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両手いっぱいの〇〇 第154話
「――メイはおれがまもってやる!だから、おれのおよめさんになってよ!」
子どもの姿のリョウが、オレに向かって笑った。
あ~そうそう、リョウはガキんとき、よく言ってたな~……
でも、なんでリョウはそんなこと言い出したんだっけ……
***
懐かしい夢を見て目が覚めた。
「おはよう」
「……ん~……?」
夢のことを考えてぼーっと天井を見上げていると、隣で由羅の声がした。
「……おは……よっ!」
オレは由羅の方を向くと、由羅の額をペチッと叩いた。
「……おい綾乃……いきなり何なんだ?」
由羅が顔をしかめつつ、オレの手首を掴んだ。
「え~?いや~……何となく……?何か知らねぇけど、起きたらお前を叩いてやろうと思ってたような気がしたから……?」
「なんだそれは……昨日は酔っ払ったお前を介抱してやったのだから、感謝されこそすれ叩かれる筋合いはないぞ?」
「酔っ払った?」
ん?オレが?
「なんだ、昨日のこと覚えてないのか?」
「昨日って……え~と……」
昨日は何かあったっけ……
あ、そうだ。幼馴染たちと飲みに行って……
飲みに行って……?
「あれ?オレどうやって帰って来たんだっけ?」
「……私の車だが?」
「由羅の?なんで?だってオレ自転車……」
やっべぇ……全然記憶にねぇ……
オレは思わず頭を抱えた。
「それも車に乗せて帰って来た」
「あ~……うん、そうだな!そうだった気がする!うん!ありがとな!」
「……完全に忘れてるな?」
「へ!?いや、そそそんなことはねぇよ!?ちゃんと覚えてるし!?」
「ほぅ?」
由羅の視線が痛い……
え、待て!オレもしかして何かやらかしたの!?
由羅の服とか車の中とか汚した?
「あの~……えっとオレ昨日って……」
どうにかして昨日オレが何をやらかしたのか聞き出さねば……と思っていると、携帯が鳴った。
寝転んだまま携帯に手を伸ばす。
「あれ?リョウだ」
そうだ!リョウに昨日オレがどんな状態だったのか聞けばいいんじゃね?
と楽観的に考えていたオレは、「メイちゃん、昨日は帰ってから大丈夫だった?クビになってない?パワハラ受けてない!?」という亮からのメールに更に混乱した。
「は?クビ?パワハラ?」
いやいやいや、マジで何の話っ!?
「何がパワハラだ?」
うつ伏せに寝転んで必死に昨夜のことを思い出そうとしているオレの背後から由羅が携帯を覗いて来た。
「お前ってオレにパワハラしてんの?」
「……それは私に聞くことじゃないんじゃないか?私はパワハラをしているつもりはないが……」
「だよな?どっちかっていうと、オレの仕事をお前がしちゃったりするしな~……」
働きすぎだとか言ってくるし?
「というか、むしろ私がお前にパワハラにあっていないか?今だって起き抜けに“何となく”で顔を叩かれるし……」
由羅が恨めしそうに文句を言った。
言われてみればたしかに……
「んん゛、あ~えっと、じゃあ、このクビって何?」
オレは咳払いをして急いで話を変えた。
「ん~?……あぁ、そういえば、昨夜お前の幼馴染たちが、お前が酔っ払っていたからクビになるんじゃないかと心配していたようだったが……私はそれくらいでクビになどしないとハッキリ言ったんだがな?」
「へぇ~……」
「……ほら、覚えてない」
「へ!?あ、いや、うん、そうそう、そうだったよなぁ!?言ってたよな~!?……アハハ」
「まぁ別にいいが……お前の幼馴染たちには私はよほど横暴な雇用主に見えているらしいな」
由羅が軽くため息を吐いて、オレの肩に顔を埋めて来た。
「横暴ねぇ……まぁ最初の頃はある意味横暴だったけど……」
「何がだ?」
「オレをこの家に連れて来たのも無理やりだったし?」
「あれはお前とちゃんと話をするためだ。外では話せないと言っただろう?」
「そうだけど……」
そうだ、昨日その話を簡単にあいつらにしたんだっけ?
それであいつらが勘違いして……
「……っていうか、お前の場合セクハラの方だよな」
「セクハラ?」
「まさに今のこれだよ!近いっ!重いぃ~~っ!」
オレは足をバタバタさせて、背中に乗っている由羅を振り落とそうとした。
まぁ、重くて全然動かねぇんだけど……
「ほとんど体重はかけてないぞ?」
「そう言う問題じゃないだろ……」
え、ほとんど体重かけてなくてコレってことは、オレが非力って言いたい?
いや、お前が重すぎんだよっ!!
っていうか、この体勢!この体勢が悪いだけだし!
「だいたい、あいつにはベタベタ触らせるのに、私が触るとセクハラと言われるのは解せないな……」
「はあ?あいつ?」
「リョウとか言う幼馴染だ。あいつには何も文句言ってなかったじゃないか」
「そりゃ、リョウは幼馴染だし……っていうか、何でリョウと張り合おうとしてんの?」
「……気に入らないからだと言っただろう?」
「だから、何がだよ?っつーか、下りろ!マジでお~も~い~!」
由羅が大きなため息をつくと、無言で起き上がった。
何だよ一体……リョウが気に入らないって何で?
……ん?そういえば……
ふと、頭の中に「ただの嫉妬だ……」という由羅の声が聞こえた。
もしかして、あれって……夢じゃなかったのか?
不貞腐れた顔で着替えている由羅をチラリと見る。
嫉妬……ねぇ?……
「由羅」
「綾乃も着替えろよ。莉玖を迎えに行くぞ」
「ゆ~ら!」
「……だから……なんっ!?……」
オレは振り向いた由羅の胸倉を掴んで顔を引き寄せ、頬に軽くキスをした。
「リョウよりもお前の方がよっぽどオレに好き放題触ってるんだから、張り合う必要なんかねぇだろ?ば~か!」
「……綾乃?……」
由羅が唖然としているのが面白くてちょっと笑ってしまう。
すげぇまぬけ顔~!
「さてと、着替えて莉玖を迎えに……」
「待てっ!綾乃!」
着替えに行こうとしたオレを由羅が引き戻した。
「何だよ?」
「間違ってるぞ?」
「何が?」
「キスするなら口唇 だろ?」
由羅が自分の口唇を指差す。
顔が必死すぎて怖いわっ!!
「調子に乗んな!」
オレはにっこり笑うと由羅の額をペチッと叩いて、着替えるために自分の部屋に戻った。
***
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