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両手いっぱいの〇〇 第172話
ベビーシッターとしても、今のオレは最低だ。
由羅たちとの信頼関係が完全に崩れている気がする……
莉玖は相変わらず懐いてくれているが、毎晩オレが莉玖を置いて帰ってしまうので、最近莉玖も何となく前ほどはべったりにならなくなった気がする……
ところが、じゃあオレの代わりに由羅にべったりになったのかと言うと、そうではなく、まだパパイヤ期は継続中らしい。
こんなことになるなら、最初から由羅の家に住まなきゃ良かった……
一緒に住んでいる期間があったせいで、莉玖はオレのことを母親代わりだと思っている。
そのオレがある日を境にいきなり夜になるといなくなるというのは、莉玖にしてみればかなりなストレスだ。
今の状況は、たぶん莉玖にとってもあまりいいとは言えない。
だが、二人との関係をどうにか修復したいと思いつつも、毎回由羅とゆっくり話し合うことが出来ないまま、由羅の勢いに負けて放り出されてしまうのだ。
「……っ」
「ちょ、メイちゃん?どうした!?腹でも痛いか!?」
「リョウ……オレ……どうしよう……どうすればいいんだろう……」
「え……?」
突然泣き出したオレに、亮が慌てた。
「オレほんとバカだよな~……絶対にこのままじゃダメなんだ……だけど、いくら考えても答えが出ねぇんだよ……」
「メイちゃん……」
「ぁ……」
亮の困惑顔にハッとする。
年上の幼馴染が急に泣きだしたらそりゃ驚くよな。
オレもいい歳して何泣いてんだろ……
慌てて服の袖で顔を拭った。
「ごめん、せっかく来てくれたのに……あ、そうだ。お前が来るって言ったからお菓子買って来たんだよ!一緒に食……ぅわっ!?」
オレは泣いたのを誤魔化すように、わざと元気な声を出して笑いながらキッチンに向かおうとした。
だが、手首を引っ張られたと思った瞬間、亮に抱きしめられていた。
「……なぁ、メイちゃん。もうあいつの家に行くの止めたら?」
「……へ?」
亮はオレを抱きしめつつ頭を撫でてくれた。
あ~、子どもの頃オレもよくリョウたちにこうやってヨシヨシしてやってたよな……
と懐かしく思いつつも、まさか大人になってから亮にしてもらうことになるとは思ってもなかったのでちょっと気恥しい。
「そんなに泣くほど考え込まなくてもいいと思うぞ?あいつのことがイヤなら、仕事を辞めればいいだけだろ?」
「え?別にイヤ……ってわけじゃ……」
莉玖のことも由羅のことも、嫌いなわけじゃないし……
むしろ、嫌いじゃないからこんなに……悩んでるわけだし……
「メイちゃんが子どものことを放っておけないのはわかるけどさぁ……こんな家をいきなり用意できるってことは、あいつ金持ちなんだろ?見た目もそんな感じだったし……だったら、家政婦もベビーシッターもいくらでも雇えるだろ」
亮には、莉玖の詳しい事情などはさすがに話していない。
だから、そう思うのも仕方がないことだ。
「いや、そうだけど……あの、でもあいつも莉玖もわりと人見知りが激しいっつーか、ちょっと……誰でもいいってわけじゃなくて……」
「メイちゃんじゃなきゃダメなのか?」
「あの……そういうわけじゃないだろうけど……っつーか、オレも次の家とか仕事がそんなすぐ見つかんねぇし……」
言いながら、由羅と会った時のことを思い出した。
そもそもオレが全然次の仕事が見つからずに困っているところを由羅が雇ってくれたわけで……多少強引ではあったけど、助かったのも事実だ。
住むところが急になくなった時も……由羅は嫌な顔一つしないで部屋を用意してくれて……
(その代償にオレのファーストキスを勝手に奪われたけど!!)
「家は探す必要ないよ。俺のところに来ればいい」
え、リョウの家?
そういえば、リョウが今住んでいる部屋はわりと広いってみんな言ってたっけ……
「仕事は……メイちゃんならすぐに仕事見つかるって!まぁ、転職する時は先に次の就職先を見つけておいたほうがいいとは思うけど……でももし見つからなくても……俺が何とかする!!」
いやいや、それがさ?マジで笑っちゃうくらい仕事見つからねぇんだよなぁ~……
「何とかって……どうするんだ?」
何かコネでもあるってことかな……?
だけど、オレ、保育士と家政夫しかしたことねぇんだよな……
保育士や家政夫の方にリョウがコネを持っているとか思えねぇし……そりゃ、他の仕事ならあるかもしれねぇけど……
「大丈夫!俺がメイちゃんを養う!!」
「……はあ!?養うってお前……オレの方が年上なんですけど!?」
「年上っつっても、一歳しか違わないだろ?」
「それでも年上なんだよっ!だいたい、なんでリョウが俺を養うんだよ?」
首を傾げる俺に、亮がちょっとムッとした顔を近づけて来た。
「だって……」
「……へ?」
次の瞬間には、なぜかオレは亮に押し倒されてキスをされていた。
……いやいやいや、おかしいだろっ!?
「んむっ!!……っん~~~っ!!」
オレは思いっきり力を込めて、ドンっと亮の胸元を叩いた。
***
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