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両手いっぱいの〇〇 第187話

 ――そう、明日はこの部屋のシーツを洗濯してやろうと思ってだな……?  オレが使ってた部屋のシーツはもう洗ってるから、わざわざシーツをかけてまた洗ってってするのが面倒だなって思っただけで……  だったら、由羅の部屋のベッドを使って明日洗おうって……な?  だからこれは別に深い意味はねぇんだよ!? 『そんなに言い訳しなくても、私は別に何も言ってないじゃないの。むしろ、ここで寝るように言うつもりだったし』 「え、そうだったのか?」 『当たり前でしょ?ほらほら、早くごろんして?』  当たり前? 「なんで莉奈がそんなに嬉しそうなんだ……」  オレは莉奈に促されて、由羅のベッドに寝転んだ。  ……あ~そうそうこのベッドめちゃくちゃ気持ちイイんだよな~……それに……  由羅の匂いがなんか安心す…… 「ぅわあああああっ!!」 『な、なに!?どうしたの!?』  思わずソッコーで寝落ちしそうになっていたオレは、唐突に由羅の宿を思い出した。  くっそぉおおおおお!!  だから、オレの悩みを増やすなよぉおおおおおおお!!  一心不乱に何かに打ち込んで無心になっても、永遠にそれを続けることはできない。  それを止めたら結局は……思い出しちゃうんだよおおおおおっ!!   「あ~もうっ!!なんなんだよ……ホントあいつわけわかんねぇ……っ!!」  そんでもってオレはもっと……わけわかんねぇ……っ!  奇しくも、リョウのおかげで気付いた。  いや、本当はもっと前から気付いていたのに、気付いていないふりをしてきた……  たぶん、オレも……恋愛的な意味であいつのことが好きなんだ。  あいつに対するオレの“好き”はきっとそういうこと……  リョウのことは、どれだけ“好き”でも、幼馴染。それ以上の存在にはならない。  だから、キスをされた時も抱きしめられた時も……リョウじゃダメだったんだ……  でも、いくら好きになっても……あいつの恋愛観にはついていけねぇし……  だけど……ここに誰か他のやつが寝るかもしれないのは……イヤだ……  うわああああっ!!オレうぜぇえええええええっっ!!  っつーか、気持ち悪いっ!!   『ちょっと、綾乃くん、大丈夫!?』  ベッドの上で一人悶えてバタバタしていると、莉奈に本気で心配されてしまった。 「莉奈……オレ……坊さんにでもなろうかな」 『なんでそうなるのよ!?』 「なんかもう……煩悩を取っ払って無の境地とか言うやつになって一人山の中で修行しながら一生を終えた……」 『はいはい、ちょっと落ち着きなさいよ!一体何があったの?』 「……あのさぁ……“好き”って何?」 『……え?え~と……何って聞かれると難しいわね……』 「莉奈はさ……その……恋とかしたことあるんだろ?」 『あ~……そりゃまぁね……今となっては最悪な思い出だけど、あの頃は……彼のことが世界で一番素敵な男性だと思ってたのよね~……私も世間知らずだったし?自分ではそうは思ってなかったけどやっぱりちょっと世間に疎かったんでしょうね……少し優しくされたくらいで舞い上がっちゃって……「好きだよ」とか「結婚しようね」とか、そんな言葉を本気で信じて……まさかあんなに簡単に捨てられるだなんて思ってもなかったし……っていうか、捨てられたことよりも、その後よ!!許嫁がいるのに、私に愛人になれとか、子ども産めとかわけわからないこと言って来て……女を一体なんだと思ってんのよっ!!――』  オレの一言のせいで、莉奈が莉玖の実父のことを思い出して久々にヒートアップした。 「ちょ、待って!ごめんっ!莉奈さん、落ち着いて!?部屋の中が……っ!!」  莉奈の感情が昂るといわゆるポルターガイストみたいな状態になる。  由羅がいる時は由羅の守護霊の力である程度抑えられているが、今は由羅がいないので……   『あらやだ。ごめんなさいっ!!』 「いや……オレが変なこと言ったせいだし……ごめん」 『え~と……どうしよう……』 「大丈夫だ……壊れたものはたぶんない……はず……何とか戻してみる」  オレは家ごとシェイクでもされたような由羅の部屋の中を茫然と眺めつつ、腕まくりをした。  とりあえず、他の部屋も確認してみたが、荒れているのはこの部屋だけだった。  それがせめてもの救いだな。  普段は軽いものだけだが、今日は……ベッドやタンスなどの重たいものまで、微妙に位置が変わって……何より下に敷いていたカーペットもぐちゃぐちゃ……  これ、オレひとりでどうにかなるのかな……  莉奈は力をコントロールできないので、基本的に暴れることにしか使えない。  せめて持ち上げたものを元の位置に戻してくれればいいのにいいいい!! 『綾乃くん、本当にごめんなさい!あの、何か手伝えればいいんだけど……あ~ん、もう!なんでこういう時に使えないのかしらっ!!』  一応莉奈もどうにかして手伝おうと頑張ってくれているようだが、ハンカチ一枚持ち上げることが出来ない。  まぁ、幽霊だしな……   「いいよ、いいよ。気にすんな。オレも何かしてた方がほら、無心になれていいし……それより嫌なこと思い出させちまってごめんな」  それからオレは朝までかかってなんとか半分ほど元に戻した。  カーペットを戻すのが一番苦労したが、ちょっとずつベッドやタンスを動かしつつ…… 「よ~し、これで何とかなるだろ……後はまた今夜……あ~疲れた……」  由羅のところに行くまでにまだ少し時間があったので、オレはベッドに倒れこんだ。  ちょっとだけ休憩してから行くか……ちょっとだけ……  1時間後にアラームをセットして、目を閉じた。  ――そして次にオレが目を開けたのは、およそ12時間後だった。 ***

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