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両手いっぱいの〇〇 第180話

 こうして、杏里の鶴の一声で、由羅の入院が決まった。  その日はもう面会時間も過ぎていたので、また翌朝、入院に必要な物を持って来ると言うことになり、オレは杏里の迫力に負けてふて寝をしている由羅を残して、杏里と一緒に病院を後にした。   「それじゃあ、明日の朝また迎えに来るわね」 「はい、よろしくお願いします」  杏里には、そのまま莉玖と一緒に泊まりに来るよう言われたが、オレの着替えがないし、翌日持って行く由羅の荷物も用意しなければいけないのでひとまず今夜は莉玖と一緒に由羅家に帰ることにした。   「ただいま~!」 「たっ!ま~!」 「よ~し、莉玖、さっさとお風呂入ろうか!」 「あ~い!」  お風呂に入ろうとしているところに杏里から電話があったので、結局オレたちはまだお風呂に入れていなかった。  明日の用意もしなきゃだから、早く風呂に入って早く莉玖を寝かしつけなきゃ!  と思っていたのだが……  先ほど病院で、オレたちが車に戻ると、莉玖はサチコの膝に抱っこされて、二人で手遊びや子ども向け教育番組の動画をノリノリで観ていた。  そのテンションのまま帰宅したので、莉玖はお風呂でもかなりテンションが上がっていた。  その上、夜になってもオレがいることが余程嬉しかったらしく、オレが一緒に寝室に入ったことで莉玖のテンションはMAX状態になってしまった。 「あ~の!!てって!」 「ん~?手遊びすんのか?じゃあ、ぐーちょきぱーな。はい、ぐーして?」 「う~!とち~!ぱ~!」 「グーとパーは完璧だな!莉玖ももうすぐ二歳だからチョキも練習しておかねぇとな~」  一向に横になろうとせず、ベビーベッドの上で激しく身体を揺らしながら手を動かす莉玖に、しばらく付き合う。  うん、ダ~メだこれ。まだ寝そうにないな…… 『綾乃くんが一緒に寝てくれるのが嬉しいのね~!……こんなにご機嫌な莉玖は久々に見たわ』  莉奈が嬉しそうにニコニコしながら莉玖を見下ろす。  そうだな、ご機嫌なのはいいんだけど……  由羅が寝かしつける時のようにギャン泣きはしないけど、逆にテンションが上がりすぎて眠れないパターンとは…… 「そうだ!莉玖、今夜はパパいねぇからこっちでゴロンするか」 「パッパ?」 「パパはしばらく入院だってさ。莉玖に会いたいよ~って泣いてたぞ~」 「きゃははは」  オレが泣く真似をすると、莉玖が手を叩いて喜んだ。 「面白いか?う~ん、でもそれは由羅が聞いたらもっと泣いちゃうから内緒だな」  オレは莉玖を抱っこして由羅のベッドに移動した。 「ほら、パパのベッドの方が気持ちいいよな~」  莉玖をベッドに転がして、オレも一緒に寝転ぶ。 「あ~の!てって!」 「はいはい。じゃあ、莉玖もゴロンして?はい、真似するんだぞ~?手を挙げて~?」 「あ~い」  二人で寝転んで手を天井に向けた状態で手遊びをする。  声量は抑えて、子守歌を歌う時のようにあえてスローテンポで手遊びをしていく。  普段のスピードでやると余計にテンションを上げてしまうので、遊びつつクールダウンしていく作戦だ。  とはいえ、コレ結構腕がダルイ。  莉玖は何度か起き上がったが、「寝転ばないと手遊びしないぞ~」と言うと、渋々寝転んだ。  由羅のベッドに移ってから30分程して、莉玖の手がパタンと落ちた。  もうちょっと粘るかと思ったのだが、莉玖もこの一ヶ月寝不足だったせいか、疲れていたらしい。  ちょっと鼻が詰まっているらしく、プピーと可愛い寝息を立てている莉玖をそっとベビーベッドに移して、由羅の入院に必要なものを用意した。 「え~と、後は……」  入院に必要な物は、杏里に教えてもらった。  入院のための書類とかは身内の杏里が書いてくれる。  オレは由羅がいつも使っているものを用意すればいいだけだ。 「準備完了!莉玖の分も出来たし……後は明日病院に行く時に持って行けばいいだけだな」  オレは由羅用の荷物と莉玖のお泊りセットを並べて置き、手を腰に当てた。  杏里はオレも莉玖と一緒に杏里の家に泊まるようにと言ってくれているが、やっぱり莉玖だけお願いすることにしよう。  オレは昼間由羅の付き添いに行って、夜は由羅家(ここ)に帰って来る。  だって……オレがここを出て一ヶ月……由羅が帰宅するとすぐに放り出されていたせいで家事が中途半端になっていて……掃除もちゃんと出来ていない。  この機会に、一気に大掃除してやるっ!!    明日はどこを掃除しようかな……なんて思いつつ由羅のベッドに寝転んだオレは、思わず枕に顔を埋めた。  あ……由羅の匂いだ……  さっきは莉玖を寝かしつけるのに必死だったからそんなに感じなかったのかな……そりゃ由羅のベッドなんだから由羅の匂いがして当たり前だけどさ……  ふと……病院で由羅に抱きしめられた時のことを思い出した。  同時に、頭の中に昨夜莉奈に聞かれた言葉が浮かぶ。  由羅と亮の違い……二人の違い……  なんで……なんで……由羅だと……  こんなに……――     *** 

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