158 / 358
両手いっぱいの〇〇 第158話
「じゃあ、型抜きしていってくれ」
「どれを使えばいいんだ?」
「どれでもいいぞ?別に一つだけじゃなくていろいろ使っていいし。いろんな形があった方が食べる時に面白いだろ?」
「なるほど……」
杏里の家には抜型がいっぱいある。
子どもたちと一緒に作るのでだんだんと増えてきたらしい。
「で、抜けたらここに並べて……って何してんの?」
生地を抜いて行くのなんてポンポンポ~ンとしていけばいいだけなのに、由羅は生地の上に抜型を並べて考え込んでいた。
「全部形が違うだろう?だから、どう置けば生地を無駄にせずに取れるかと……」
「んなもん、適当!どうせ端の方は残るし、型を取った残りの生地はまとめてもう一回伸ばしてまた型抜きすればいいし……」
「そんなことが出来るのか」
「え?うん……まぁ、ある意味粘土遊びみたいなもんだし?こっちは食えるけど」
「へぇ~……」
こいつもしかして……粘土遊びしたことないの?……
「店で出すんじゃねぇんだから、細かいことは気にしなくていいんだって!失敗したらオレが食うし。ほら、さっさと型抜きしていく!!」
「はい」
ようやく納得した由羅が黙々とクッキー生地を型抜きしていく。
抜型は星型、ハート型、花型などの他に、アニマルシリーズでウサギ型やクマ型もあった。
一回では角皿に乗り切らなかったので、数回に分けて焼く。
「いい匂いだな」
「ん?うん、そうだな。次、サツマイモ味のやつも型抜きしていって」
「綾乃、これ多くないか?一体何枚焼くつもりだ?」
「一路 たちも食うんだからこれくらいは必要だろ?」
「そうか……」
「ほら、手を動かす!」
「はい」
杏里の家には子どもが4人いる。
クッキーはある程度日持ちするし、食べ盛りの子ども達ならあっという間になくなるはずだ。
「――ほい、これでラスト~!」
「終わりか?」
「うん、もう終わり。お疲れ~」
最後のクッキー生地をオーブンに放り込んだオレは、先に焼けていたクッキーをサツマイモ味とかぼちゃ味に分けて皿に盛りつけた。
「由羅も味見していいぞ?」
「……わかった」
端っこが焦げた星型クッキーを咥えながら、ミスったクッキーを自分用に除けていると、急に目の前に手が伸びて来た。
「ん!?」
驚いて横を向くと由羅がオレが咥えていたクッキーに噛り付いた。
「ん~!?おまっ、何やってんの!?」
わざわざオレのクッキー横取りする!?
「……前と味が違うぞ?」
由羅が首を傾げる。
そりゃそうだろ……
「お前が食ったのちょうど焦げてるとこだもん」
「ああ、それでか」
「だから、お前にはそっちのミスってないやつ出してやっただろ!?なんでオレの食ってるやつをとるかなぁ……」
「綾乃が食ってるから、そっちがうまいのかと思って」
他人が食ってる方がうまそうに見えるとか、子どもの発想じゃねぇかっ!!
「そりゃ味は一緒だからうまいけど、こっちはちょっと焦げてるのとか、不格好なやつばっかりなんだよっ!」
「どうしてそんなの食ってるんだ?」
「だって、子ども達には焦げてるのとか食わせられねぇだろ?でも真っ黒焦げってわけじゃないから食えるし……捨てるのはもったいないから食ってるだけ」
「なるほど」
「あ、焼けた。ちょっとそこ退け!……それじゃ、由羅は焼けてるやつを杏里さんたちの方に持って行ってくれ」
「綾乃は?」
「ここを片付けてから行く」
「私も手伝う」
「いや、もうほとんど片付いてるし、それにそろそろ……」
オレが時計に目をやると、ちょうど玄関が開いてバタバタと走り込んでくる足音がした。
「あやのちゃんきてるの!?」
「いいにおい~!」
杏里の息子の一路と朱羽 が台所に顔を見せた。
「お帰り~!」
「ただいま!なにつくってるの?」
「クッキーだ。そっちに持って行ってやるから、ちゃんと手洗いうがいをしてきてくださ~い!」
「はーい!」
「やったー!」
二人が急いで洗面所に走っていく。
「ほらな?じゃ、これ持って行ってくれ」
「はい」
由羅が渋々リビングにクッキーを持って行った。
***
ともだちにシェアしよう!