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両手いっぱいの〇〇 第168話
由羅は今にも泣きそうな表情でオレを見つめていた。
いつも無駄に自信満々のクセに、偉そうにしてるくせに、なんでそんな顔してんだよ……
「綾乃?」
「え?あ、え~と……」
やべっ!何の話してたっけ!?
あ、そうだ。あの時付き合おうって言われてたら付き合ったかどうかって?
それは……
「……わかんねぇ……」
だって、好きだって言われたの初めてで、オレも混乱してたし……
「でも、すぐには返事出来なくても、ちゃんと考えたと思う。お前のこと……」
普通、思いもよらない相手から告白されて、いきなり「はい、付き合いましょう!」とはならないだろ。
その返事をするのは「実はオレも好きだったんだ!」っていう両想いだった場合だけだと思う。
「オレ、告白されるの初めてだったし、しかも初告白が同性で、しかもお前とか……混乱しねぇ方がおかしいだろ?」
「……“しかもお前”とはどういう意味だ?」
「え?あ~……えっと、ほら、雇い主だし?」
「ああ……ほら、だから私が言っただろう?急に告白されても綾乃も困るだろうしって……」
「困ったよ?困るに決まってんだろっ!?でも、だからって「好きだけど付き合いたいわけじゃない」とか言われたら、余計に困るだろうがっ!オレは真面目に考えようと思ってたのにそんなこと言われたら……オレの乏しい恋愛知識じゃ理解不能すぎて頭がパーン!だよっ!!」
「……そうだな。私はそこから間違ってたんだな」
由羅がため息を吐きつつ、オレを抱きしめていた腕を外した。
「自業自得というやつだな……悪かったな、私の恋愛観をお前に押し付けてしまって」
「へ?あ……お、おう……わかってくれればいい……けど……」
急に由羅がしおらしくなったので、焦る。
なんで焦っているのか自分でもわからないけど……
「ざまぁないな。結局私も父や祖父と同じだ。自分のことばかりで母や祖母に辛く当たっていた彼らを嫌って反面教師に生きて来たつもりでも、血は争えんな……」
由羅が自嘲気味に笑いながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
別に……由羅は自分のことばかりって感じはしねぇけど……
莉玖のこともオレのことも社員のことも……ちゃんと他人のことを考えてると思うけどな~……
あぁ、でも由羅のそういう言動は、父親たちみたいにはなりたくないって気持ちから由羅なりに必死だったってことか?
「莉玖を引き取った時も……綾乃が好きだと気付いた時も……あんな風にはならないようにと自分では気を付けていたつもりなんだ。だが……やはり、私には無理なのかもしれないな」
「……何が?」
「誰かを好きになるのも……誰かを幸せにするのも……」
「そんなことは……」
ないと思うけど……
「このままじゃ莉玖を幸せにするどころか不幸にするだけかもしれない。いつか……私も莉玖に憎まれる日が来るのかもしれないな……」
ん?ちょっと待て!話がいろいろ飛躍してねぇか!?
なんでオレとの恋愛話から莉玖の将来の話しにまでいっちゃったんだ!?
由羅さ~ん……もう何の話をしてるのかわけわかんねぇよ……
「あのさ、オレとの話と莉玖のことはまた別じゃねぇの?」
「同じことだろう?莉玖と綾乃は私が初めて何よりも大切にしたいと思った二人なんだから」
「……ぇ?」
いやいや、キュン!じゃねぇよ!?何だよ今のキュン!って!?
「綾乃……」
しばらく天井を見つめていた由羅が、不意にこちらを見た。
「ふぁい!?」
「好きだ」
「……あの……」
「からかってるんじゃなくて、本当に好きだ」
「……ぁ、ぅん……ぁの……オレ……」
「困らせてすまない。……もう言わない……」
「……え?」
由羅の様子が何だかいつもよりも真剣で……言葉に詰まった。
「……ぇっと……」
「……もう寝た方がいいな」
「え?あの……由羅?」
「遅くまで引きとめてすまなかった。おやすみ」
そう言うと、由羅が背中を向けた。
え~と……オレどうすればいいんだ?
由羅の態度に混乱したオレは、とりあえず由羅の頭を撫でた。
「……綾乃?何をしてるんだ?」
「え!?あの、だって、寝かしつけを……」
寝かしつけてくれって言ったのはお前だろおおおお!?
「あぁ……もういいよ。ありがとう。綾乃も寝ろ」
「あ、うん……」
もういいのか……
っていうか、何なんだよ!?
結局どうなったんだ?
オレはどこで寝ればいいんだよ!?
「……なあ、オレ部屋に戻っていいのか?」
「ああ……」
「ホントに戻るぞ!?トントンしてねぇけどいいんだな!?」
「おやすみ」
「っ!……おやすみっ!!」
「ぅ゛……!?」
由羅がずっと背中を向けたままなので何となく腹が立って……
オレは由羅に思いっきり枕を投げつけて部屋に戻った。
***
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