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両手いっぱいの〇〇 第186話

「はははっ!やってやったぜっ!!」  病院から由羅家に帰宅したオレは、ひたすら掃除をしまくった。  しばらく掃除出来ていなかったキッチンの換気扇や、排水口、窓ふき、お風呂掃除……無心になるために、一心不乱に掃除をしていた。  そして、およそ3時間後、オレはリビングにパタリと倒れ込んだ。 「どうだ!ピッカピカだろ~!?」  オレは誰もいないはずのリビングで叫んだ。 『ほ~んと!ピッカピカ!すごい勢いだったわね~』 「まぁな」  オレは目を閉じたまま、莉奈に返事をした。  うん、どうせ来てるんだろうなって思ってたし…… 「莉玖は?」 『もう寝てるわよ。今日も従兄たちにいっぱい遊んでもらってご機嫌よ』 「そっか……」  杏里さんの家では普通に眠れるんだよな~…… 『あの子、姉さんのところではすごくいい子なのよね』  莉奈がオレの心を読んだかのように話し始めたので、一瞬ドキッとする。 「あぁ、そうみたいだな」 『いい子過ぎるのよ。こんなにしょっちゅうお泊りしてたら、姉さんのことを母親みたいに思っても仕方ないと思うんだけどね?でも、あの子ってば……ちゃんと姉さんは自分のママじゃないってわかってるみたい。だってね、双子ちゃんが姉さんのところに甘えてきたら、莉玖が先に抱っこしてもらってても姉さんの膝から下りて双子ちゃんに譲るのよ?』 「へぇ……そうなのか。オレが歌音(かのん)詩音(しおん)と遊んでたら、双子を押しのけてオレの膝に乗ってこようとしてたけどな~……」 『だから、綾乃くんと兄さんのことは“莉玖のもの”だと思ってるんじゃない?二人のことは誰にも渡したくないって感じ?』 「……オレも……?」  自分が莉玖にとって、母親……みたいな存在になっている自覚はあったけど……  由羅が言ってたのはこういうことなのかな……?  オレが莉玖にとっても特別な存在になってるって……  ヤバい、顔がにやける……!  だから、親より好かれるのは保育士としてはダメなんだってばっ!!  でもでもやっぱり……嬉しいっ!! 『綾乃くん、ところで晩ご飯は食べたの?ずっと掃除してたから食べ忘れてない?』 「え?あぁ、そうだな……食うか」  オレは、起き上がって手を洗うと、病院からの帰り道に買って来た弁当を食べた。  本当は今日も杏里さんは家に呼んでくれていた。  オレの分も夕食を作っておくから、由羅のお見舞いが終わったら杏里さんの家に来るようにと。  由羅も杏里さんも、いつもオレに優しい。  下心のある由羅はともかく、杏里さんまで友達や家族みたいな扱いをしてくれている。  ここに来た経緯はメチャクチャだったし、由羅との出会いも最悪で……  良い事なんて何もないと思ってたけど……   『どうしたの?ぼ~っとしちゃって』 「ん?いや……」  そういえば……莉奈から始まったんだっけ?  あの時、莉奈の声がして莉玖の存在に気付いたから……今があるわけで…… 「人生ってわかんねぇもんだな~って思ってさ」 『やぁね~、そういう言葉はもっと年を積み重ねてから言うものじゃないの?』 「それもそうか。オレなんてまだまだ若造だしな」 『綾乃くんって時々言い回しが古いわよね……そもそも、自分のことを若造って言うのはどうなのかしら……』 「ぅ……」  だって、若造って若者のことじゃねぇの!?  昔しょっちゅう近所のおっさんたちに「若造のくせにっ!」って言われたけど……  てっきり「最近の若い者は……」と同じだと思ってた…… 『あ~……まぁ似てるけど……若造ってどっちかっていうと年上の人が自分より若い人をあざけって言う感じじゃないかしら?』 「へぇ~……」  って、なんでオレは幽霊から日本語講座を受けてるんだ!?  そんなことより……  時計を見ると、もうすぐ21時。 「さてと……帰って寝よ」  いっぱい掃除して疲れた。 『あら、帰るの?』 「うん、だってもう飯も食ったし、風呂は掃除する時についでにシャワー浴びたし……」  っていうか、飯も本当は家に帰ってから食うつもりだったんだけどな。  弁当なら家でも食えるし…… 『そうじゃなくて、ここで寝ればいいじゃない』 「え!?それはマズイだろう!?だって家主がいないのに……」 『何言ってるの?家主がいないのに掃除しまくってたじゃない』  莉奈がコロコロと笑った。  それはそうだけど……  まぁいいか……どうせ明日はシーツを洗濯してやろうと思ってたし…… 「わかった。んじゃ泊ってくか――」 ***

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