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両手いっぱいの〇〇 第157話
「綾乃?昨日何があったんだ?」
「へ!?いや、あの……すみません……酒飲んでからあんまり覚えてない……でしゅ……」
「……そうだろうな」
「でも、あの、由羅の家のこととか、莉玖のこととか、プライバシーに関わるようなことは言ってないはずだから!……たぶんだけど……」
何があったのか覚えてもないのに「言ってない」とか言っても全然説得力がない。
うわ~、ダメだなオレ……
「その心配はしていないが……」
「……ぅ゛~~……すみません!……オレもう飲み会行くのやめる」
気まずくなって俯いたオレの後頭部に由羅がズシッとのしかかってきた。
「なぜだ?」
「え?だって……」
酒飲まないように気を付けてても、昨日みたいに間違えて飲んじゃうこともあるとかだと……とにかく、少なくとも、
「ここにいる間は飲み会控える」
「……うちを出て、リョウの家に行くのか?」
「え?いやいや、何でリョウの家?」
「さっきそう書いてあったじゃないか」
「あれは……あいつが何か勘違いしてるだけだろ。また今度ちゃんと話しておくよ。オレが昨日誤解させるようなことを言ったのかもだし」
まずは自分が何を話したのか確認しなきゃだけど!!
「じゃあ、別にうちを出る必要はないじゃないか」
「いや、だから、ここにいる間っつーのは、ここで働いている間ってことで……」
もちろん、辞めてもちゃんと由羅や莉玖の秘密は守るけどな?
でも、ほら、やっぱり働いてる時は酔っ払ったりしたら思わず喋っちゃうかもしれないだろ?
「辞めるつもりなのか?」
「へ?いや、今すぐってわけじゃ……」
「いつかは辞めるのか?」
「そりゃまぁ……」
「なぜだ?」
由羅が幼児並みに「なぜ?どうして?」を連呼してくる。
ちょっと落ち着いてオレの話しを聞けっ!!
「だって、莉玖が大きくなったらオレは必要ねぇし……」
「そんなことはないぞ?」
「そりゃまぁ、家政夫としての仕事はあるかもしれねぇけど、家政夫の仕事はオレじゃなくても出来るし、それにほら……お前が結婚したら……家政夫とかいらねぇし……?」
「……綾乃?お前の記憶力はニワトリ並みか?」
「はあああ!?バカなのは認めるけど、ニワトリと一緒にすんな!!ニワトリに失礼だろっ!!」
「ん?」
「あれ?」
ニワトリに失礼……ってことは、オレはニワトリよりもバカ……ってこと?
オレが首を傾げていると、大きなため息を吐きながら由羅がオレの身体をくるりと後ろに向けた。
「そうだな、ニワトリを喩えに出すのはニワトリに失礼だったな」
由羅は、心底呆れ顔になっていた。
「お?おう……」
「私が好きなのは誰だ?」
「はい?」
「ほら、思い出してみろ」
由羅がオレの頬を両手で包み込んでそのままぎゅっと押しつぶした。
「ひふ……」
「なんだって?」
「ひ~ふ!!」
っつーか、押すな!喋れねぇだろっ!!
「莉玖以外だ!」
「……オレ……?」
「そうだ」
「それがなに?」
「……お前のことが好きなのに、他に誰と結婚するんだ?」
「それは……だって……あ、時間だ」
「おいっ!?」
ちょうどタイマーが鳴ったのでオレは話を中断して冷蔵庫から生地を出した。
由羅はまだ何か言いたそうにしていたが、ひとまずクッキーづくりに戻った。
だって、早く作らねぇと莉玖が待ってるし!?
***
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