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両手いっぱいの〇〇 第176話

『帰ったわよ』 「ぅ~~……すごい罪悪感が……」  混乱していたので、ひとまず考える時間が欲しくて亮に嘘をついてしまった。 「昔から心配性ではあったけど、まさかあんなに心配してくれるとは……」  トイレから出てぐったりと布団に倒れこんだオレの隣に、莉奈がちょこんと座った。  由羅のことだけでもいっぱいいっぱいなのに、まさかリョウまで……もう何がどうなってんだよ!? 『なかなか面白くて良い子だったわね』 「そうだな……そうなんだよ……リョウは良い子なんだよぉ……あ~……どうしよう……」  リョウに相談して何とかアドバイスをもらおうと思ったのに、むしろ悩みが増えるとは……予想外です!!  なんか本当に腹が痛くなってきた…… 『私としては、やっぱり……莉玖を任せられるのは綾乃くんだけだし……兄と一緒になって欲しいのよね……もちろん、莉玖のためだけってわけじゃなくて、兄は本当に綾乃くんのこと大事に思ってるし、綾乃くんだって、満更でもないわけじゃない?でも、さっきの彼も本気みたいだし……いい子だと思うし……後は綾乃くんの気持ち次第よね~』  莉奈が独り言のようにぶつぶつ言いながら腕を組んで難しい顔をした。 「……あのさぁ、莉奈さん?」 『なぁに?』 「さっきから気になってたんだけど……莉奈は由羅がオレのこと好きだと思ってるみたいだけどさ、それ間違ってるぞ?……ちょっと前はそうだったかもしれねぇけど……でも今はオレあいつに……嫌われてるから……」 『どうして?』  莉奈が無邪気に首を傾げる。  まぁ……家を出た理由とか、由羅と何があったのかとか……この一ヶ月莉奈の追求を全部ガン無視してたオレが悪いんだけどさ…… 「オレ……あいつの恋愛観にはついていけねぇから、無理ってハッキリ言ったんだよ」 『知ってるわよ?姉さんに話してたじゃないの』 「あ゛……」  ……それもそうか。  杏里に引っ越した理由を説明したのは、莉玖のお昼寝タイムだった。  姿は見えなかったにしても、莉玖の守護霊(自称)の莉奈が傍にいたのは当たり前だ。 「って、知ってるなら、なんで……」 『だって、別に兄さんはあなたのこと嫌いになんかなってないんだもの』 「はい?」  いやいや、じゃあなんで…… 『なぜあなたを家から出したのかって?う~ん……そうねぇ……』  莉奈が言葉を探すようにちょっと天井を見上げた。 『兄さんって不器用で言葉足らずで一途な頑固者なのよね』  一途? 『で、綾乃くんは純情で照れ屋で意地っ張りな頑固者なのよね』 「んん?」 『あなたたちって、どっちも頑固で融通が利かないから、話が全然進まないのよね。相手のことを受け入れていると見せかけて、結局自分を曲げないでしょう?』 「ぅ゛……そんなことは……」   『……まぁそれはいいとして……兄さんがあなたを引っ越させたのは、あなたのことが嫌いだからじゃなくて、からよ』 「え?」  嫌われたくないから追い出すってどういうことだよ!? 『さっきも言ったけど、莉玖は一ヶ月経った今もまだ、あなたが帰ると号泣してね、兄がいくらあやしてもなかなか眠れなくて……毎晩、夜中までかかってようやく寝かしつけているのよ。それから晩ご飯を食べて、お風呂に入って、持ち帰りの仕事をしているから……実質兄の睡眠時間は1時間くらいなんじゃないかしら……それに、まだ仕事が残ってるとかで綾乃くんが休みの日も姉に莉玖を預けて仕事に行っているし……』 「はあ!?」  え、待って……  あいつ仕事持ち帰って来てんの!?  でもそういえば……今まで帰宅時間は不規則だったのに、この一ヶ月は毎日ほぼ決まった時間に帰ってきていた。ということは、仕事を途中で切り上げて持ち帰っていると考えるのが自然だ。  オレとしたことが……なんでそのことに気付かなかったんだろう…… 『私が今日来たのも……本当はね、莉玖の寝かしつけを綾乃くんにお願いしようと思ったのよ』 「オレも莉玖が不安定になってるのは気づいてたよ。由羅が寝不足なのも……だから、このままじゃダメだと思って……でも、寝かしつけてやりたいけど、由羅に追い出されるし……」 『そこを何とか粘って欲しいの!莉玖も寝不足でイライラしてるし、兄もあのままじゃ仕事に支障も出るし……今のところは莉玖に怒鳴ったり手をあげたりすることはないけど……私もあの子を産んだ時はいろいろあって追いつめられていたから、今の兄の状況が何となく重なって心配なのよ……』 「莉奈……」 『ごめんなさい……本当に勝手なことを言っているのはわかってるのよ?だけど、綾乃くんしか頼れる人がいないのよ!姉も心配はしてくれているけど、毎晩来るのは無理だし……何より兄が自分でどうにかするってムキになっているから……』  莉奈は深々とオレに頭を下げて来た。   「わかった……とにかく、明日は何とか粘ってみる。オレも由羅と話さなきゃって思ってたし……」  なにをどう話しあえばいいのかわかんねぇけど……でもまずは……家政夫として、ベビーシッターとして、出来ることをしよう。  明日は絶対にあいつらを寝かしつけてから帰る!! ***

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