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両手いっぱいの〇〇 第164話
「よいしょっと……」
ベッドに寝転んだオレは、大の字になって大きく息を吐いた。
「ベッドを存分に満喫しているところ悪いが、せめてこっち側は開けてくれ」
由羅がオレの右手を持ち上げて退かした。
「なんでゆらがいるんだ~?」
由羅が横になると、オレはまた腕を伸ばして由羅の上にポスっと落とした。
「ここは私の部屋だからだが?」
小さくため息を吐いた由羅が、自分の腹の上に落ちて来たオレの腕を持ち上げてそっと下ろした。
「……あれぇ~?」
自分の部屋に戻ったつもりが、由羅の部屋に入っていたらしい。
「あ~……ごめん……まちがえた」
起き上がろうとしたオレは由羅に額を押さえつけられてベッドに戻されていた。
「間違えてはないだろう?綾乃もいつもここで寝ているじゃないか」
「……そか」
それじゃあ別にここでいいか……このベッドの方が広いしな!
***
「なぁ、綾乃」
「ん~?」
「その……昼の続きなんだが……」
「ひる?」
「私は……綾乃にここにずっといて欲しいと思っている」
あ~……なんかそんな話してた気がするなぁ……
でも……
「それはむりだろ~?」
「なぜだ?」
「だから……」
「私が誰かと結婚するというのはないからな?」
「……さきにいうなよ……」
「昼も同じことを言っていたからな。私はお前が好きだと何度も言っているはずだが?」
由羅がむくれているオレの頬をムニっと挟んだ。
はいはい、何度も聞いてますよ~?
だけどさ、お前は一体どういうつもりで言ってんの?
オレには……
「おまえの“すき”がわかんねぇ……」
「どういう意味だ?」
「それはこっちがききてぇよ!どういういみなんだよ!?……おまえのいう“すき”は、“べんり”のまちがいじゃねぇの?」
「便利?」
オレは男だから余計な気を使わずに済むし、一応家政夫だから家事はほとんど出来るし、保育士だから莉玖の面倒もみることができる……
つまり、オレがいれば結婚する必要もないし、便利だから一緒にいてほしいってことだろ?
「だったら……そういえばいいじゃねぇか」
「綾乃?」
オレが家政夫として便利だから、莉玖が小学校を卒業するまで契約したいとか……十年契約にするとか……
ちゃんとそうやって言ってくれれば……オレだって……
「契約って……私はそういうつもりじゃ……」
「そういうことだろ!?」
好きだとは言うけど付き合うつもりはねぇんだし……
「私と付き合うのがイヤだと言ったのは綾乃だぞ!?」
「それは……」
だって、由羅あの時何て言ったか覚えてるか?
「お前が恋人になりたいなら、なってやってもいい」って言ったんだよ!!
好きだっつったのはお前なのに、なんでオレの片思いみたいになってんだよ!?
なんでオレばっかり……お前を好きになってんの!?
結局お前は、オレと恋人になるのはイヤなんだろ!?
だったら、お前の言う好きって……つまり……そういうのじゃなくて、便利だから好きってことだろ?
「だいたい、おまえがキスしてくるのがわるい!」
お前が、しょっちゅうキスなんかしてくるから……
思わせぶりなこと言ってくるから……
本当にそういう“好き”なのかと勘違いして……
オレだけ勝手に振り回されて……
「……っ……あ~もう!」
全然頭が回らない。
言いたいことや考えていたことはいっぱいあるのに、うまく言葉に出来ない。
思いついた言葉をただ吐き出していく。
自分でも支離滅裂になってるような気はするけど、なんかわけがわからなくなって泣けてきた。
酔っ払いクオリティやべぇな……
「……綾乃は何の話をしているんだ?」
感情的になっているオレを眺めながら、冷静に首を傾げる由羅がムカつく!!
「っせーなっ!オレがひとりでかんちがいしてたってはなしだよっ!!」
そうだ……結局オレの盛大な勘違いってやつじゃねぇか……
由羅は最初からそんなつもりで言ってなかったのに、オレが勝手に勘違いして勝手に……
「っ!?」
服の袖で涙を拭っていると、由羅が手首を掴んでベッドに押し付けて来た。
え?なに?
見上げると、眉間に皺を寄せた由羅の顔があった。
なんで怒ってんの?
「ゆ……んっ!?」
戸惑っている間に由羅の顔が近付いてきて口唇が重なっていた。
って、だからなんでキスしてくるんだよっ!
今オレが言ったこと聞いてたか!?
「っん……やめっ……~~~っ!」
顔を背けようとすると、顎を掴まれて由羅の舌が入って来た。
あ、ヤバい……
悔しいけど、由羅のキスは気持ちがいい。
特に、舌が入って来ると……頭の奥が痺れてきて何も考えられなくなって……
「……っは、ん……っ」
いつの間にか手首はもう自由になっていて、オレは夢中で由羅の首に抱きついていた。
「……これでも、私の“好き”は“便利”の間違いか?」
由羅が耳元で囁きながら股間をオレに擦りつけて来た。
「ふぇ……?」
これって、由羅の……?
硬くなって……る?
「私は最初からこういう意味で綾乃のことが好きだと言っているつもりだったんだがな……?」
「……ぇ?」
由羅がフッと苦笑いをしながら、オレの頬を撫でた。
「だが、たしかにあの時の言い方は良くなかったな。自分ではちゃんと説明をしたつもりだったが、結果的に綾乃を傷つけてしまったわけだし……」
ホントだよ!オレに謝れ!
「あんなタイミングで告白するつもりじゃなかったから、私も混乱していたんだ。綾乃に気持ちを伝えるのは、もう少し、こう……お互いの距離を縮めてから……それなりのシチュエーションでだな……」
シチュエーション?
「ちゃんとリングも用意して……」
んん?リング?
「サプライズで……」
今言ってるからサプライズじゃないですね!?
っていうか、何の話!?
困惑しているオレを見て、由羅が額をくっつけてきた。
「仕切り直そうとしたんだが、一度好きだと伝えてしまったら、なかなか抑えが利かなくなってな……自分でも驚いている」
「へ?」
「いつでも綾乃にキスしたくて仕方がない」
「そこはおさえてください!?」
「押し倒さずにキスまでで我慢していたんだから、褒めてくれてもいいと思うが?」
「威張って言うな!!」
オレは呆れながら由羅の頭をペシリと叩いた。
***
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