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両手いっぱいの〇〇 第153話

「ぅ~ん……」  どれくらい寝たのかわからないが、薄目を開けるとまだ室内は暗かった。  酒を飲んだらなんでトイレに行きたくなるんだろう……  面倒くさいけど朝まで我慢はできねぇもんな~……  仕方ねぇな、起きるか……  オレは眠い目を擦りつつ身体を起こした。 「なんだ?吐くか?」 「ひぇっ!?」  寝ていると思っていた由羅に声をかけられて、ちょっとビビる。  まだ起きてたのか……いや、オレが起こしちゃったのか? 「……ちがう、トイレ~……」 「ひとりで行けるか?」 「ガキじゃねぇんだし、いけるっつーの」 「ひとりで着替えることもできなかったくせに」 「着替えくらいひとりでできますぅ~。あれは面倒だっただけだしぃ~……って、なんでついてくるんだよ!?」  ふと気づくと、由羅は何だかんだ言いながらオレの後ろからついて来ていた。  いや、怖いんですけど!? 「お前がトイレから戻らないかもしれないからな」 「……え、何それ。ホラー?」  トイレの花子さん的な? 「綾乃がトイレで寝る可能性があるってことだ」 「さすがにそれはねぇよ!もう酔いは醒めました~!」  オレは由羅にべーっと舌を出して、目の前でバタンとトイレの扉を閉めた。 「まだ完全に醒めてはいないぞ。だいたいアルコールが完全に抜けるのは飲んでから……」 「あ~もう!こんな夜中に難しい話されるとホントにトイレで寝ちまうだろ!」 「難しくはないと思うが……」  っていうか、なんでオレは夜中にトイレでこいつのわけわからん話を聞かされてんだ? 「もういいからお前は戻って寝ろよ!」 「……」 「……あれ?由羅?お~い?」  急に声が聞こえなくなったので慌ててトイレから出ると、トイレの前にいたはずの由羅がいなくなっていた。  なんだよ、先に戻ったのか?  だったら何か言って行けよな!!  手を洗って寝室に戻ったオレは、部屋に入ったところで立ち尽くした。 「え?……由羅、どこだ?」  ベッドは空っぽで、部屋のどこにも由羅の姿はなかった。   「いやいや……冗談キツイって……」  あれ?これって夢?  今オレ起きてる?寝てる?  ちょっと待て!トイレの夢見る時って、わりと実際トイレしたい時が多くて、ガキの時とか目が覚めるとおねしょしてるってパターンが多かったような……  え、オレこの年でおねしょ?嘘だろ……  オレがその場にしゃがみ込んだ瞬間、ドアに背中を押されて顔面から床に突っ込んだ。 「ぶへっ!」 「……綾乃?そんなところで何をしているんだ?」 「由羅!?へ?お前こそ、何やってんだよ!?今どっから来たんだ!?」  床にぶつけた鼻を撫でながら由羅を見上げる。  痛い……ってことは夢じゃない!  おねしょしてなくて良かったぁ~…… 「扉からだが?」 「そうじゃなくて、先に部屋に戻ったんじゃねぇの?」 「あぁ、ほら」 「なんだよ?」  由羅がペットボトルを渡して来た。 「飲んだ後は水分補給しておいた方がいいからな。ってお前がいつも言っていることだろう?」 「あ~……うん、そうですね……」  え、じゃあ水を取りに行ってくれてたのか…… 「それならそうと言ってから行けよっ!急にいなくなるとビビるだろ!?」 「え?ああ、そうだな。水を取りに行ってきた」 「遅いっつーの!」 「次からは気を付ける」 「まぁ……あんがと……」 *** 「吐き気はないのか?」 「ん~、大丈夫。量的にはそんなに飲んでないし」  水を少し飲んでベッドに戻ったオレを、由羅がじっと見てきた。 「なんだよ?」 「何をそんなに怒っているんだ?」 「へ?」 「さっきからやけにイライラしてないか?」 「別にイライラは……」  イライラしてるわけじゃなくて……  さっき、由羅がどこにもいないって思った瞬間、ちょっとだけ……ホントにちょっとだけなんだけど、寂しいっていうか、不安っていうか……なんかそんな気持ちになった……のを認めたくなくて誤魔化してるだけなんだけどな!? 「どちらかと言えば、怒りたいのはこっちなんだが?」 「え?」  由羅が不貞腐れたように吐き捨てた。 「幼馴染とは言え、気軽に触らせすぎだ!」  それってリョウのこと? 「いや、触るっつっても……おんぶしてくれてただけだし……」 「その前にはあいつの膝枕で寝ていたらしいじゃないか!」 「え~?あぁ……そうだっけ……まぁ、ガキの頃はみんな一緒に雑魚寝してたし、風呂も入ってたし……家族みたいなもんだから……」  っつーか、なんで由羅がそんなこと知ってんの? 「向こうはそうは思っていないし、そのことにお前が気づいていないのが一番問題だな」 「……どういうことだ?」 「……何でもない」 「いや、気になるって!そこまで言っておいて急に黙んなよ!?」 「本人が言っていないのに私が言うのはおかしいだろう?」 「何を?」 「……もう寝ろ」  急に由羅がため息を吐いてオレを布団に押し込んだ。 「え!?おい、由羅ってばっ!!何だよ!?勝手に呆れて終了すんなっつーの!」 「いいから、寝ろ!」  オレが起き上がろうとすると、由羅に抱き抱えられて身動きが取れなくなった。  重い…… 「うっぷ……もぉ~~!!なんなんだよ……」 「ただの嫉妬だ。気にするな」 「は?」  嫉妬……?  誰に?  っていうか、こいつさっきから何言ってんの? 「ゆ……」  由羅に続きを聞こうとしたけれど、頭を撫でられるのが気持ち良くて目を閉じた瞬間眠気に襲われた。  ま、明日聞き出せばいいか――…… 「……相変わらず莉玖よりも寝つきがいいな……」  夢の中で由羅の押し殺した笑い声が聞こえた気がした。 ***

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