162 / 358
両手いっぱいの〇〇 第162話
「綾乃、買い物はどうする?」
「え?あぁ、買い物はしないと……明日の朝飯が食パンだけになるぞ?」
「そうか、それじゃ買い物しなきゃだな」
杏里の家を出てから、何となく謎の気まずい空気が流れていて、まともな会話はこれだけだった。
***
家に着くと、由羅に手伝ってもらって買って来たものを運んだ。
「あ、テーブルの上に置いておいてくれ。先に風呂入れて来る」
「綾乃、風呂は自分でするからいいぞ。入るのは私だけだろう?」
「あ~……まぁ、そうだけど……んじゃ自分でどうぞ」
そういえば、オレはもう入ったんだっけ……
由羅が風呂に入っている間に食材を片付けた。
え~と、後は莉玖のマグを……って、莉玖いねぇんだった……
「いないのか……」
今までも由羅と二人きりということはあった。
それこそ、昨夜だって……
でも、だいたい二人きりの時はオレの具合が悪い時だ。
そうだ!酒でも飲もうかな……
素面であいつと二人っきりとか何か気まずいし……酒飲んでさっさと寝よう!
由羅も莉玖を引き取ってからは酒を控えているらしく、あまり家では酒を飲まない。
でも、杏里や友人からの貰い物とかでワインやらブランデーやら日本酒やら……酒瓶が数本あるのは知っている。
確かこの奥に……
オレの身長では棚の奥まで見えないので、思いっきり背伸びをして手を伸ばした。
あ、あった!コレなんの瓶だ?
「何してるんだ?」
「ひゃっ!?……あ゛~っ!」
ようやく見つけた瓶を掴んで取り出そうとしていたところに、由羅が声をかけてきた。
え、もう風呂出たんですか!?
早くないっすかっ!?
驚いた拍子につま先立ちをしていた足がガクッとなって、瓶が手を離れた。
やべっ!落とすっ!!
「おっ!?……っと……なんだこれ、ワインか?」
由羅が倒れかけたオレを片手と膝で支えつつ、もう片方の手でワインの瓶を掴んだ。
「綾乃?コレをどうするつもりだったんだ?」
「えっ!?あの……えっと……」
「まさか飲むつもりか?」
「いやいや、え~っと……飲むんじゃなくて……あの……」
何とか誤魔化せないかと頭を捻る。
「あ、そうそう、料理!料理に使おうかな~って……!」
「ワインを?」
「え?うん、ほら、え~と、ワインで肉を煮込むとかあるだろ!?」
何かそんなのあった気がする!
作ったことねぇけどっ!!
「……そんなお洒落な料理を作るのか?お前がワインを使っているところなんて見たことがないぞ?」
「ぅ……ちょ、ちょっと挑戦してみようかな~って……」
っていうか、自分ではナイスな言い訳を思いついたと思ったけれど、落ち着いて考えてみると、そもそも由羅の酒なんだから、料理に使うにしても由羅に一言断ってから使うべきだ。
「綾乃、本当のところは?」
由羅がため息を吐きながらオレの頬をペチペチと軽く叩いた。
「……あの……酒飲んでさっさと寝ようかなって……ゴメンナサイ」
「昨日記憶が飛ぶくらい酔っ払ったばかりなのに、お前も懲りないな。まぁ私も人のことは言えないが……」
そうだよな!?お前も一時は結構酔っ払って帰ってきてたよな!?
「……一緒に飲むか?」
由羅がワインの瓶とオレを交互に見て、ちょっと考えながら聞いてきた。
「え!?でもオレ、酒飲めねぇし……」
「だが、飲みたいんだろう?家で飲むのは別に構わないぞ?私の目の届かない所で記憶が飛ぶまで飲むのは勘弁して欲しいが……だいたい、飲まないならなぜこんなものを出したんだ?」
「わかりません!ほんの出来心ですが何か!?」
「なんだそれは……」
由羅が苦笑しつつワイングラスを二つ取った。
ん?マジで一緒に飲むのか?
「綾乃、オープナー取ってくれ」
「え?オープナー?……あ、ワイン開けるやつか!え~と……これ?」
オレはキッチンの缶切りやハサミを入れてある引き出しを開けると、オープナーらしきものを由羅に見せた。
「そうだ。綾乃はオープナーを使ったことがないのか?」
「だってワイン飲んだことねぇもん」
学生時代の飲み会とかでも、大抵チューハイだったし……
「そうか。じゃあ私が開ける。綾乃は座って見てろ」
由羅が慣れた手付きでオープナーを取り付けて、あっという間に栓を開けた。
「ほえ~……すげぇな!そんなに簡単に開くのか~」
「まぁ、一応な。ただ、ものによってはコルクが弱かったり、うまく差し込めなかったり抜く前にコルクがボロボロになることもある」
「え、そういう時はどうするんだ?」
「諦める」
「ワイン捨てるのか!?もったいねぇな……」
「いや、コルクを抜くのを諦める。コルクを瓶の中に落とし込んで、コルクの欠片を取り除いてから飲む。」
「取り除く……なんていうか……ワイン飲むのって大変なんだな」
「別にコルクがボロボロにならなければそんなに大変じゃないぞ?」
「へぇ~……っ……ん~?」
由羅が注いでくれたワインを少しだけ口に含んでみる。
「ほんのり甘いけどなんか……ちょっと渋い……?」
赤ワインって色はぶどうジュースなのに、なんか思ってたよりも苦いっつーか、渋み?があるんだな……
ウェ~っと顔をしかめているオレを見て由羅がフッと笑って自分も口に含んだ。
「ああ、そうだな。これは結構辛口だな。綾乃にはもう少し甘口のが良かったか?」
「ぅ~ん……そもそも酒をうまいと思ったことがないから、わかんねぇ……」
20歳になった時に、一応好奇心と社会に出るための準備として酒を飲んでみたのだが、自分が思っている以上に酒に弱いということに気付いて、それからはなるべく飲まないように気を付けていた。
「……そのはずなのに、どうして記憶が飛ぶくらい酔っ払ったんだろうな?」
「それはオレが聞きたい」
そうだ、オレは一体……どうしてそんなに酔っ払ったんだろう?
オレは熱いお茶を飲むときのようにチビチビとワインを舐めながら、首を傾げた。
***
ともだちにシェアしよう!