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両手いっぱいの〇〇 第166話

「綾乃、待てっ!」  自分の部屋に入って扉を閉めようとしたところに由羅が隙間から手を差し込んできて、ガッと扉を掴んだ。  このまま思いっきり閉めてやろうかと思ったが、雇い主にケガをさせるとオレの立場が悪くなるので、大人しく扉を開けた。  そう、だから別に由羅に力負けしたとかじゃねぇよ!? 「何だよ?オレ、そろそろ眠たいんですけど?莉玖がいないんだから自分の部屋で寝る!」 「ああ、すまない。そうだな、もうこんな時間か……だが、少しだけでいいから話をさせてくれないか?」 「ついさっきまで、すんげぇ長い時間話してたと思うけどっ!?」 「お前が言っている意味がようやくわかった」 「ああ゛?」  由羅はオレと会話をしながら、当然のように部屋に入って来て、さりげなくオレの手を握って来た。  え、オレ捕まった人みたいになってない?  逃げるとでも思われてんの?  まぁ、それはいいとして、ようやくわかったってことは、一応オレが言いたかったことは伝わったってことか? 「……」 「……ん?由羅?」  由羅が何か言いかけて急にピタッと固まった。   「お~い、由羅?どうした?」  オレの声にハッとした由羅が軽く頭を振った。 「……ああ、すまない。ちょっと眩暈がしただけだ」 「はあ?眩暈ってお前……」  そう言えば……由羅は見合い相手?のあの女から逃げるために、ここ数日はずっと飲み屋に寄って、夜遅く帰って来ていた。  由羅はオレと違って酒に弱いわけではないと思うが、莉玖が来てから全然飲んでいなかったのに急に続けて飲むことになったわけだ。  その上……とんでも計画のおかげで何とかあの女との見合い話はなくなったものの、娘がでっち上げた嘘の話しを信じた父親が怒鳴り込んで来たり、他にも仕事でいろいろとトラブルがあったり……と、その後も連日朝早くから夜遅くまで……忙しそうにしていた。  で、眩暈……?  あれ?それヤバくね? 「由羅、お前こんなことしてる場合じゃねぇだろ。疲れてんだって!もう寝ろ!」 「まだ話が……」 「だまらっしゃい!!お前が具合悪くなったら、会社だって、莉玖だってみんなが困るんだよっ!」 「わかっている。だが、私は、ちゃんと綾乃と話しがしたい」  だからさっきからずっと話しをしてたじゃねぇかよ!?  他になんの話すんの!? 「あ~もう!オレが言いたいことがわかったんなら、それでいいよ!は~い、響一くん、お部屋に戻りましょうね~!」    オレは駄々をこねる由羅の手を引っ張って由羅の部屋まで連れて行った。 「はい、ベッドに着きましたよ~!ちゃんと自分で横になって良い子でねんね出来るかな~?」 「……綾乃先生と一緒じゃないと眠れない。添い寝して寝かしつけてくれ」  オレが保育士ノリで由羅をベッドに寝かせようとすると、由羅が微妙にノッてきた。  内容は全然可愛くねぇけど!!  何が「一緒じゃないと眠れない」だっ!  寂しがり屋かっ!! 「おやおや、響一くん?寝言は寝て言おうね~」 「寝言じゃないぞ?まだ起きている」 「響一くんは屁理屈が多いですね。それじゃ綾乃先生はお部屋に戻るから、また明日ね。おやすみ~!」  ――こうして、由羅の戯言をスルーしてオレは部屋に戻った……のではなかったらしい。  結局、由羅がスルーさせてくれなくて、いつのまにやらオレがベッドに押し倒される体勢になっていた…… ***

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