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両手いっぱいの〇〇 第155話

 自分の部屋に戻るなり、オレはベッドに顔面から倒れこんだ。  ええええええ!?  ちょっと待て……オレ何やってんの!?  数秒前の自分を消したい……  自分でやっておいて恥ずか死ぬ……  じゃあ何であんなことしたんだって?  何でだろうな!?オレが一番わかんねぇ……  だって、あいつが嫉妬してるとか言うから……  だから何だよって感じだけど、ほら、つい先日お見合い話が出てたし? 「……」  オレ、あいつのお見合い話の頃からちょっと変なんだよな…… 「……って、そうだっ!リョウ!」  亮に返信をしていなかったことを思い出して、慌てて携帯を見る。  由羅のことはひとまず忘れよう!! 「え~と……」  何を返信するんだっけ……ああ、そうだ。 「『オレは無事だぞ』……って、それは変か……?」  なんて言えばいいんだ?   「とりあえず『オレは大丈夫だぞ』……っと。そんでもって……『オレ昨日酒飲んだらしいんだけど、何があったのか教えて?』でいいか」  亮からの返信を待つ間に着替える。  え~と、莉玖を迎えに行って……昼飯どうすんのかな?今から行けば確実に杏里さんのところで食わせてもらうことになるか。  晩飯は~……あ、今日の広告チェックしてねぇや。  朝飯作って洗濯して掃除して…… *** 「あ、由羅、莉玖迎えに行く前に買い物していい?」 「いいが、何を買うんだ?」 「ティッシュとか、米とか……」 「わかった。いつもの所でいいか?」 「うん」  かさばる物はいつも由羅や杏里さんと買い物に行く時に買う。  特に、米!  重いものは由羅に持たせるに限る!!  いや、オレも持てるよ!?でも、ほら、重たいし? 「よ~し、ゲットぉ~!」  広告に載っていたティッシュペーパーとしょうゆを無事にゲットして大満足のオレは、にんまりしながらカートに積み込んだ。 「食料品は買わなくても大丈夫なのか?」 「ん~、買いたいけど、莉玖を迎えに行ってしばらく向こうにいるなら肉とか魚とか買えねぇしな~」 「ああ……じゃあ、帰りにもう一度寄るか」 「いいのか?」 「別に構わないぞ?」 「やった!それじゃあ、割引になる20時前に寄ってくれない?」 「割引?」 「そそ、20時になったら一気に半額になんだよ!まぁ、欲しいやつが残ってるとは限らねぇけど、でもたまにいいやつが……あ゛……」  慌てて口に手を当てたが、カートを押していた由羅が振り向いた。  やべぇ……そうだった。  今は割引関係なかった……  違うんだよっ!!由羅の家に住み込みになる前は、仕事の後このスーパーに寄って、割引商品を狙って買って帰ることもよくあったから、思わず……  だってさぁ、庶民にとっては、『割引』とか『タイムサービス』とか言う言葉はどうしても食いついちゃうんだよっ! 「あの、今のナシ!!」 「綾乃……まさか、今でも割引商品を買っているのか?」 「えっ!?」 「別にそんなに節約をしなくても大丈夫だと言っているはずだが?」 「あ~、うん、わかってる。だから今はもう由羅たちと同じの食ってるってばっ!今のは言葉の綾っていうか、ちょっと昔のクセが出て……」 「わかってるならいいが……」 「はいはい、わかってます!はい、米!」  オレは話をぶった切って由羅に米を渡した。   「よし、さっさと買って莉玖迎えに行くぞ~」 「……綾乃、綾乃!」 「なんだよ?」 「これは?」 「ん?」  由羅が粉コーナーの前で立ち止まった。(別にダジャレを言ったわけじゃねぇから!!)   「小麦粉ならまだあるけど?」 「これは?」  由羅が手に取ったのは、クッキーの写真がパッケージになっている『クッキーミックス』だった。 「それは誰でも簡単にクッキーが作れますよっていう、クッキー用の粉だけど?」 「うちにあるのか?」 「ないよ?」 「じゃあ、買う」  由羅がカゴに放り込んだ。 「おい待て待て。なんで?え、聞いてたか?クッキー用の粉だぞ?」 「聞いてた」 「由羅が作るのか?」  え、クッキーが作ってみたいのか? 「綾乃が作る」 「……んん?」  え~と……オレの耳が確かなら、こいつは今オレに作らせるためにこの粉を買おうとしてる? 「ちょいと由羅さん?オレがなにを作るって?」 「綾乃がクッキーを作る」 「なんで?」  今週はそんな予定はございませんが? 「私が食べたいからだ」  お……おう?   「……だったら先に言うべきことがあるだろう?」 「粉はこれでいいか?」 「そこじゃねぇよ!オレに作って欲しいならちゃんと言え!」 「……綾乃の作ったクッキーが食いたい」 「だから?」 「作って欲しい」 「ったく、最初っからそう言えっつーの!……んで、何味がいいんだよ?」 「何味?」 「だから……こういうチョコチップを入れたり、抹茶とか、ナッツとか……いろいろあるから選べ」  お菓子のトッピングコーナーを指差して由羅に選ばせる。 「莉玖も食えるのか?」 「別に、莉玖には莉玖用に作ってやるから、これはお前が好きなの選んでいいぞ?」 「じゃあ、これ」 「はいよ。これだけでいいのか?」  由羅が選んだのはナッツだった。   「後は、この間作ってくれたやつがいい」 「この間?あ~……かぼちゃとさつまいも?」 「それだ」 「わかった。んじゃ、かぼちゃとさつまいもも買わなきゃだ」  なんだ、つまりバレンタインに作ってやったクッキーが気に入ったってことか。  オレはちょっと口元を綻ばせつつ、かぼちゃを手に取った。 ***

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