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両手いっぱいの〇〇 第160話

「あやのちゃんきた~!ねぇ、はやくたべよ~?」  リビングに行くと、一路(いちろ)朱羽(しゅう)がクッキーを食べずに待っていた。   「え?あ、悪い、もしかして待っててくれたのか?ありがとな、よし、食べようか!」  オレは急いで席について子どもたちにクッキーを勧めた。  一路と朱羽が待ちかねたようにクッキーにかぶりついて、おいしー!と笑う。  莉玖も一路たちの真似をしてクッキーを一口かじって「ちー!」とニコニコしていた。 「あやのちゃんのクッキーおいしいね~!」 「ぼく、あやのちゃんのクッキーすき~!」  うんうん、可愛いなぁもう!  子どもたちのために頑張って作って良かった!!  オレが子どもたちの反応にニコニコしていると、 「……私も作ったぞ?」  とちょっと不服そうな声が聞こえた。  そうだな、由羅も頑張って型抜きしたよな! 「ところで綾乃ちゃん、大丈夫だったの?さっき大きな音がしてたけど……」 「あ、はい。あの、え~と……」  そうか、由羅に聞こえてたってことは、杏里さんたちにも聞こえてたのか……  え~と、なんて言おう……   「調理器具が落ちて小麦粉が舞い上がっただけだ」  由羅がさっきよりはマシなフォローをしてくれた。  普通に調理器具が落ちただけじゃはならないけどな…… 「ええ!?やだ、私ちゃんと片付け出来てなかったのかしら……たまにあるのよね、扉を開けると調理器具が降って来ること……ごめんなさいね!?ケガはない?」  杏里が慌ててオレの顔を撫でまわして来た。   「いやいや、大丈夫です!さっきのはあの、え~と、オレが落としちゃったみたいな感じで……」 「そう?まぁケガがないなら良かったわ」 「あの、でもキッチンが粉まみれになっちゃって……今サチコさんが掃除をしてくれてて……すみませ……っ!?」  オレがペコリと頭を下げると、急に杏里に頭をガシッと掴まれた。 「あらあら、ホントだわ。綾乃ちゃん頭が白くなってるじゃないの!お風呂入ってらっしゃいな!」 「え?」  さっき由羅が払い落としてくれていたが、まだ頭のてっぺんに粉が残っていたらしい。 「あやのちゃん、おふろ~!?ぼくもいっしょにはいる!」 「しゅうも~!」  クッキーに夢中になっていたはずの子どもたちが、“お風呂”に反応して割り込んで来た。   「あなたたちはまだクッキーを食べてるでしょ?」 「たべるまでまって!!あやのちゃん、あといちまいたべていい?」 「これたべたらいっしょにはいる!」 「あ~わかったから、口に押し込むな!待っててやるからゆっくり食えって!こら、莉玖も!真似しなくていいからっ!!」  莉玖が一路たちの真似をして口にクッキーを押し込もうとしたので慌てて阻止する。   「莉玖、ちょっとお茶飲みなさいっ!口の中パッサパサだろ~?」 「んまっ!」 「うまいか、そうかそうか」  口の周りにもいっぱいクッキーの欠片をつけてニコ~っと笑う莉玖に、思わず苦笑した。  しばらくすると、父親と一緒に音楽教室に行っていた双子の歌音(かのん)詩音(しおん)も帰って来て、同じようにクッキーにかぶりついた。  杏里の旦那は仕事が忙しくて普段なかなか子どもたちと一緒にいられないが、その分、休みの日はなるべく子どもたちと過ごしてくれるらしい。  子どもたちとの風呂タイムも貴重な親子の触れ合いの時間だ。  だが、この日は結局、子どもたちは全員オレと一緒にお風呂に入ったのだった。  杏里の旦那の視線が痛い……  笑ってるけど目が笑ってねぇんだよおおお!!  オレ、この家に出入り禁止にされそうだな……   ***

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