152 / 358

両手いっぱいの〇〇 第152話

「綾乃、着いたぞ。歩けるか?」 「ん~……」 「ダメだな。ほら、ちゃんと掴まれ」  車に乗るなり爆睡していたオレはまた由羅に抱っこされて家に入った。 「吐くならできるだけトイレで頼むぞ」 「わ~ってる……」 「水飲むか?」 「ん~……」  リビングのソファーに座って一息ついていると、由羅が水を入れてくれた。  あれ?そういえば…… 「……りくは~?」 「姉のところだ。パパイヤの今は私では寝かしつけが出来ないからな。綾乃を迎えに行った帰りに莉玖も迎えに行くつもりだったが……さっき姉に電話して明日まで頼んだ」  由羅は、お前がこんな状態じゃ莉玖を迎えに行けないだろう?という顔で軽くため息を吐いた。 「あ゛~……マジかぁ~~……しゅみましぇん……」  オレは両手で顔を覆ってゴシゴシと撫でながら頭を下げ……ると吐きそうだったので、ソファーにふんぞり返った。  うん、だからこれは別に反省してないとかじゃなくてな?吐かないようにするための一時的なアレであって、なんていうか……はい……ごめんなさい…… 「いや……飲み会だと聞いていたからこうなる可能性も考えてはいた。まぁ、綾乃がここまで酒に弱いのは予想外だったが……でも綾乃は自分が弱いってわかっているから、飲まないように気を付けていたのだろう?間違えて飲んだのなら仕方がない」 「……だって、のんだら……かえれにゃぃ……しぃ~……」 「さっきもそう言っていたな。それはどういう意味だ?たしかに飲んだら自転車には乗れないし、歩いて帰って来るのは大変だが……家を出る時に、帰りは迎えに行くと言っただろう?」 「いってたけど……」  ……だってこんな酔っ払った状態で雇い主の家(職場)に帰れるわけねぇだろ…… 「綾乃はあの幼馴染とやらの家に泊まるつもりだったのか?」 「んぇ?あ~……りょ~のこと~?」 「あのリョウとかいうやつは……昔からなのか?」 「うんうん、りょ~は、い~こでさ~。ガキんときから~、オレのあとついてきて……」  そうだ、ガキんときはリョウはいつも「おれはメイをおよめさんにする!」っていってたな~…… 「およめさんっ!?」 「そ~なんだよ。か~わい~だろ?あいつ、おれのこと……おんなだとおもってたのかな……?」  でも、ガキんときからオレは目つきも口も悪くて……かわいげがないっていわれてたけどな~…… 「なるほど……あいつは何て名前なんだ?」 「へ?だから~、リョウだってば~!」 「名字は?」 「う~んと……って、なんでそんなこと聞くんだ?」 「え?いや……こちらの名前を知られているのに向こうは名乗らなかったからな。不公平だと思って……」 「へぇ~……?」  不公平?何が?別にオレの幼馴染の名前なんて知っても意味ねぇだろ? 「というか、なぜ彼らは私のことを知っていたんだ?」 「あ~……なんでだろ?オレが今住み込みで働いてるって話を……した時に……名前を言ったか……も……」 「あ、こら、綾乃!こんなところで寝るな!寝るならベッドで……」 「わ~ってる~って~」  酔いは醒めてきたと思うのに、めちゃくちゃ眠い……  ダメだ、ちょっとだけ……寝かせて…… 「……ほら、起きろ!寝室に行くぞ」  由羅に起こされ、抱き上げられる。  大丈夫だって、ちょっと寝たら自分で行くし……  と反論したつもりだったが、由羅の体温が気持ち良くて無意識に抱きついていた。   ***  オレをベッドに転がした由羅は一旦部屋から出て行ってすぐに戻って来た。 「綾乃、服を脱げ!着替えるぞ」 「ん~……このままでい~って……」 「ダメだ!そんな服で寝かせられるか!さっさと脱げ!」 「え~……」  着替えるの面倒だし……別に一晩くらい、いいじゃんか~……  あぁ、居酒屋にいたから服が臭いのかな?汚れてはないと思うけど……  っていうか、あれ?ここ由羅の部屋?  莉玖がいないのに一緒に寝る必要なくね? 「オレ、自分の部屋(あっち)で寝る……」 「綾乃!」 「わっ!?」  眠気と戦いつつ何とか起き上がったオレは、由羅に引っ張られてまた後ろに倒れていた。  なんだよもぅ!せっかく起きたのにぃ~…… 「……私がイヤだから着替えて欲しいんだが」  由羅が上から覗き込んでくる。 「だから~、酒臭いんだろ?イヤなら自分の部屋で寝るって~!……どうせシーツ洗うのオレだし……」  明日自分で洗うんだからいいじゃんか…… 「違う!酒臭いとかじゃなくて……あいつがベタベタ触っていたから……」  由羅がちょっと気まずそうに視線を逸らした。 「あいつ~?……」  って誰? 「お前を連れて帰ろうとしていたヤツだ」 「あ~……リョウ?ベタベタって、おんぶしてくれてただけだろ?」 「……それだけじゃないと思うが……」 「ん?」 「とにかく着替えろ!」 「もぉ~なんなんだよ~……」 「ほら、バンザイしろ!」 「ん゛~」  文句を言ってなかなか脱ごうとしないオレに焦れて、由羅がオレを抱き起こし服の裾を持ち上げた。  最近は減っているが、何だかんだで普段、莉玖の着替えをしているせいか、やけに手際がいい。 「着替えは適当に持って来たぞ。綾乃がいつも着ているやつを持って来たつもりだが……ほら」  由羅がオレの横に服を置いた。  さっきこれを取りに行ってくれてたのか……   「脱がしたんだから最後までやれよ~」  オレは礼を言う代わりに由羅に服を投げつけた。  何でそんなことを言ったのか自分でもわからない……  うん、まだ酔ってたんだな、きっと。   「最後まで……?」  一瞬由羅の頬が引きつったような気がした。  ん?なんだよその顔……怒った? 「服、着せてくれねぇの?」 「はぁ~……なんだ、服のことか……わかった。ほら――」 「ん~……」  由羅がやけに深いため息を吐いたので呆れて怒っているのかと思ったが、意外と優しく服を着せてくれた。   「もう寝てもいいぞ」 「ふぁ~~い……」  言われた通りにパタンとベッドに倒れ込む。   「はぁ……まったく……外で酒を飲むのは禁止だなこれは……いや、そんなことを言えばあの幼馴染たちにまた何を言われるか……くそっ!……」  由羅がブツブツ言いながら着替えている様子は何となく感じていたが、ツッコむのも面倒で聞き流した。 ***

ともだちにシェアしよう!