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両手いっぱいの〇〇 第183話
「綾乃?どうした?大丈夫か?」
「ん~?」
布団に突っ伏したオレの頭を由羅が撫でてきた。
「綾乃、今日はもう帰れ」
「は?まだ昼過ぎだぞ?」
「ただの検査入院だ。一日中付き添う必要はない」
まぁ、普通はそうですが……
「だって、杏里さんにお前の監視しとけって言われてるし。それにお前、杏里さんが言ってた通り「帰る」って駄々こねてたし……」
「んん゛、それは……ただ安静にしているだけだと言われたのに、検査をするとか言われたから驚いて……」
由羅がちょっと気まずそうに咳払いをした。
「だがもう検査入院だとわかったし、綾乃にも……莉玖たちのことを考えるならもっと自分の身体を大事にしろと言われたからな……ちゃんと検査は受けるし、2~3日くらい大人しく入院する。だから大丈夫だ」
「……オレはもう必要ねぇって?」
「いや、そうは言って……」
「あぁ……そうだな、お前はオレと話したくねぇんだったな。心配すんな、もう喋らねぇよ」
もうこの一ヶ月の莉玖のことはだいたい報告できたしな。
「綾乃!?私はそんなこと言っていないぞ!?」
起き上がったオレの手を由羅が急いで掴んだ。
「言ってねぇけど、そういうことだろ?……あ、そうだ」
今は由羅は安静にしてなきゃいけないから、ちゃんと話し合うのは退院してからにするつもりだったけど……
「あのさ……昨日言うつもりだったんだけど、これからはお前が何と言おうと莉玖を寝かしつけてから帰るからな!」
「いや、夜は私がいるから大丈夫だ」
「だって、莉玖の寝かしつけに手こずってるんだろ?」
「それは……」
由羅がグッと言葉を詰まらせた。
心配しなくても……由羅がオレのことが嫌いなのはわかってるし、今回のでオレに頼りたくねぇのもよ~くわかった。
それに、莉玖のベビーシッターとしてはオレがいないと困るってことで仕方なく雇ってくれてるのもわかってる……でも、だったら……
「莉玖のことだけでもちゃんと面倒みさせてくれよ……」
「綾乃はちゃんとみてくれているだろう?それに……」
「由羅も大変だろうけど、莉玖もだいぶストレス溜まってるんだよ。だから、せめて莉玖が寝るまではオレが……って思ってるんだけどさ、それでもお前が仕事から帰って来てオレの顔見るのがイヤだっつーなら、もう他の人を探した方がお前のためにも莉玖のためにもいいと思って……」
「だから、なぜそうなるんだ!?」
「ぅわっ!?」
由羅に引っ張られて、オレはまた由羅の布団の上に倒れこんだ。
なんだよもう!?
「私は……綾乃が、仕事の関係なら問題ないと言ったから……だったら、せめて働きやすい環境をと思って……これ以上嫌われないようにって……」
「へ?」
これ以上……嫌われないように?
そういえば、莉奈もそんなことを言っていたような……
「私も莉玖も綾乃に頼りすぎだから……もうちょっと綾乃の負担を減らさないと、仕事まで辞めると言い出しかねないだろう!?」
「え、ちょっと待て、オレを追い出したのはオレのことが嫌いになったんじゃねぇの?」
「嫌いならわざわざ家を用意したりせずにさっさとクビにしていると言っただろう!?」
「じゃ、じゃあ、なんで……」
帰宅するなりオレを追い出すんだよ!?
「あのあたりは人通りが少ないから、あまり遅くなると危ないだろう!?だから、なるべく早くって……」
「え~と……もしかして……心配……してくれてただけ?」
「それ以外に何があるんだ?」
いや……うん、そういえばそんなこと言ってた……気がする……
オレは、完全に嫌われたんだって思い込んでいたせいで、由羅の言動を素直に受け取ることが出来なくなっていたらしい……
「……ごめん……オレその……家を追い出されて、急にお前の態度が変わってさっさと帰れとか言うようになったから、てっきり……キスとか出来なくなったらオレのことはもう用済みってことかと……」
「おい綾乃……それだとまるで私は綾乃の身体だけが目的のように聞こえるんだが……?」
「……え、違うのか?」
「お前は一体私を何だと……いや、そうか……私の恋愛観はお前にしてみればそういう風に見えるということか」
由羅が片手で軽く頭を抱えた。
「私は綾乃が好きだ。だから、仕事関係でもいいから、傍にいて欲しいと思って……そのために私が出来ることをしただけだ。家を用意したのは、綾乃が……嫌いな相手 と同じ家にいるのは苦痛だろうと思ったからで、早く帰るように促したのも……だが、それらも結局は私の押し付けでしかないな……どうやら私がすることは全部裏目に出るようだ……」
由羅が自分の顔を撫でると、ふっと自嘲気味に笑った。
「いや、あの……」
変な思い込みを取っ払って考えれば、たしかに由羅がしてくれたことは……オレのことをものすごく気遣ってくれていると思う。
っていうか……
仕事関係でもいいから傍にいたくて……?
全部オレのため……?オレのことが好きだから……?
改めて由羅の言葉を思い出して、なぜか顔が一気に熱くなった。
なんだこれ!?
別にそんなの……由羅には初めて言われたわけじゃねぇのに……
***
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