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両手いっぱいの〇〇 第184話

「綾乃、どうした?具合でも悪いのか?」 「へっ!?」 「なんだか顔が赤くないか?熱でもあるのか?風邪か!?やはり今日はもう帰った方が……って、いや、むしろ病院にいるんだからこのまま診てもらえばいいじゃないか!看護師に聞いてみるか?」  由羅がアタフタしながらオレの顔を触ってきた。  ちょっとその慌て具合に笑いそうになる。 「んん゛、だいじょうぶっ!!ですっ!!」  いやほんとに全然大丈夫だから、とりあえず、触るのを止めろっ!! 「だが、本当に熱いぞ?」 「これは、お前がっ……」 「え?」 「由羅が触ってるからだっ!ちょっとこの手、止めっ……!!」 「……私が触ってるから?」 「そうだってばっ!おい、だから離せよっ!?」 「……いやだ」 「なっ!?」  由羅の手を必死に剥がそうとするオレと、構わずにオレの顔をペタペタと触って来る由羅でしばしの攻防を繰り広げる。  なぁ、オレたち一体何やってんの!? 「あ~もうっ……」 「なぜ私が触ると熱が出るんだ?」  由羅との攻防に疲れたオレが休憩をしていると、由羅が真顔で聞いてきた。  そんなのオレが知りたいっつーの!! 「知らなっ……」 「綾乃、ちょっとは考えろ」 「はあ!?考えてるっ!オレだって考えてるけどわかんねぇんだもんっ!!」 「綾乃?」  ちゃんと考えてるっ!!だってこの一ヶ月、夜はずっと暇だったから……  家を出ろって言われた時、早く帰れって言われた時、オレはもう必要ないんだって……嫌われたんだって考えた時……なんで胸が痛かったのか……  由羅と話が出来なくなったこと、朝起きて隣に由羅がいないこと、莉玖の声がしないことがなんでこんなに淋しいのか……  由羅なら平気だったのに、リョウにキスされた時に気持ち悪かったのはなんでなのか…… 「オレだってこの一ヶ月いろいろ考えて……」 「おい、ちょっと待て。最後の一言に全部持っていかれたぞ」 「なにがっ!?」 「……いや、すまん。とりあえずそれは後でいいか。あ~……うん、で?いろいろ考えて?」 「え?えっと……だから、その……」  何を話していたのか自分でもよくわからなくなった。   「オレだっていろいろ考えてるってことだよっ!」 「うん、それで、綾乃の結論は?」 「結論……?」  そんなもんわかれば、今悩んでないと思うんですけどぉおおお!? 「まぁそうだが……ちなみに、私も同じような気持ちになっていたぞ?」 「え?」 「お前がいないと寂しい。どれだけ仕事で疲れていても、お前から莉玖の話しを聞くあの時間が私にとっては癒しだったからな。莉玖のこともいろいろと知ることができるし、それを楽しそうに話すお前を見ているのも楽しい――」  そう言いながら由羅がふわっと微笑んだ。 「そっ……っ!!」 「そ?」  そうやって急に笑うなあああああああああああっ!!!  思わず由羅の顔面を手のひらでペチンと叩いた。 「ぶっ……おい、綾乃……?」 「あ、ごめん。つい……」 「どうして、つい……で私の顔が叩かれるんだ……それとも、そんなに私の顔を見たくないか?さっき言っていたのと矛盾しているように思うんだが……」 「いや、そうじゃなくて……お前が笑うとオレの心臓がなんか変になるから……オレの心臓のためにお前は急に笑うな」 「どんな理屈なんだ。じゃあ私はお前の前ではずっとしかめっ面でいればいいのか?」 「え……」  ずっとしかめっ面……? 「それはヤダ」 「綾乃……それじゃあ私に一体どうしろと!?」 「わかんねぇよ!でも……お前が笑うのは嬉しいし、好きなんだけど、でもドキドキするから笑わねぇで欲しいし、でも仏頂面は嫌だし……」 「ん?綾乃、もう一回」 「え?何が?」 「今言ったこともう一度言ってくれ」 「え?だから、仏頂面は……」 「その前から」  その前?……ってオレ何言った……? 「え~と……お前が笑うのは嬉しいし、好……」  あ゛…… 「す?」 「……きなんだけど……」 「私好きだぞ」  由羅がにっこりと笑った。 「違っ、これはお前が笑うのがってことでだな!?あの……」 「ほう?」 「にやにやすんなっ!!」 「ぶっ!」  気が付くとまたオレの手が由羅の顔面を叩いていた。  なんかごめん……ホントに悪気はないんだってばっ!!  この手が勝手にぃ~~!! ***

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