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両手いっぱいの〇〇 第151話
「……これは失礼。だが私のことはもう知っているのだろう?まさか往来で自分の名前を一斉唱和されるとは思わなかったぞ」
「やっぱりあんたが由羅か……さっき、メイは今日は帰らないって言ったはずだけど!?」
「あぁ、さっき電話に出たのはきみか。私も迎えに行くと言ったはずだが?というか、もうすでに店の前にいたしな」
「はあ!?店の前って……え、メイを迎えに来たってこと?」
「他に何をしに来るんだ?」
「いや、おかしくね?ただの家政夫をわざわざ迎えに来るか?そんなにメイを監視してたいのかよ」
え、由羅、迎えに来てくれたんだ?
っていうか、リョウはさっきから何を怒ってんだ?
監視って何のこと?
「私は綾乃を監視したことはない。迎えに来たのは心配だったからだ。私の家の周囲は夜は人通りが少ないからな」
「心配って、そんなこと言って連れて帰ったらお仕置きするんでしょ~!!メイ兄をいじめたら許さないんだからね!?」
亮 と由羅の間にズズイと紗希 が割り込んで来た。
「ちょっとさっちゃん!?」
「メイ兄はこんな不良っぽい顔してるし口も悪いしすぐに頭叩いてくるけど、ホントは全然怖くないし、チビだし、告白する前に撃沈するヘタレだし、他人の面倒ばっかり見てて、紗希にもご飯いっぱい食べさせてくれるめちゃくちゃ優しいお兄ちゃんなんだからね!?そうよ、あんたが独り占めしてるせいで紗希がメイ兄のご飯食べられなくなっちゃったんだから!」
「うん、わかったからちょっとさっちゃんは黙ろうか」
「おい、誰だよさっちゃんに酒飲ませたの」
「いや、これ素面 だろ――」
「紗希のご飯ん~~~!!」
「はいはい、もう目的変わってるしな……」
希一 と保津 が紗希を両側から抱えて後ろに引きずって行く。
あはは、さっちゃんはそんなにオレの飯が食いたかったのか~……っつーか、オレの良い所は飯を食わせてくれるってことだけかよ……
「……私は綾乃をいじめたこともお仕置きをしたこともないぞ?」
由羅が紗希の勢いに戸惑いつつ、軽く首を傾げた。
うそつけ~!お前しょっちゅうからかって……あ、からかうのといじめるのは違うか……
「あ~、あの子が言っていたのは気にしなくていいです」
亮がちょっと咳をすると、気を取り直して由羅に向き直った。
「お仕置きとかはしたことないのかもしれねぇけど……メイは飲んだら帰れないって言ってた。それって、あんたのせいだろ?いくら住み込みだからって、休みの日に飲むくらい大目に見てもいいんじゃねぇのか?メイのプライベートにまで口出しする権利はねぇだろ?」
「何か勘違いをしているようだが、私は綾乃に飲むなと言ったことはないし、行動を制限したこともない。休みの日に飲みに行こうが遊びに行こうが、法に触れるようなことさえしなければいい」
「……え?」
「そろそろ、綾乃を連れて帰ってもいいかな?」
「……メイちゃん、どうする?」
「ん~……かえりゅ……ましゅ……」
「……わかった……」
なぜか亮が悔しそうに舌打ちをした。
なんだぁ?そういや小さい頃からリョウってオレを独り占めしたがってたよな……
今でもそう思ってくれてんのかなぁ~……背はオレよりも高くなったのに、やっぱ性格は変わんねぇな~。
「りょ~、あんがとな~」
亮の背中から下りる前にポンポンと頭を撫でると、心なしか亮の耳が赤くなったように見えた気がした……
「綾乃!ほら、帰るぞ」
「わわっ!?」
亮の背中から下りるなり、由羅に抱き上げられた。
いや、おんぶじゃねぇの!?なんで前!?
「ゆら、おれ、あるく~……」
「まっすぐ立つことも出来ないくせに何を言ってるんだ?」
「た~て~る!おれ、おもいしぃ~……」
「そうだな、莉玖よりは重いな」
「あたりまえら!ばかにしゅんなぉ!?」
オレは頬を膨らませて、由羅の肩をペチペチと叩いた。
「バカになどしていない。事実を言っただけだ」
「むぅ~~……おろしぇって!」
「あまり暴れると酔いが回るぞ」
「うるへぇ~!……ぅ゛……」
大きな声を出した途端、急に吐き気に襲われた。
少しはアルコールが抜けてもいい頃だと思うのに、マシになるどころかまた酷くなってきた気がする……
「ほらみろ。少しは大人しくしてろ」
由羅はオレの頭を軽く押さえて肩に埋めると、亮たちの方を向いた。
「住み込みで働いているせいで綾乃に声をかけづらくしてしまったのなら謝る。一人暮らしをしていた時のようにはいかないと思うが、綾乃が淋しがっているから、また遊びに誘ってやってくれ。一週間前くらいに日程がわかっていれば、綾乃が休めるようにこちらでも調整する」
「……あ、はい……」
悪者だと思っていた由羅があまりにもイメージと違うことを言ったので、幼馴染たちがポカンと口を開けた。
「あ、あの、メイちゃんのことよろしくお願いします!」
紀子 がペコっと頭を下げた。
「メイちゃん、お酒飲んだのは事故みたいなもので、間違えて飲んだだけだから、クビにするようなことは……」
「心配しなくてもこれくらいでクビにしたりしない。それより、何を飲んだんだ?」
「あ~、俺のウーロンハイをウーロン茶と間違えて……その一杯だけでひっくり返ってたから、他には飲んでませんよ」
紗希を押さえながら希一が答えた。
おい、キーチ!ひっくり返ってなんかねぇぞ?オレはちょ~っとだけ目を瞑ってただけで……
「なるほど。わかった、ありがとう。それじゃあ、うちの綾乃が世話になった」
「……うちのメイのことくれぐれも!よろしくお願いしますっ!」
ん?……由羅もリョウも何のマウント取り合ってんだ?
よくわからん空気が流れる中、オレは由羅に抱っこされたまま幼馴染たちに手を振った。
***
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