゃん、それって脅迫っていうんじゃないのか?」
「いやいや、そんな物騒なもんじゃねぇよ?」
「だって、断れない状態に持って行って、決断を迫られたんだろ?」
「あ~……まぁ……そう……かな?」
「そんなの無効だろっ!?なんでそんなとこで働いてんだよっ!?」
オレは亮の勢いに押されて少しのけ反った。
「え、いや、だってあの、たしかに最初はオレもびっくりしたけど、でもな?思ったほどイヤな奴じゃないっつーか、あ、そうそう、給料とかもいいし、待遇もめちゃくちゃいいし……」
慌てて待遇の話しをすると、今度は
「待遇が良すぎる。やっぱり何か後ろ暗いことがあるとか、これからその待遇の良さをエサに何かさせられるんじゃねぇのか!?」
「うんうん、怪しいよね!?」
「そいつって実は人に言えないようなことしてるとか……っ!?」
「庭には他人に知られちゃいけない何かがいっぱい埋まってたりして……で、ある夜、埋めてるところをメイ兄が見ちゃって、みぃ~たぁ~なぁ~~~って!」
「いや、B級映画かよ」
「なんだそりゃ」
ほんとになんだそりゃ。
でも、莉玖のこととか莉奈のこととか、こいつらにも話せていないことはたくさんある。
詳しい事情を知らずに、ただ出会った時にとった由羅の言動だけを聞くと……まぁたしかに、不審なヤツっていうか、怪しい点しかねぇな……
「――メイちゃん、実はもう改造されてんじゃないの!?」
「へ?改造って何の話だ?」
いつの間にやら幼馴染たちは、なぜかオレそっちのけで勝手に『由羅は悪の組織の悪い奴』という話で盛り上がっていた。
「手術の痕とかないかっ!?ちょっと見せろっ!」
「どこだどこだ~!?」
「ちょ、亮!服めくるなっ!くすぐったいっつーの!おい、保津まで!?お前ら止めろって!こらああああああ!!悪ノリしすぎだああああああああああ!――」
オレは、押さえつけて服をめくってきた亮と保津に蹴りを入れ、二人の頭に一発ずつ拳骨をくらわした。
「痛いっ!」
「痛ええ!」
「ったく、他のお客さんに迷惑だろっ!ふざけすぎだっ!」
「ぅ~……ごめんなさい」
「メイちゃん、ごめ~ん」
「あはは、怒られてやんの~!」
亮と保津が悪ノリをしてオレに怒られるのはいつものことだ。
まったく、いつまで経ってもガキのまんまだなぁ……
オレは呆れつつも、幼馴染たちとの時間を楽しく過ごしていた。
***
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