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両手いっぱいの〇〇 第161話

「さてと……そろそろ帰るか」  晩ご飯の後、子どもたちと遊んでいると、由羅が時計を見た。 「あら、もう帰るの?」 「食料品を買ってから帰らないといけないからな。綾乃、帰るぞ」 「は~い!よし、莉玖~、帰るか!」  オレは立ち上がって莉玖を抱き上げた。 「え~、あやのちゃんかえっちゃうの~?」 「まだあそびたい~!」 「ごめんな、オレももっと遊びたいけど、買い物に行かないと冷蔵庫が空っぽなんだよ」 「からっぽ?ごはんないの?」 「そそ、明日食べるものがないから買っておかねぇとな!」 「そっか~」 「また遊びに来るからな!」 「ぜったいきてね!?」 「うんうん、また来るよ!」  オレの足にしがみついていた子どもたちが、渋々離れた。  しょっちゅう遊びに来ているのに、毎回帰る時にはこうやって子どもたちが名残惜しんでくれるのは、保育士時代を思い出してちょっと嬉しくもある。 「由羅、お泊りセット持ってくれ」 「わかった」 「ああ、響一。お泊りセットは置いて行きなさい」 「え?」 「へ?」  由羅とオレが同時に杏里を見た。  杏里が由羅の手から莉玖のお泊りセットを取り上げて、にっこりと笑う。 「莉玖は今夜もうちで預かるわ」 「どういうことだ?」 「あなたたちは一度二人でちゃんと話し合いなさい。莉玖がいるとなかなか話せないでしょ?」 「話し合い?」  何か話し合うようなことあったっけ?  由羅と顔を見合わせて首を傾げる。 「キッチンで痴話げんかするのは家だけにしておきなさいね」  杏里が呆れた顔でため息を吐いた。 「あ゛……」  声は抑えていたつもりだが、由羅と揉めていたのは杏里にも聞こえていたらしい……  でも…… 「別にケンカをしていたわけではないが……」  うんうん、別にケンカってわけじゃねぇよな!? 「響一、あなたも中途半端なのよ!もっとちゃんと気持ちを伝えなきゃダメよ?」 「……私は伝えているつもりだが?」  由羅がチラッとオレを見たので、オレはそっと由羅から視線を逸らした。  こっち見んなっ!! 「あのね、あなたは――」  その様子を見ていた杏里が、由羅に対して恋愛の御指南を始めた。  だが、言っていることはほぼ莉奈と似たようなことだ。  っていうかさ、あの~……姉弟で何の話してんですかね…… 「だから、そこはもっとガッと!!……」  ガッと!じゃねぇよ!?  杏里さん……本人(オレ)を目の前にして何のアドバイスしてるんすか……!?  一応声は抑えてるから、全部は聞こえないけど……でも部分的には聞こえて来る。  これ、オレ聞いてていいやつ?  なんかオレを押し倒せとか言ってるんですけど、オレ由羅に押し倒されんの?  取っ組み合いのけんかしろってこと?  殴り合いで友情を深めろ!みたいな……? 「ねぇねぇ、あやのちゃん、まだかえらない?」  双子がちょいちょいと服を引っ張って来たのでしゃがみ込むと、耳に手を当てて小声で聞いてきた。 「あ~……まだ……っぽいな」 「じゃああそぼ~!」 「そだな。あっちで遊ぶか」  オレは双子と目を合わせながら由羅たちを指差し、その指を口に当ててニッと笑った。  ジェスチャーで「お母さんにバレないように静かに遊ぼうか」と言ったのだが、子どもたちもすぐに飲み込んだようで、うんうんと頷き、同じように口元に指を当ててみんなでそっとその場を離れようとした。  ところが、オレが足を踏み出そうとした瞬間、グッと服を掴まれて引き戻されてしまった。 「おい、綾乃!どこにいく!?」 「ぐぇっ!」  襟首持つなよ!首が絞まるっ!!  オレはネコじゃねぇぞ!? 「あ、こら、あなたたち!綾乃ちゃんはもう帰るから、遊ぶのはおしまいよ!」 「ええ~!?だって、まだおはなししてるし」 「ああ、そうね。ごめんなさい。もうお話は終わったわ。今日も莉玖がうちに泊まるから、綾乃ちゃんにはまた明日も会えるわよ」 「え、りくちゃんとまるの?」 「やった!りくちゃん、いっしょにねようね~!」  莉玖が泊まると聞いて、子ども達の興味はオレから莉玖に移った。   「それじゃあ、また明日迎えに来る。帰りが遅くなりそうなら昼に連絡するから」 「わかったわ。おやすみなさい」 「おやすみなさ~い!」  結局、オレたちは二人だけで杏里の家を後にした――……  莉玖を迎えに来たはずなんだけどなぁ~……? ***

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