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両手いっぱいの〇〇 第174話
「り?」
「あ、いや、えっと、り……りぃ~~……リョウは……男が好きなのか?」
「メイちゃん以外の男に欲情したことはねぇよ?」
「欲っ!?」
それはあれか?逆に言えば、オレには欲情したことがあるってことか!?
「そりゃ、俺だって男だし?好きな子には欲情するよ」
「え、あの、それはそうだろうけど、でも……」
その相手がオレなの!?
「メイちゃんは純粋だからさぁ、誰かに欲情するとか経験ないだろうけど」
「……いや、ないわけじゃねぇけど……」
一応オレだって……お年頃だからムラムラして自分で処理することはあるんですけど……?
だいたい、20過ぎたいい大人に向かって“純粋”って……リョウは一体オレを何だと思ってるんだ?オレの方がお兄ちゃんだぞ!?
「だって、保津 たちと集まってる時もメイちゃんは下ネタっつーか、エッチな話とかにノッて来なかっただろ?話が始まると顔真っ赤にして逃げて行ってたし。まぁ、そういうところも可愛くて好きなんだけど……」
「そ、そんなことはねぇよ!?オレだってみんなと一緒に……」
……一緒に……してなかったなぁ~……そういう男子特有のいわゆる猥談が始まると、食事の用意だとか、もっと年下のやつらの面倒をみるのに忙しいフリして抜け出してたから……
別に興味がないとかじゃねぇけど、ただ幼馴染たちとそんな話をするのが恥ずかしくて……
さりげなく逃げていたつもりだったのに、リョウにはバレてたのか……
「――でね?ちゃんと就職してお金貯めて準備が出来たら、もう一回本気でプロポーズしようって思って……」
「え、あ~……それで……準備は出来たのか?」
頭の中がパニックでリョウの話しがあまり入って来なかったので、とりあえず耳に残ったことを聞いてみた。
「まだ。でも、学生時代からバイト頑張ってたから、だいぶ貯まってるよ?だから、まだ贅沢はさせてあげられないけど、最低限養うことは……」
「待て待てっ!!」
いや、オレもなに「準備は出来たのか?」とか聞いてんの!?
あ~もう!どこからツッコめばいいのかわかんねぇ……っ!
「えっとな、あ~……まず最初に……リョウに養ってもらわなくてもオレだって多少は貯めてる!」
『え、そこ!?まず最初に返事するべきことは他にあるでしょう!?』
莉奈が間髪入れずにオレにツッコんできた。
オレもなんでそんなこと言ったのかわかんねぇよ!?
ただ、とりあえず耳に残った言葉に反応を返そうとしたらこうなっただけで……
「じゃあ、俺のとメイちゃんのと合わせれば、今すぐに仕事辞めてもメイちゃんが次の仕事探してる間くらい何とかなるだろ!」
亮が嬉しそうに笑った。
『え、辞めるの!?』
「え、辞めねぇよ!?」
莉奈と声がハモった。
『ちょっと、綾乃くん!?仕事辞めるってどういうこと!?まさか、兄さんよりもこの子がいいの!?この子と一緒になるわけ!?兄さんはどうするのよ!?』
ちょっと莉奈さん、黙ってて!?
もう余計に頭がこんがらがっちまうよぉおおお!!
「ご、ごめん!オレ……あの……あの……トイレぇえええええ!!」
「え?あ、うん。漏らすなよ~?」
そんなに我慢してたのかな?というつぶやきを背中に聞きながら、オレは急いでトイレに逃げ込んだ。
「おい、莉奈!莉奈さ~ん!」
小声で莉奈に呼びかける。
『なぁに?』
「あのさ、しばらく黙っててくれないか?オレただでさえ今パニクってて……っていうか、何でここにいるんだよ!?」
『何でって、綾乃くんが呼んだからよ?いくら話が出来ないからって言っても、レディーをトイレに呼ぶのはどうかと思うけど……」
「そうじゃなくて!莉玖は!?お前由羅の家にいるはずだろ!?」
『あぁ……莉玖なら大丈夫よ。今日も元気にパパイヤでぐずってるわ』
それ全然大丈夫じゃねぇだろぉ~~!?
『だって、私がいても出来ることなんてないし……』
莉奈がちょっと泣きそうな顔で笑って俯いた。
莉玖にも莉奈のことが視える時はあるが、いつでも視えているわけではないらしい。
ぐずっている莉玖をあやしてやることもできないのに、ずっとすぐ横で見ているのは辛いのかもしれない。
『で、綾乃くんが暇してるかもと思って遊びに来てみたら、まさかの幼馴染に襲われるっていうご褒美イベントだったっていう……』
ご褒美イベント……?
前言撤回。たんにこいつ暇つぶしに来ただけか!!
「オレは今いっぱいいっぱいなの!莉奈の暇つぶしに付き合ってやる余裕はねぇんだよ!」
『わかったわ。静かに観てるから、私のことはお気になさらず!あ、でも、兄とあの子どっちを選ぶのかは教えて?』
「どっちって……そんなのわかんねぇよ……」
『ん~……じゃあ、あの子にキスされた時どうだった?兄の時と何か違いはあった?』
「え?」
違い?……そんなのどっちもビックリしたし……
どっちも男同士なんだから気持ち悪いだけに決まって……
「……あ……」
そうだ……由羅とリョウ……違いは……
***
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