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両手いっぱいの〇〇 第171話

「へぇ~、じゃあ、ここはあいつが用意したってこと?」 「うん、まぁな」  部屋の中をぐるりと見渡しながら、(りょう)が「へぇ~」を連呼した。 ***  引っ越してからおよそ一ヶ月が経った。  平日は由羅が帰宅するとそこで仕事は終わりだ。  いくら莉玖がぐずろうが、泣き喚こうが、 「もう仕事は終わりだ。後は大丈夫だから綾乃は早く帰れ!外は暗いから気を付けろよ!?ライトは必ずつけるように!!変なやつについていくなよ!?何かあればすぐに連絡をしてこい!」  と、由羅に親のように口うるさく言われつつ追い出されてしまうので、オレは仕方なくそのまま帰宅している。(親にもそんなに口うるさく言われたことねぇけど!っていうか、オレこれでも大人なんですけど!?)  だから、遅くてもだいたい21時頃には家に着いている。  風呂も飯も由羅の家で済ましているので、帰宅後にすることは寝ることだけだ。  久々にひとり暮らしを始めて感じたのは……夜が静かだということ。  ボロアパートに住んでいた時は壁が薄いからいろんなところから生活音が聞こえていたし、由羅家でも、由羅の部屋で一緒に寝るようになってからは、静かな中でも莉玖と由羅の寝息が聞こえていた。    ……静か過ぎて耳が痛い……  このマンションの周辺は住宅街なので夜はあまり車や人の往来がない。  その上、気密性が高いのか、窓を閉めて自分が横になり動きを止めるとあまりの静けさに耳鳴りがする。  もういっそ霊でもいいから出て来てくれねぇかなぁ……  あ、もちろん、莉奈みたいなあんまり害のない明るい(やつ)な!?    だが、オレの期待(?)も虚しく、誰も出てこない。  大抵あっちこっちに浮遊霊みたいなのがいるものなのに、なぜかこの部屋には由羅家にいる時のように霊というものが一つも見当たらない。  オレが毎日由羅に会ってるから、何だかんだで由羅の守護霊の余韻でも残ってんのかな?  生まれてこの方、この力を疎ましく思うことばかりだったのに、まさか霊に出て来て欲しいと願うようになるとは思わなかった……    こうなったら……  あまりの静けさに耐えかねて、オレは安い中古の携帯ラジオを買って一晩中流すことにした。  日本語だと聞き入ってしまうので、あえて外国語のよくわからないチャンネルにしている。  “睡眠学習”って言うのを聞いたことがあるけど、およそ一ヶ月流し続けていても未だに全然わからないので、たぶんあれは嘘だ! ***  しばらくして、たまたま連絡をしてきた幼馴染の(りょう)にひとり暮らしを始めたことを話したところ、即「遊びに行く!」と返信が来た。 「もう!メイちゃんってば水臭いなぁ~。ひとり暮らしを始めたんならもっと早く教えてくれればいいのに!」 「悪い、いろいろと散らかってたから……」 「散らかって……?」  亮が、ほとんど何もない部屋の中を指差して首を傾げた。    散らかっていたのはオレの頭の中だ。  この一ヶ月、バカはバカなりにずっと取っ散らかった頭を整理しようと頑張っていたが、オレはいまだにこの状況が整理できていない。  自分の気持ちも、由羅の気持ちも、由羅の考えも、何も……  自分が矛盾しているのはわかっている。  由羅が気遣ってくれているのもわかっている。  だけど、じゃああの時、オレは一体どうしたかったんだろう……? 「ところで、なんで急に引っ越したんだ?仕事クビになったのか?」 「いや……仕事はクビになってない」  簡単に事の経緯を話す。  もう誰でもいいから、一体何が悪かったのか、これからどうすればいいのか教えて欲しくて、思わず、由羅に告白されたことまで話してしまっていた。  話した後、あ、しまった!と思ったが、なぜか亮は意外とすんなり受け入れた。 「やっぱり、メイちゃんが告白されたって言ってたのってあいつだったのか……」 「え、告白されたことリョウに話したっけ?」 「ん?何言って……あ、もしかしてメイちゃん……あの後盛大に酔っ払ったから、飲み会の時のこと覚えてねぇな?」 「飲み会って……え、いや、みんなで飲み会した時のことだよな!?つい先日の!」 「つい先日っつーか、もう一ヶ月以上経つけどな?」 「あ゛……まぁ……そうだな。もうそんなに経つのか……」  亮を含む幼馴染数名と飲み会をしたことは覚えている。  その時に盛大に酔っ払ったらしいということも。  だけど、何の話をしたのかとか詳しいことはあまり覚えていない。  それに、この一ヶ月はあっという間に過ぎたので、本当にオレにしてみれば飲み会はつい先日のことのように感じていた。  夜になる度にこの部屋でひとり、いろんなことをいっぱい考える。  でも、何もまとまらないまま、何も答えが出ないまま、朝が来る。  毎日それの繰り返しだった。 ***

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