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両手いっぱいの〇〇 第159話

『ちょおおおおおおっっといいかしらっ!?』 「おわっ!?な、なんだよ!?」  台所にひとりになった途端、莉奈(りな)が目の前に現れた。  やけにご立腹だ。 『ねぇ、あなたたち一体何してんの!?』 「は?何ってクッキーを……」 『そんなこと見ればわかるわよっ!!そうじゃなくて……今のはそのままキスするところでしょおおおおおおお!?』 「はあ?」 『あ~~もう!!兄さんってば押しが弱いっ!!あんな顔してるくせに!変なところでグイグイ行くくせに!あと一歩が足りないぃい!!見ててイライラするぅうううう!!』 「ちょ、ちょっと莉奈さん?まぁ落ち着……」 『綾乃くんも綾乃くんよ!?』 「ふぇっ!?」 『あんないいところで「あ、時間だ」じゃないわよ!クッキーなんて後回しでいいのよっ!!話を続けなさいよっ!!』 「ご、ごめんなさい……?」  よくわからないが、莉奈の勢いに押されてとりあえず謝る。  莉奈の感情が昂ってくるのに合わせてキッチン全体が地震のように小刻みに揺れ、壁にかけてあったお玉などの調理器具がガチャガチャと音を立てて、宙に浮いた。  マズいな……ポルターガイストみたいになってねぇか? 「ああああの、莉奈さん!?ちょっと落ち着いてっ!!」 『……なによっ!?……あらやだ、ごめんなさい。ちょっと興奮し過ぎたわね』  莉奈が深呼吸をした。  はい、そうですね!?  ひとまず落ち着いてくれねぇと、お前が興奮すると何が起こるかわかんねぇから怖ぇんだよっ!! 「綾乃!?今の音は何だ!?」 「ひぇっ!?」  ホッとしたところで、今度は由羅が慌てて駆け込んできた。 「な、なに!?」 「今大きな音がしたから……」  莉奈が落ち着いたことで、さっきまで浮いていた調理器具が一斉に重力に負けた。  そのせいで結構な音が鳴ったらしい。  オレはずっと地鳴りのような音が聞こえていてそれどころじゃなかったので、全然気が付かなかったが…… 「……どうしたんだこれは?」  由羅がキッチンの入口で唖然と立ち尽くした。 「へ?……あ゛……」  周囲を見渡すと、キッチンの中は調理器具や小麦粉などが床の上に散乱していた。 「あああの、由羅?これはあの、オレがしたわけじゃなくて……あの、急にグラグラって……」  って言っても、たぶん今揺れていたのはキッチン内だけだよな~……  どうしよう、コレどう見てもオレがキッチンで暴れまくったようにしか見えな…… 「大丈夫か?ケガは?」 「え?あ、ケガはねぇよ。あの、由羅、信じてもらえないと思うけど、ホントにこれオレがしたわけじゃ……」 「それはわかっている」  ん?なんで? 「お前がこんなことするはずないからな」  なぜか由羅は一つもオレを疑う事はなく、自信満々にそう言うとオレの頭や服についた小麦粉を払い落としてくれた。 「それにしても……キッチンだけ竜巻でも通り過ぎたみたいだな」 「あ~、うん、そんな感じ……」  幸いにも、先に由羅がリビングに運んでくれていたので、クッキーは無事だ。  とりあえず調理器具はキレイに洗い直せばいいし、小麦粉がこぼれたのはもったいないが、元々もうほとんど残っていなかったので、まだマシだ。 「ごめん、オレここ掃除するから先にクッキー食ってて?」 「私も手伝う。ひとりじゃ大変だろう?」 「でも……」  オレがしたわけじゃねぇけど、オレがしたようなもんだし…… 「あらあらあら、どうなさいました?」 「あ、サチコさん。すみません、今あの……」 「キッチンの中で竜巻が発生したらしい」  由羅ああああ!!ある意味間違ってはねぇんだけど、お願いだから真顔で言わないでえええ!!  ほらもう、サチコさんが反応に困ってるじゃねぇか!!  杏里の家(ここ)の古株のお手伝いさんであるサチコが、曖昧に笑いながらキッチンに入って来た。   「この白いのは小麦粉ですか?」 「そうです。あの、ほとんど残ってなかったから、そんなにいっぱいは落ちてないと思うんですけど……」  量は少なくても、粉がキッチン中に舞い上がったので、全体的に埃を被っているかのように薄っすらと白っぽくなっている。 「わかりました。後は片付けておきますよ」 「オレも掃除します。オレがやったようなもんだし……」 「綾乃がしたわけじゃないだろう?」 「そうだけど、でもオレが片づけてる途中だったし……」 「はいはい、そこで押し問答されてちゃ邪魔ですよ!お二人ともリビングで休憩してきてくださいな!」 「あ……はい、すみません……」  結局二人ともサチコに追い出されてしまった。 ***

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