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両手いっぱいの〇〇 第165話

「まぁ、冗談は置いておいて……」  この状況はなんなんだよ……  気が付くと、オレは由羅に押し倒されていた。 「おい綾乃、冗談とはどういうことだ?私は冗談なんて言った覚えはないぞ?」 「とりあえず、退~け~よ~っ!重いっ!」  冗談はこの状況だっつーの!  オレは、由羅の胸を押した。  くそっ!びくともしねぇなっ! 「……酔いは?」  由羅がオレの手を掴んでまたベッドに押し付けた。  退く気はねぇのかよ…… 「完全に醒めたっ!」 「……早すぎじゃないか?」  なんで不満気なんだ……?   ***  あの後オレは、由羅とだいぶ長いをした。   「――んで、結局、お前はオレとどうなりたいわけ?オレのことは好きだけど、付き合うつもりはねぇんだろ?」 「だから、綾乃のことは好きだが、急に付き合って欲しいとか言われてもお前も困るだろうし、今は莉玖のベビーシッターとして一緒にいられるから、無理に恋人にならなくてもいいと思ったんだ。それであの時、付き合いたいわけじゃないと……」  オレは今の状態の方が困るんだっつーの…… 「うん、つまり今は、お前=雇ってる人、オレ=雇われてる人ってだけの関係でいいんだよな?そういう立ち位置で一緒にいられればいいってことだよな?」 「まぁ……そうだな」 「だったら、こういうことすんなよ……普通会社で社長が従業員にこんなことしてたら大問題だろ。オレにとっちゃここは職場なんだよ!」 「……家以外ならいいと?」 「なんでそうなる!?」 「じゃあ、どこならいいんだ!?」 「逆ギレすんな!どこも良くねぇよ!?そもそも付き合ってもねぇやつとこういうことすんのはおかしいだろって言ってんの!」 「……綾乃も私のことが好きなんだろう?お互い好きなのに何の問題があるんだ?」  問題しかねぇよ!?  お互い好きなのに、一緒の家に住んでるのに、付き合ってないっていうことの方が……  あぁ……いや、そうか…… 「そうだな、男同士なんだから、付き合うとか恋人だとかそんなのにこだわってるのがおかしいのか?友達の延長みたいな感じで考えればいいってことなのかな……?」  それともセフレとか不倫とかそういう感じかな?  別に同性が好きだという人たちを否定するつもりはない。  ただ、由羅に好意を向けられてると知った時、内心焦った。  同性との付き合い方が全然わからなかったからだ。  そもそも、誰とも付き合ったことがないオレには、難易度が高すぎる!  でも、好きだと言われたことに関しては嬉しくて……それなのにこいつが付き合いたいわけじゃないとか言い出したから、こいつの“好き”を自分がどう受け止めればいいのかわからなくて混乱した。  恋愛経験が乏しいオレは、「告白する=付き合いたい」ってことだと思っていた。  職業柄、結構ドロドロな恋愛模様を耳にすることはあるが、それでもやっぱり、好きな人と一緒になりたいから告白するのだと思っていたし、キスもその先も、になってからするものだと思っていた。  「好きだけど付き合いたいわけじゃない。だけど、キスはしたい」  オレには由羅が言いたいことが全然理解できねぇよ…… 「おい、友達の延長って何だ?私はあの幼馴染たちと同等ってことか?」 「は?うん、だって、オレ“付き合ってないけど好きな人”ならいっぱいいるし?」 「いっぱい!?ちょっと待て!いっぱいってどういうことだ!?」  由羅がグッと顔を近づけて来た。  その顔を押し返す。 「近ぇよ!どういうことって……莉玖はもちろんだし、杏里さんや一路たちも好きだし、リョウたちも好きだし?」 「ああ、なんだ……そういう……」  由羅が大きく息を吐き出しながらオレの隣に仰向けに倒れこんだ。   「それは恋愛感情の好きとは違うだろう?」 「でも、今のお前との関係はリョウたちと何も変わんねぇだろ?」 「……あいつともキスするのかっ!?」 「するわけねぇだろ、バカかっ!いくら好きでも、付き合ってもねぇやつとは普通しねぇんだっつってんだろっ!だから、お前ともキスはしねぇ!オレ家政夫ですから」 「じゃあ付き合おう!」  こいつ……また……っ!!  そういう所がイヤだっつってんだろっ! 「って何だよ!?キスしたいだけならそういうことをさせてくれる店にでも行ってこい!!」 「そんな店に綾乃はいないだろう?」 「当たり前だ!……あ~……もういい……疲れた……」  そんなに酔っていないつもりだけど、気が付けば話が堂々巡りだ。  由羅とオレのそもそもの認識の違い?みたいなのもあって、話が噛み合わない。  あぁ、話が噛み合わないのは前からか…… 「おい、綾乃?」 「これいくら話しても多分ずっとこのままだろ」 「だから、お前が恋人にこだわるなら恋人になろうと……」 「こだわってんのはオレかよ!?むしろお前だろ?」 「私が?」 「あのなぁ、恋人関係はイヤだけどキスはしたいって、都合のいい相手が欲しいって言ってるようなもんだぞ!?」 「私は誰でもいいわけじゃない。綾乃以外には興味はないからな。それに恋人になるのがイヤだとは言ってないだろう?いずれは……」 「そらどうも!でもお生憎様!オレは「そんなに言うなら恋人に」って言うような奴に「オレのためにわざわざ恋人になって下さいまして、ありがとうございます!」って涙を流して喜ぶほど恋人に飢えてねぇし、そうまでして手に入れたいと思うほどお前のことが好きなわけじゃねぇんだよ!」  オレは思わず大声で由羅に怒鳴っていた。  自分でも何を言ってるのかわからないけど、何となく言いたいことは言えた気がする。 「……ああ、そういうことか……」 「それに、お前との契約に、お前が好きな時にキスをしていいなんて項目はねぇんだよ!オレは莉玖のベビーシッターと家事をするだけ!はい、終了!じゃあ、そういうことで!」  由羅が納得したようなので、オレはさっさと起き上がり部屋を出た。  そして自分の部屋に戻った……んだよな……? ***

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