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両手いっぱいの〇〇 第167話
「おいこら、眩暈がするとか言ってたのは嘘だったのかよ?」
「嘘じゃないが?」
「だったら、さっさと寝ろっ!」
「話し……」
「しつこい!話しはもういいっつってんだろっ!?」
「……綾乃が一緒に寝てくれるんだったら寝る」
「うぜぇな……もうわかったって!寝るまでいてやるから!ほら、寝ろ!」
「……ん~」
オレを押し倒していた由羅が、そのままオレの肩に顔を埋めて来た。
「おい、そこで寝るな!オレの上で寝るなって!お~も~いぃい~!」
「そんなに重くない……」
「オレよりデカいんだから重いの!上からおりろって!」
「ん~……仕方ないな……」
由羅が不満気に唸りながら、ようやくオレの上からおりた。
「んじゃ、おやす……ぅおっ!?ゆ~~らぁ~~?」
横を向いて寝かしつけてやろうとしたら、オレが手を伸ばす前に由羅の腕に抱きこまれた。
「上には乗ってないぞ?」
「……これじゃトントン出来ねぇけど?」
「私は出来るからいい」
「なんでオレがトントンされてんだよ?寝かしつけて欲しいのはお前だろう?」
「どっちも同じようなものだろ?」
え?そういうもん?
いやいやいや、トントンしてたら眠れねぇだろ!
っていうか……
「あのさぁ、こういうのも普通は……」
「キスはしてない」
由羅がオレの言葉を途中で切った。
こいつ……オレに文句を言わせねぇつもりだな?
そりゃたしかにキスはしてきてねぇけど、コレは……
「この方がよく眠れる……」
お前は眠れてもオレが眠れねぇよ!!
重いし、苦しいし、いい匂いするし!!
……ん?
「んん゛、あのさ、オレ抱き枕じゃねぇんだけど?」
「抱き枕……はこんなに文句言わない……」
「だったら明日抱き枕買って来てやんよ!!」
「綾乃がいい」
「……お前、さっきオレが言ってることの意味がわかったって言ってなかったか?」
「ああそうだ。ようやくわかった」
いや、全然わかってねぇだろ!?
一体何がわかったんだよ!?
「……すまない、恋人になりなくないというわけじゃないんだ」
「じゃあ、どういうわけなんだよ?……そりゃ最初のは混乱してたからかもしれねぇけど、その後はお前の本音だろ?」
オレが言うから仕方なく……って……
「そうじゃない……いや、あんな言い方をすればそう思われるかもしれないが、その……多分恋愛に対しての考え方の違いだな」
「あ?どうせオレは童貞だよっ!」
「……別にそこは問題じゃないが?」
「考え方がお子ちゃまとでも言いたいんだろ!?」
でも、付き合ってねぇのにすることだけしたいとか、やっぱりオレにはわかんねぇ!
母が夜職だったくせに何を夢見ているんだと笑われるかもしれないが、母だって、ちゃんと彼氏になった相手としかそういうことはしていない。……と思う。
「いや、お前の考えの方が正しいんだと思う。私は少し……そういうことに冷めているというか……今までまともな恋愛をしてこなかったからな」
学生時代からモテてはいたが、由羅は自分から誰かを好きになったことはないし、恋人になるつもりはないと断っていたらしい。
それでも経験があるのは、恋人にならなくてもいいからと身体だけの関係になっていた相手がいたからだった。(何人かは聞くのやめておこう……)
「一般常識として一応わかってはいるんだ、そういうプロセス?的なものは……ただ、私の感覚としては、恋人だとか付き合うだとかそういうものはあまり意味をなさないし、お互いに好きなら別に……」
「もういい」
「綾乃?」
いろんな考え方の人がいるし、由羅はそれでいいと思う。
ただ……
「うん、やっぱオレとお前は住んでる世界が違うわ」
「同じ世界に住んでいると思うが?」
「同じところにいても、こうやって隣にいても、それでも全然違うところにいるんだよっ!」
由羅がそういう恋愛観で生きて来れたのは、それに共感してそれでもいいと言う相手がいっぱいいたからだろ?
でも、オレはその恋愛観に共感することは出来ない。
否定はしないし、理解しようとすることは出来るけど、共感は出来ない。
こんなに近くにいても……お互い全然違うところに立っている気がする。
ほら、どうしても合わない人っているだろ?
あれと同じようなもんじゃねぇのかな……
別に由羅のことは嫌いじゃない。
何でもない話をしている時は楽しい。
仕事の関係、友達の関係なら問題ない。
「だけど、恋愛関係は無理。お前はお前の恋愛観に共感してくれる人を探すべきだ。オレはオレの恋愛観に共感してくれる人を探す。それで解決だろ?」
「何も解決していない!私は綾乃じゃないと嫌だと言っているだろう?他に好きな相手などいない」
「お前は別に好きな相手じゃなくてもいいんだろ?なら何も問題ねぇじゃんか」
「だからっ!それは過去の話しで、今は綾乃が好きなんだっ!!綾乃が好きだから、もっと綾乃と一緒にいたいし、キスしたいし……だが、私は誰かをちゃんと好きになったのが初めてだから、どうすればいいのかわからないと言っているんだ!だいたい、誰でもいいなら先日の見合いの話しだって断ったりしないっ!」
由羅がオレを抱きしめる腕に力を入れた。
ちょ、痛い痛いっ!
っつーか、どうすればいいのかわからないなんて今初めて聞いた気がするんですけどっ!?
「由羅っ!痛いって!落ち着けっ!」
「イヤだ!綾乃が私以外の誰かと付き合っているところなんて想像したくもない!」
だったら想像しなきゃいいと思います!
っていうか、想像する必要もないと思いますぅうううう!!
「……じゃあ、綾乃はあの時、私が初めて好きだと伝えた時に、好きだから付き合って欲しいと言っていれば、恋人になってくれていたのか?」
「へ?……それは……」
言葉に詰まったオレはチラリと由羅を見上げて固まった。
なんでそんな表情 してんだよ……
***
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